【優しい話】『大雨の時』など短編10話【11】 – 心温まるちょっといい話 まとめ

【優しい話】『大雨の時』など短編10話【11】 - 心温まるちょっといい話 まとめ 優しい話

 

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優しい話 短編10話【11】

 

 

1

俺はある施設に見習い研修生としてアルバイトをしていたことがあった。
将来は国家資格を取って無職の状態を抜け出し、食えるようになるために
要領よく実習をこなすことだけを目的としていた。
患者さんの前では愛想笑いをして、ただひたすらイイ人を演じていた。
たいていの患者は、親切で気のいい人だったので、
俺が調子のいい奴だと内心は思っていても、表面上は合わせてくれた。

けれど、そんな俺にも困難がふりかかった。
それは、ある高齢の患者さんとの出会いだった。
患者は70代で体はボロボロ、食事にも、シャワー浴にも手間がかかった
うえに、話を聴いてくれない頑固さがあって、職場の人からも嫌われて
いた。「なんだ、あのジジイ、横柄だな。」と。

ジジイは態度がでかくて人使いが荒かった。
スタッフはジジイの介助を俺に任せることが多く、自分が嫌われている
ことをジジイ自身も知っているようだった。
「俺なんて、70過ぎてるんだから生き返らせてどうするんだ。
はやく死ねばよかった」
など、憎まれ口を叩いて、周りを苦笑させていた。

俺もこのジジイは、なぜこんなに屁理屈ばかり言って人の言うことを
聴いてくれないのかが疑問に思えていた。俺の作り笑いもジジイの前では
通用しなかった。
「こんな変なジジイは、どうせ今までろくな人生を歩んでこなかったんだ
ろうし、酒ばかり飲んで、変なもの食ってるから病気になったんだろう。」
と勝手に想像し、お見舞いに来る人が少ないのも、家族にも見捨てられて
いるんだろうな。こんな哀れなジジイにはなりたくないから、
はやく国家資格とって稼げるようになろうと考えていた。

そんなある日、ジジイの娘や孫がお見舞いに来た。

ジジイの娘と孫は、ジジイに似つかず立派な身なりをしていて
挨拶もていねいだった。

娘さんは言った。
「いつも、うちのお父さんがすいませんね、頑固な人で。
これでも、若いときは近所でも評判の美男子だったんですよ。
男手ひとつで私たち姉妹を育て上げて、こんなに体がボロボロ
になるまで働いて。
もっとそばにいてあげたいのだけれど、私も仕事が忙しくて
なかなか、施設に来ることができないのよ。

まだ私が中学生のときに、お母さんが亡くなってしまって
それ以来、お父さんのお酒の量が増えてしまって、
こんなになるまで働いて、
とうとう、治らない病気になってしまった。
親不孝って、私たちのことだわね。」

 

2

涙を誘う程じゃないけど自分の嬉しかった話。
旅行に行った時、ガイドブックに載っていた陶器のお店の器が凄く素敵で、
何とか欲しくてそのお店に向かったが、自分が思っていた方角じゃなく、
色んな人に聞いてようやく辿りついた。
目当ての器はやっぱり良かったが、お店自体がとてもじゃないが、
自分が購入出来るような金額の商品は置いていなかった。
出迎えてくれたお店の方に恥ずかしながらその旨を告げて、
見せてもらうことだけにした。「高くてとても自分じゃ購入出来ない」と
言ったにも関わらず、探し当てて来店したことをとても喜んでくれて、
わざわざコーヒーを点てて入れてくれ、その地方のあれやこれやを話くれた。
商売を超えた親切にとても嬉しく、いい旅になった。

 

3

18で社会にでた頃に帰りの電車の中でとても気分が
悪くなり、車内で嘔吐してしまった。
とりあえず下車しようと思い、降りて二、三歩歩いた瞬間に
倒れて意識がもうろうとして
もう駄目だ。これ死ぬわと思っていると
男性が二人介抱してくれて、上着を寒いだろうからと渡され
そのまま救急車に乗って病院に行く事になった。
でも、その上着は何故か処分されてしまった。
誰が処分してしまったのは何となく予想が付くんだけど
(うちの母親がどうぢようも無い毒なので)
連絡先を聞いておけば良かった。
駅は浦安か葛西だったかな。
もう、5年も前の話ですが、本当に感謝しています。
ありがとうございました。
上着、返せなくてごめんなさい。

 

4

奈良に修学旅行に行った時。
友人たちと歩いていたんだけれども、道が分らなくなってしまった。
細い路地の交差点で、どちらに曲ればいいかわからずにきょろきょろしていると、
地元のおじさんが気づいて道を教えてくれた。

その後、正倉院を見に行こうとしたが、その日は休日で正倉院は開いていなかった。
閉じた門の前で友人達と途方にくれていたら、やはり地元のおじさんが現れて、
正倉院の裏の坂を上がると建物だけなら見ることが出来ると教えてくれた。
坂の上から正倉院を見ていると、私たちの後ろを先ほどのおじさんが通りがかり、
「な、見えたやろ?」
と言ってにっこり笑って去って行った。

私たちの地元もまた観光地で、修学旅行生が多い。
もし、地元で迷っている修学旅行生がいたらあのおじさん達のように親切にしたいと思う。

 

5

よく痴漢に遭うんだけど、こないだ尻に股間を押し付けてくるオヤジに
遭遇した時は、近くで向かい合って立ってたおばちゃん二人が
「あなた、こっち来なさい」って言って間に引っ張り込んで守ってくれた。
しかもおばちゃん二人は知り合いでも何でもなく、その場でタッグ組んで
守ってくれたらしい。(一人が同じ駅で降りたけど、挨拶的な事してなかった)
おばちゃん達、あの時は本当にありがとうございました。凄く助かったし、
嬉しかったよ。

 

6

私は姉と二人暮し。
先日、一足先に仕事から帰ってクーラーつけてだらだらしてたら、物凄い形相の姉が帰ってきた。
自室に閉じこもり、ご飯係の私がごはんだよーとか声をかけても全然出てこない。
仕事先で何か嫌な事でもあったのかと心配して声をかけるものの、出てこない。
聞き耳を立ててみたらああー、とか。ううー、とかなんか変な声が聞こえる。
なんかばすばす音もしてる。枕叩いてる?

で、ようやく落ち着いてから聞いた話。

今日、街中を歩いていたら、女の人が壁に手をついて(自分の)足を覗き込んでいた。
何しているのかな、と思ってみたら、どうやら靴擦れをしちゃったらしい。
遠目からでも真っ赤になってて、痛々しいのが解ったらしい。
そこは街中なんだけど、薬局はかなり遠くて、ついでにコンビニもないような所。
で。諦めて歩き始めた女の人を見て、姉は大急ぎで鞄から絆創膏を取り出して、ほぼ無言で突き出したんだそうな。

「でも、とにかく渡さなきゃ!としか頭に浮かばなかったから、はじめ無言で突き出しちゃって」
「「え?え?」とか戸惑わせちゃって。「あ、あの、よかったらっ!」とか叫んで、逃げて来ちゃったよ~」
「あああもう絶対変な人だと思われてるどうしよ~」
「使ってくれたかなあ。使ってくれたらいいんだけどなあ」
「あああ恥かしい~。なんでもっとスマートに出来なかったかなあ!」

で、自室に帰るなり枕を恥かしさのあまり殴りまくってたそうだw
顔真っ赤にしながら素麺を啜る姉がかなり可愛かった。
きっと女の人、嬉しかったと思うよ。

 

7

夜遅い時間に自転車のチェーンがはずれたので屈み込んでたらおじさんが「どうしたのかな!」ってやって来た。
かなり酔ってる風でイヤだなーと思ってたら「あーチェーンねー」と言ってさっと治してくれた。
お礼を言って、手を汚したのでハンカチを渡そうとしたら、
「いい、いい!じゃ!」ってズボンで拭いて去って行った。いい人だったよ。ごめんよ。ありがとう

 

8

今日の会社の飲み会での出来事。まだ酔ってるから文章変だったらごめん
当然俺はブサメンで会社の女の子からは避けられててね
トイレから戻ってきて戸をあけようとしたら

「いい人だけどとかありきたりな理由言われて振られそうなタイプw」
「普段良い人ほど、実際むっつりだったり根に持つからねー。実際は腹黒いこと多いよw」
「あるあるwwwあーゆー人ってストーカーになりそーw」
「Kさん(職場でモテモテのイケメン)みたいな普段はクールだけど、あのさり気無い優しさが本当だよねーw」

と、俺の悪口で女の子達が盛り上がってるわけだ
せめて目の前で言ってくれれば笑い話にできるのに、いないとこでこういう話されると場に戻り辛いじゃん?
どうしようかなぁって考えてたら、話題に上がったKが

「お前ら女って本当にバカだな。普段冷たくしてちょっと優しくすると、本当はいい人とか言い出すし。
お前ら普段Tのことキモイキモイって言ってる癖に、仕事じゃ頼りっぱなしじゃねーか。
バカ相手に根気よく説明するのが、どれだけ忍耐力のいることか分かるか?
バカだからわかんねーだろ。バカは人から教わることはあっても、人に教えることはないもんな。。
お前らバカを1から面倒見てくれてるTと俺を比べて俺のが優しいとか、 バカの優しさの定義ってどんなだよ。
バカって悩み無さそうで羨ましいと想ってたけど、あいつの優しさが分からないとか不幸すぎる」

職場の女の子達に恨みはないけど(慣れてるし)、Kがそんな風に思ってくれてるのがすげー嬉しかった。
その後2次会なんて縁がない俺に、Kが二人で飲み直そうと行き着けのバーに連れてってくれた。
酔いがまわってよく覚えてないけど、俺のこと尊敬してるとか男として惚れてるとかめちゃめちゃ褒められた。
女にモテたことはないから分からないけど、男にモテるってのもいいもんだ!

 

9

こないだの大雨の時、何とか駅には着いたけど駅から自転車で5分と立たずに膝上まで冠水。
とても漕げたものじゃない。しょうがなく押して歩いてると横にダンプがやってきて、
「どこまで行かれるとですか?危ないけん送りますよ!」と声掛けて貰った。
遠慮したり意地張れる状況じゃなかったんで素直に乗せて貰った。
荷台に自転車を上げてもらい、自分も上がろうとしたら「こっちこっち」と助手席に。
元々座ってた人は「濡れて汚れるのが仕事ですから」と荷台に上がってしまった。
中に入るとタオルを差し出され、流石にそれは申し訳ないと断っても、
「ここまで降るともう俺らが使っても意味ないですから」と放り投げられ、またも有り難く使わせて貰った。

無事に家まで送り届けてもらった後、家の前に土嚢まで積んで貰った。
荷台に砂と袋を積んでこうやって巡回していたらしい。
すごい手際で積み上がり、敷地に入り込んでいた水もあらかた掻き出してもらった。
普通のスコップで水をすくう事が出来るのは驚異的だった。

温かいものでも用意したかったけど、
「この辺は周りより土地が低いんで、今後の勢いに注意して下さい」と言って行ってしまった。

こんな時でも誰かの為に頑張ってくれる人がいると思うと、頭が下がります。

 

10

こないだ空席がちらほらある電車に乗ってたら、リクルートスーツの女の子が乗ってきた。
細身長身でかわいい子。
席に座ると、ちょっと疲れた顔で手帖ひらいてた。
俺も氷河期に就活した身だから「こんな時期まで、たいへんなんだなーがんばれよ!」とか思ってみてた。
その車内にはコーヒーの空き缶がずっとコロコロ転がってて、
みんな自分の足下に缶が転がってきたら、足で軽く蹴って他の方向に転がしてた。
何回か空き缶が行ったり来たりしてるうちに、そのスーツの子の足下に行った。
その子は手帖をパタンと閉じて缶をサッと取り、ちょうど降りる駅だったらしく、缶をもったまま降りてった。

なんかそのさりげない所作が美しくてポカンとしてしまった
内定でてるといいな。

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