『呪いの器』|【名作長編 祟られ屋シリーズ】

『呪いの器』|【名作長編 祟られ屋シリーズ】洒落怖・怖い話・都市伝説 祟られ屋シリーズ

日本全国で、高齢の資産家宅や旧家の蔵、寺や神社を荒らし回っていた韓国人の窃盗団がいた。
この窃盗団は「流し」の犯行の他に、「顧客」の「注文」に応じた仕事もしていたらしい。
日本の美術品、特に仏像や刀剣の類は韓国内や欧米諸国で熱心なコレクターがいるのだという。
山道や街道沿いに建てられた、ありふれた旧い地蔵などにもかなりの値が付くという事だ。
どうやら問題の鉄壷は、ある人物の「注文」により盗み出されたものだったらしい。
だが、「仕事」を終えてすぐにその窃盗団に異変が起こった。
窃盗団のメンバーが、僅か数日間で次々と怪死を遂げたのだ。

柳の元に鉄壷を持ち込んだのは、窃盗団の最後の生き残りである朴という男だった。
朴は日本国内で逮捕暦があり、他の仕事で下手を打った為に身を隠しており、詳しい事情を知らなかった。
朴は盗品の隠し場所から、他の数点の美術品と共に鉄壷を持ち出し、伝のあった柳の元に持ち込んだ。
相次ぐ仲間の死と、自分の身辺に迫る気配に恐怖を覚え、高飛びしようと考えたのだ。
盗品ブローカーである柳は、朴の持ち込んだ美術品を買い入れた。
朴の持ち込んだ盗品の中で、問題の鉄壷は最初「ガラクタ」扱いだった。
しかし、朴が盗品を持ち込んですぐに鉄壷を買いたいという人物が現われた。
その男の提示した金額はかなり破格のものだった。
だが、柳は「商売の鉄則」として、仕入れた盗品を特定の業者以外の第三者に直接転売する事は無かった。
何処で柳が盗品を扱っている事や鉄壷の存在を知ったのか謎であったし、金を持ったまま首を吊った朴の死が柳を慎重にさせた。
柳は鉄壷について同業者に照会し、購入希望者の背後を探った。

柳の照会はシンさんの元に届き、とんでもない代物である事が判明した。
それは、人の触れてはならない「呪いの器」だったのだ。
シンさんは、壷が朝鮮の呪物であったことから、詳細を知るために、ある人物に壷について問い合わせた。
その結果、鉄壷が、シンさんやキムさんの当初の予想をはるかに越える危険な物であることが明らかになった。
この鉄壷の用途は、「蟲毒」などという生易しいものでは無かったのだ。

鉄壷が安置されていたのは「***神社」という、人に忘れ去られた、無名の小さな神社だった。
忘れ去られたと言うのは正確ではない。
触れ得ざる物を人界から隔離する為に、人目から隠して建立された神社だったのだ。
其処までして封じようとした鉄壷の正体は何だったのか?

鉄壷の正体は「炉」だった。
蓋を開け、中に「あるもの」を封じてから蓋を閉じ、燃え盛る炎の中に入れるのだという。
その為に壷は鉄で作られ、底に足が付けられていたのだ。
鉄壷の中に入れられた「あるもの」とは何か?
それは人間の「胎児」だった!
妊婦を凌遅刑に掛け、その子宮から取り出した胎児を鉄壷に入れて焼いたと言うのだ。
その数、実に12人!
年に一人、12年の時を掛けた大掛かりな呪法だった。
鉄壷の丸い形は女の子宮を表していたのだ!
11人の女は、さらわれたり、売られたりして来た哀れな女達だった。
呪術師に慰み者にされ、子を孕んで時が満ちると切り刻まれ、我が子を「鉄壷」で焼かれたのだ。
その、恨み、怨念は如何ばかりのものだっただろうか?

だが、12人目の最後の儀式は更に恐ろしくおぞましかった。
12人目の女は、12年間呪術を行ってきた呪術師の実の娘だった。
犯された娘の妊娠が判ると、呪術師は彼の息子によって凌遅刑に掛けられた。
時間を掛けて切り刻まれた呪術師が息絶えると、父を殺した息子の呪術師は儀式を行った。
それは「反魂」の儀式。
殺された呪術師を娘の腹の中にいる胎児に「転生」させる儀式だった。
所定の時が満ちると、娘は11人の女達と同様に凌遅刑に掛けられ、呪術師の転生児である胎児は子宮ごと鉄壷に封じられた。
蓋は二度と開かないように封印され、更に10年近く呪術師の家に安置されたのだと言う。

醜悪で余りにおぞましい行いだが、「この手の」呪いは、やり口が醜悪で無残であるほど効力が高まるものらしい。
鉄壷が安置されていた間、呪術師の一族の人間や村人達は一人また一人と死んで行った。
村が殆ど死に絶えたとき、術を仕上げた呪術師は鉄壷を持ち出して日本に渡った。
日本に渡った呪術師には姉がいた。
妹と同様に父親に犯されたが妊娠せず、その後も生き残っていたのだ。
彼女は弟を追って日本に渡った。
彼女の弟である呪術師は、鉄壷を持ったまま身分を隠して日本各地の朝鮮部落を渡り歩いた。
本国から身一つで渡ってきた同胞を朝鮮部落の人々は匿い助けたが、呪術師の行く先々で多くの朝鮮人が死んだ。
弟を追い切れなかった姉は、ある朝鮮部落の顔役であった宗教家に呪いの事、弟の事を相談した。
自分の手に余ると考えた宗教家は、ある日本人祈祷師の元に彼女を連れて行った。
彼女は韓国で行われていた儀式やそれまでの事、一族の呪術や、鉄壷について知っていることの全てを祈祷師に話した。
彼女の話した言葉を日本語に翻訳したものの写し、それが木島が持ってきた古いノートだった。

鉄壷、それは「呪いの胎児」を育てる為の「子宮」だった。
そして、胎児を育てる「養分」となるのは「生贄の命」だった。
「生贄」とは?
それは、呪術師の同胞であるはずの朝鮮人だった。
儀式を完成して10年近くも壷が韓国に置かれ、壷を持った呪術師が日本国内の朝鮮部落を渡り歩いたのはなぜか?
それは、生贄の命を子宮たる鉄壷に吸い上げる為の、言わば「根」を張り巡らせる作業だったのだ!
・・・鉄壷の中の「呪いの胎児」が、標的を呪い殺せる強さへと育つまで、生贄の民であり、同胞である朝鮮人の命を吸い上げようと言うのだ。
その数は何万、何10万。
あるいは、更に多く・・・。
そこまでしなければ呪いを成就できない「標的」とは何だ?

木島は淡々とした口調で語った。
この呪いは特定の個人ではなく「皇室」を標的とし、124代に渡って継続してきた皇統を絶つことによって日本と言う国を滅ぼそうとしたものだと。
俺は木島に言った。
「蟲毒や生贄を使って、一族や血統を滅ぼす呪法があるのは知っている。
しかし、この呪法のやり口はいくらなんでも無茶苦茶だ。
大体、無差別・無制限に生贄を必要とするなんて、そこまでする必要があるのか?
仮に皇室が滅んだからと言って、それは日本滅亡とは直結はしないだろう?」
シンさんとキムさんが呆れ顔で俺の顔を見て、マサさんは深いため息を吐いた。
そして、キムさんは「お前、本当に何も解ってないんだな。まあ、日本人だから無理も無いのかもしれないな」
そう言うと、この呪法が皇室・皇統を絶とうとしたことの意味を語り始めた。

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