優しい話 短編10話【18】
1
俺には妹がいるんだが、これが何と10も年が離れてる。
しかも俺が13、妹が3歳の時に母親が死んじまったんで、
俺が母親代わり(父親は生きてるからさw)みたいなもんだった。
父親は仕事で忙しかったから、妹の世話はほぼ俺の担当。
飯食わせたり風呂入れたり、つたないながらも自分なりに一生懸命やってたと思う。
妹が5歳の時のこと。
保育園に妹を迎えに行ったら、なぜか大泣きしてやがる。
その日、お遊戯会の役を決めたんだが、妹はやりたかった役になれなかったらしい。
まあそれは仕方ねーだろ、あきらめろと最初は諭してたんだが
よく話を聞いてみると、どうもおかしい。
劇にはいろんな動物や妖精や探検家?が登場するらしく、
女の子の一番人気は妖精。妹も当然妖精がやりたかったようだ。
希望者多数だったので、決定は恨みっこなしのジャンケンにゆだねられるも、
妹は見事勝ち抜いて妖精5人のうちの一人に選ばれた。
ところが、先生が「○○ちゃん(妹)は動物の方がいいんじゃない」と妹を妖精役から外したという。
そんな馬鹿なと思いながら、俺はすぐに保育園に電話して確かめた。
そこで分かったのは、劇の衣装は保護者が作らなければいけないこと。
そして、妖精のひらひらの衣装はとても難しく、俺の家では無理だと判断され、
お面などを作れば済む動物役に妹が割り振られたことだった。
先生も悪気があった訳じゃないんだろうが、
俺は妹に母親がいない引け目をなるべく感じさせたくなくてそれまで頑張ってきただけに、
かなりショックで、妹にも申し訳なかった。
それで、裁縫なんて家庭科実習とボタン付けくらいしか経験がなかったくせに
「絶対にちゃんと作るから妹を妖精役にしてやってくれ」
って頼み込んだ。
結局、先生が根負けして妖精は6人になった。
それから、俺は放課後になると学校の家庭科室に通い詰めた。
家にミシンなんてなかったし、保育園からもらってきた材料と型紙だけじゃ全然意味不明だったから、
家庭科の教師に教わりに行ったんだ。
受験生だったし、教師も同情して「作ってあげる」って言ってくれたけど、
俺は意地でも自分の手で縫い上げてやりたかった。
ほかの子と同じように、家族が愛情込めて作った衣装で舞台に立たせてやりたかったんだ。
2週間ほとんど掛かりっきりになって、ようやく衣装は完成した。
スパンコールをたくさん縫いつけた、ふんわり広がるスカートに、レースを使った羽根、花の形の襟元。
縫い目なんかはよく見るとガタガタだったんだけど、
普通に着てる分には、他の子と全然変わらなかったと思う。
初めて妹に見せた時の歓声は今でも忘れられない。
着せてやった時の最高の笑顔も、
本番の舞台でのまじめくさった顔も、
その夜、衣装を着たまま寝ちゃった寝顔もずっと覚えてる。
2
昔、高校受験をする前に、受験校のひとつを見学に行ったことがありました。
その学校は山の中にあって、道が複雑に入り組んでいて、結構迷う人がいたそうです。
迷いました。
雨も降っていて寒く、結構な距離を歩いてきていたので疲れ、
なんでちゃんと下調べしてこなかったんだ?馬鹿なのか?馬鹿だろ自分、と泣きそうだったとき、
「どうしたんだ?○○高校に行きたいのか?」と、声をかけてきてくださったスーツ姿のおじさんがいました。
おじさんは「自分の家に帰る途中だからついでにww」「結構迷う人いるんだよなー」「寒くない?大丈夫?」
などと気さくに話しかけてくださり、私を学校の近くまで送り届けてくださいました。
それから下調べはきちんとするようになりましたorz
思い出すたびに、なんであの時住所や氏名をきいて菓子折りのひとつでも持ってお礼に行かなかったのか…
と、後悔することしきりです。
もう顔も声もおぼろげですが、学校までの道案内以上のものをしていただいた気がします。
3
自転車をドミノ式に倒してしまった時、誰も見向きもしない中 一人の女性が起こすのを手伝ってくれた。
私はてっきり自転車の持ち主だと思って、直しながらすみませんすみませんと謝ってたんだけど
その人は終始無言だったので、うわ怒ってる… と心の中で半泣き。
片付いた後その人はやはり何も言わずさっさとどこかへ行ってしまって、私は え?あれ?と
その時やっと善意でしてくれたのだと気付いた。
恥ずかしいやら何やらで頭が上気してたけど、もっとちゃんとお礼言っておけばよかった…。
4
この前の風が強い日に、用事で外に出ていたら、
オッサンがゴミ袋をゴミ回収所にどすっと置いて帰っていった。
そしたら、風でゴミ袋が飛ばされて、俺が歩いてた歩道の反対側の車道の真ん中に転がっていってしまった。
(車が通ったらはねとばされる位置)
「あー風強いからなー」とぼんやり眺めて通り過ぎようとしたら、
反対側の車道の端を走ってきた自転車の女の人が、少し通り過ぎてからUターンして戻ってきた。
そんでその場に自転車を止めて、ゴミ袋を回収、ゴミ捨て場に捨てなおしていた。
ゴミ袋が飛ばされないようにしようと四苦八苦して、
なんとか作業を終えて、そのまま自転車に乗りなおして去っていった。
そうだよな…車が撥ね飛ばしたら危ないかもしれないよな…
でも俺はボーっと見てただけだったんだよな…
次になんかあったら気づきたい。
5
高速バスを使って大阪へ行った時の話。
用を済ませ帰りのバスに乗る為、大阪駅のバスターミナルへ行くのに梅田の地下街? を歩いたんだが
田舎者が初めての大阪独り歩きだったので大いに迷った。
発車時刻も迫ってきて走り回りながら何人かに聞くが、俺の聞き方が悪いのか分かる人がいなかった。
半泣きになりながらある女性に場所を聞くと、なんとその人も今から同じバスに乗るらしく 一緒に行きましょうと言ってくれた。
天にも昇る気持ちだったが、全速力で走らなきゃ間に合わない状況だったので行き方だけ聞いてお礼を言い突っ走った。
結局間に合わなかったけどw
払い戻しがきくかと思って受付けに行ったら次のバスに空きがあるからそれに乗ってもいいと言ってくれた。
バス会社もなんと良心的なことか。
安堵して待合所で待っていると先程の女性がやってきた。
「あらー、間に合わなかったのねw」
「はい… せっかく教えていただいたのに」(かなりバツが悪い)
それからその場で雑談をして、バスが来て席を立つ時おまんじゅうをいただいたw
おまんじゅうの人とバス会社、本当にありがとう。 ちゃんと家に帰れました。
6
近所の文化会館の職員が超いい人。
あるとき用事があって、自転車でその文化会館に行ったのね。
で、用事を済ませて帰ろうと自転車をこぎ出した瞬間、チェーンが外れた。
勢いで足を擦りむいたらしく血が出てるし、
他にも足をぶつけたらしく、そこら中痛い。
足は痛いし、外れたチェーンの直し方も分からないし、
どうしていいか分からなくなって泣きそうだった。
そこに偶然職員さんが通りかかり、一目見て状況を察したらしく、
すぐに建物の中に戻って救急箱を持ってきてくれた。
私が消毒液を塗ったり、絆創膏を貼ったりしてる間に、
自転車のチェーンまで直して貰い、さらには油までさしてもらった。
その人は「大したこと無くてよかったねー。気をつけて帰りー」と、
言って建物に戻って行ったけど、その手はチェーンを直した時の油で真っ黒だった。
職員さんありがとう。あのときはちゃんと言えなかったけど、感謝しています。
・・・そんな話を友達としていると、「あー!その人知ってるー!!」とのこと。
地元ではちょっとした有名人なんだそうだ。
ただ、その文化会館自体、いい人が多いのかもしれない。
なんでも、その文化会館の隣に公園があるんだけど、
遊んでいた子供がボールを木の上に引っかけてしまったそうな。
大人も手が届かないぐらいの高さで、ちょっとどうにもしてあげられない状況。
そこで何故か文化会館に相談に行く子供たち。
しばらくすると、手に脚立やら柄の長い棒?みたいな道具やらを
持った職員がわらわらとwww
ボールを取ってもらった子供はすごく喜んでたが、
大人が総出で木登りしている姿は、すごくなごんだ光景だったとか。
7
結構前の話だけどほっともっとで弁当待ちしてた時に妊婦とその子供(8、9歳くらいの男の子)が来たんだ。
席を譲る人にも「いいですよ」とか言ってて、結局譲ってもらってたけど嫌味のない謙虚さですごくいい人だった。
で、男の子も妊娠してるお母さんを守ってるって感じがすごく伝わる。(男の子は立ってた)
その二人がしりとりしてたんだけど、小さめの声で全然うるさくないしとても優しい雰囲気だった。
極めつけはお母さんが「だ」で考えてた時に、
「だ…だ…大好き~」って男の子に笑いかけたんだよ。で、男の子もすごく嬉しそう。
ああ、いい親子見たなあって思ったよ。
ちょっと私の文章じゃ上手く伝えられないけど本当に良い親子でした。
8
先日、生理痛がひどいのに痛み止めを切らしていて、ひーひー良いながら薬局へ行った。
無事、痛み止めを購入できたんだが、よっぽど顔色が悪かったらしく店員さんに
「お水、持ってきますから、飲んでいきますか?」
と聞かれた。
ありがたくその場で飲んでいると、他の店員さんが試供品らしきホッカイロを持ってきて
「暖めると楽になります。使ってください」
と手渡してくれた。
すごい小さいことだけどうれしかった。
9
去年の夏、電車で過呼吸発作を起こした
私はそのとき大学生活のことで精神を病んでいて発作はしょっちゅうだった
そのときも大学をやめたいと親に話すために実家に行ったのだが
中退なんてみっともない!すぐ戻って学校へ行け!と追い返された電車の中だった
グラグラしながら途中下車してホームのベンチにいると、初老の女性が心配そうに声をかけてきた
女性は近くで騒いでいた子供たちに「このお姉さん具合悪いからちょっと静かにね」
と言い、自分の電車が来るまで付き添ってくれた
私はそれからしばらく駅にいたが、電車に乗れそうにないのでタクシーで帰ることにした
タクシー乗り場は混んでいた
しかも陽射しがきつい
座り込んでハァハァ言ってたら
周りの人が声をかけてきた
「救急車呼ぼうか!?」「先に乗っていいよ」
平日の昼で仕事で急ぐ人もいただろうに、先に譲ってくれた
今は大学をやめて働いている
仕事柄、知らない人の悪意にさらされることも多いけれど
私が考えるよりもきっといい人はいるのだと知ったから
弱っているときに見ず知らずの人が助けてくれることもあると知ったから
なんとか今も(相変わらず発作はあるが)めげずに生きている
本当にありがたい
10
この前電車で腹丸出し状態で椅子からずり落ちながら寝てる酔っ払いの男性がいた
周囲はニヤニヤしながら見ていたが、そこに来た若い女性が男性を助け起こし
服を着せて座らせてあげていた。男性はやはり寝ていたが、電車が新宿についたら
彼女は男性を起こして新宿ですけど降りますか?と聞いていた
男性は礼を言って降りていた
その時私はその光景を見て笑っていたろくでなしだったが、彼女を見て反省し
後日地元駅前で倒れていた酔っ払いを介抱したりしてみた
お陰で若干こっちのいい人レベルも上がった
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