優しい話 短編10話【15】
1
仕事の関係でこのところ宅配便が多くなった。留守にしたときは
また電話したり、不在になって、夜遅くなったりとなるんだけど、
一昨日は買い物で2時間ほど留守にした。ちょうど、帰り道、
狭い道で宅配業者の車に道を譲ったら、窓を開けるので、譲ったお礼で
そこまでと思っていると、荷物きてます、回りますね、と言った。
私は顔を覚えていないお兄さんだったけど、うれしかった。
エコシール張ってある車なので覚えていたのかな、どっちにしろ
心使いがうれしかった。待っていた品物なので本当によかった。
ありがとうでした。
2
職場の飲み会での話。
調子に乗ってガンガン飲んでたら、見事に回ってヘベレケ状態に。
ゲロ吐きそうになってトイレに駆け込むも、間に合わず入ったところでぶちまけた。
あまりの気分の悪さに立つことすらできず、そのままうずくまっていた。
しばらくして、女の先輩がトイレにやってきた。(店のトイレは男女兼用)
俺とゲロをみて一瞬ビビったみたいだけど、すぐに気遣って助けてくれた。
ぶちまけられた大量のゲロを、躊躇いもなく、そこらにあったトイレットペーパーなんかだけで処理。
俺の服から床の上まで、全部綺麗にしてくれた。
動けない俺は呆然とされるがままだった。
後日改めて先輩にお礼をもって謝りにいった。
他人のゲロなんて近寄りたくないものナンバーワンなのに、ホントすいませんって頭下げる俺に、
「困ったときはお互いさまだから」と小さく笑って、こんな話をしてくれた。
その先輩、子供の頃体が弱くて、よく学校で体調を崩したらしい。
小学生の時、授業中に気分が悪くなって教室で机にゲロ吐いた。クラス中もう大騒ぎ。
トイレに行ってしばらく休んで口をゆすいだりした後、教室に戻ったらゲロはそのまま。
「自分で吐いたものは自分で片付けなさい」って担任に言われて、自分で片付けた。
気分が悪くて辛くて、人前で吐いたのが恥かしくて、だけど誰も助けてくれなくて、惨めで悲しくて。
あの日俺をみて、その時の自分を思い出したんだって。
子供と大人。体調不良と酔っぱらい。状況が違いすぎるよ。
しかもこの人、自分は助けてもらえなかったのに。
全俺が泣いた。
3
息子なんだが、中学の卒業式の時の話
不登校の子が学校までは来たが、どうしても体育館には行けず
式終了後に職員室で卒業証書授与になった
式後、体育館から出た生徒達が中庭に集まり、肩なんか組んで皆で歌を唄出した
その中に息子がいない。トイレかと思ったら、2~3人で職員室の前に立ってた
その内に不登校の子が授与を終えて出てきたら「おめでとう!」とその2~3人で拍手していた
いつもボーっとしてるけど、ちょっと見直した
4
中学のとき理科の実験なんかは出席番号順で四人一組になってやるんだけど
おれの班がヤバかった
A・・・登校拒否。たまに来てもずっと寝てる
B・・・軽い自閉症。いつもブツブツ言ってる
C・・・性同一性障害。声がスゲー小さい。そのくせあんまり聞き返すと泣いちゃうw
だもんで実験結果の発表とかはおれがやるしかないんだけど
おれ赤面症w誰だよ「特殊部隊」とかつけたのw
ある時いつものようにおれが発表してると、これまたいつものように何人かがからかい始めた
「耳まっかw」「ゆであがってるしw」とか、まあおれももう慣れてるつもりだったんだけど
その時はなぜか涙が出てきた。たぶん「なんでおればっかりこんなこと・・・」
ていう不満が頂点に達してたんだと思う
で「泣くなよw」「ダセェw」とかいわれてガマンできずに声だして泣いちまった
そしたら突然、Cがキレた
「いいかげんにしなさいよ!アンタらぶっころすわよ!!」
オネエ言葉だったけどすげえドスがきいてたwもろ腹にひびいて、涙もとまった
一同ア然。それまで寝てたAも目丸くしてるし、先生も口あけて見てるだけ
その後よっぽどビックリしたのかBが奇声を発して暴れ出し教室大パニック→そのまま授業終了w
それ以来「あいつらはそっとしておこう」みたいになって、からかわれなくなった。まさに特殊部隊並みのあつかい
不思議なことにおれはそれから徐々に赤面症がなおって、今接客業やってる
Cはその後女子から絶大な人気を得て、おカマちゃんwなどといじめるやつもいなくなった
「いつもありがとう」て言ってくれたけど、いやほんと、こっちがありがとうだったわ
あとハンカチもうれしかった
あれちゃんと洗って返したっけ?
5
普段は企業相手に機械なんかを修理する仕事をしているんだけど、
少し前に20年以上前の型の電動ドリルが
「動かなくなったのですが、まだ修理出来ますか?」
と一筆添えて、とあるメーカーの紹介で珍しく個人方から送られてきた。
故障原因はただの接触不良だったんで、ちょっと弄れば動くようにだけはなったけど、
かなりガタがきててまともには使えないし、それを直す部品も流石に打ち切りになってた。
「部品も打ち切りになっていますし、申し訳ないですが修理は無理ですね・・・」と電話したところ、
送り主の女性は「そうですか・・・」と暗い声。
しかし「とりあえず動くようにだけはなったんですけどね、まともには使えないですね」と言った瞬間、
「う、動くようになったとですかーーーーーー!!」と大絶叫。
そこからは打って変わってもの凄いテンションで
「ありがとうございます!!本当にありがとうございます!!御幾らですか!」と電話越しでも分かる位大はしゃぎ。
動くようになったとはいえ中途半端な修理で御代を戴く訳にもいかないので、
「いや、着払いでお返しさせて頂けるなら代金は結構ですよ?」と言えば、
「いやもういくらでも良いですから仰って下さい!!お願いします!!お願いします!!」と何故かお願いされてしまった。
その後「いや、本当に結構ですからw」「いや、お支払いしますから!!」の押し問答がしばらく続くと、
「そのドリルなんですけど私の父がずっと愛用していたものでして、
その父も今や半ば寝たきりで、俺もドリルも動かなくなったなんていい出すもんだから、
ドリルが動くようになれば父も元気が出るかなって思ったんですよ。だから、幾らでもかまわないですから仰って下さい」
とその女性。
まさかこの仕事しかも電動ドリルでこんなドラマみたいな話を聞くとは・・・なんて驚きつつ
「それなら尚更御題は結構ですから、代わりにお父様に宜しくお伝えください」
と、よく分からない文言で代金が要らないことをなんとか押し切り、
その後もしばらく、これでもかって位の感謝の言葉と賞賛を送ってもらって電話を切った。
いい人ってよりはすごく親思いの人だけど、俺も親を大事にしなきゃなーなんて思ったよ。
6
友達と電車に乗ってた時の話。
私は生まれつき左足に障害があって、膝が上手く曲がらないんで
歩き方がどうしてもぎこちなくなってしまう。
乗って一駅過ぎたら席が空いたんで、「あ、あそこ座ろうか」って
移動したら、私の歩き方を見た子供が
「ママ、あのお姉ちゃん歩き方変!」って言い出した。
まあ、子供だし、悪意は無いし、良くあることなんで気にもしなかったんだけど、
その子の母親は私を指差しながら
「○○くんも良い子にしないと、あのお姉ちゃんみたいに歩けなくなっちゃくぞぉ~」
って言い出した。さすがに悔しいやら悲しいやら変な気持ちになったんだが、
それを聞いた友達が
「人を傷つける悪人にこそバチが当たればいいのに・・」
「あんた、その発言が躾になると思ってんの?」
「この子だって好きでハンデ持ってるわけじゃないんだけど?」
とまくし立ててくれた。
母親は「なにその言い方!目上の人間に向かって!」ってファビョってたけど
周りにいた人にも窘められて最終的には謝ってくれた。
なんか救われた気がしました。
7
ある日の昼間にバスに乗ったら、近くでゲートボール大会があったせいで
お年寄りだらけだった。
そこに、病院前のバス停でこれまた大勢の妊婦が乗ってきた。
じいさんばあさんと妊婦たちの間で「ここに座って、どうぞ」
「いえ大丈夫ですから、座っててください」と譲り合い合戦みたいになってた。
最終的にじいさんの一人が「あんたらに譲るんじゃない、赤ちゃんに譲るんだ」
みたいなことを言って妊婦たちが座り、じいさんばあさんがニコニコしながら
何ヶ月?楽しみだねとか話しかけていて、温かい気持ちになったよ。
これが夕方のラッシュ時だったら殺伐としてたろうけど、昼間のバスはほんわかだ。
8
沖縄の繁華街にて。
(長くなったらごめんなさい)
仕事の終わった夕方、交差点で信号待ちをしていると、目の前にタクシーが停車。
降りてきたのは、白髪の老女。
タクシーから降りると、折りたたみ式の白い杖を伸ばす。
視覚障害者だった。
交差点に立つ白杖の老女、誰にでもなく、
「すみません、あの、すみません… 」
と声をあげる。
が、信号待ちをしている人達の誰も対応できない。
私も、どうにかしなくちゃ、と思いながらも固まっていた。
信号が青に変わっても、私を含めて何人かは動けずにいた。
向こうから横断歩道を渡ってきた、スーツ姿の男性。
白杖の老女に気づくとすぐに近くにきて、
「お困りですか?」
と声をかけた。
老女 「この近くの○○というライヴハウスに私を案内してくれませんか?」
男性 「(チラッと腕時計に目を走らせたけれど、すぐに)あ、偶然ですね、僕も○○へ行くところです、ご一緒しても構いませんか?」
老女 「あら、助かります。お願いできますか。」
その男性、老女の腕をとって、今来たばかりの横断歩道を引き返していきました。
男性、メチャクチャかッコよかった。
固まってなにも出来なかった自分、もちろん今は自己嫌悪で泣いてる
9
アメリカの高速を友達と一緒に私のぼろい車で走っていたら、
急にスピードが落ちアクセルを踏んでも進まなくなってしまった。
少し下りになっていたのを利用して一般道に下り、
後は友達と二人で押して民家の所まで来た。
なんか商売をやっていそうな家があったので、全然知らない家だったが、
ドアをノックしていたら後ろからそこの家族がみんなで丁度帰って来た所だった。
見ず知らずの私達がノックしていたにも関わらず、なんか用?って聞いてくれた。
事情を話すとだんなさんがさっそく車を見てくれた。
サスベンダーだっけかの三角になっているベルトが切れているらしかった。
その後だんなさんは、自分の車に私達を乗せて部品を買いに行ってくれ、
1時間半も掛けてその部品を交換してくれた。
お金を払うと言ったが、いいと断られた。
見ず知らずの人間にあそこまでしてくれるなんて。
動かない車を前に途方にくれていたので、本当に助かった。
その車では、別の時に本当にうっかりガス欠になり、
道路の真ん中に止まってしまったことがあった。
その時は1人だったが、後続車がどうしたの?と声を掛けてくれ、
車を端まで一緒に押してくれ、ガスを買いに行ってくれて補充してくれた。
色々とありがとうございました。
10
ブックオフの駐輪場で自分のバイクを出そうとして隣の自転車を倒してしまい、
そのまま5~6台ほど派手なドミノ倒し状態に。
あ~やっちまった…と思いながら倒れた自転車を引き起こそうとした所、一部始
終を見ていたと思われる若い学生さんと思わしき青年が駆けつけてくれて
「手伝いますよ~」と手伝ってくれた。
数分後全て元通りに直した後、お礼を言ったら「困った時はお互い様ですから」と
爽やかに彼は去って行った。
あの時の名も知らぬ青年よ、本当にありがとう。
そして何よりも、殺伐とした世の中の中でも捨てた物じゃないなと思えた瞬間だったよ。
…いやまあすんごいベタ過ぎる展開なんだけど、あまりに感動してしまってつい。
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