– しみじみ - グッとくる話 短編10話【6】
旅行をプレゼント
親父が病死したんで、2つ違いの姉ちゃんが大学やめて就職、俺が高校通ってた頃
たまたまTVでやってた秋の旅行番組見て、姉ちゃんが台湾に行きたいなと言い出した
きちっとパンプス履いて立ってなきゃいけないので、姉ちゃんの仕事は足が疲れる
それであの足裏マッサージやってみたい、となったようだ
姉ちゃんと母のパートの稼ぎだけでちょっと貧乏だったから旅行なんかできないんで、
○○(俺の名前)あれちょっとやってみてよ、と来た
恥ずかしかったが、喰わせてもらってる俺としては断れませんよ
まず出がらしのお茶を洗面器に大量に作った
それに素足を浸させて洗うわけだが、足があったまるとそれだけで気持ちいいらしく、
顔がほああーと赤くなってきた
この時点ですでに姉ちゃんは極楽顔だ
バスタオルで拭いて、横に雑誌を積んで作った台に足を乗せさせて、
あったまってるうちにと、見よう見まねでゴリゴリマッサージしてみた
多分ツボとか全然はずれてたと思うんだが、疲れ足にはそれなりに効いたようで、
「はぁ~」とか声出して(俺少し興奮してました姉ちゃんごめんw)気持ちよさそうだった
○○上手じゃん、台湾気分満喫だよね、とか言って姉ちゃんは晩飯の支度を始めた
その日の晩飯はちょっと豪華で、姉ちゃんはいつもより少し朗らかだった
こんなちっぽけなことで喜んでくれる姉ちゃんが可愛いというか可哀想というか、
複雑な気分だったのを覚えている
俺は姉ちゃんの給料で大学まで行かせてもらい、なんとか就職もできた
姉ちゃんはそれを見届けるようにして、結婚して家を出た
俺は最初のボーナスから、姉夫婦に台湾旅行をプレゼントした
「本場の足裏マッサージ体験してきたけど、いつだったか○○にやってもらったのが
気持ちよかったな~」と姉ちゃんが言ったので、
姉ちゃんも、俺ら家族のつらい時期のあの一コマを覚えていてくれたのがわかった
ちょっと泣きそうになった
一人でイタリアへ
GW、一人でイタリアへ行ってきた
何の感慨も受けない 何にも気付かない 心にゆとりがないからだろう
夜更けまでカフェで、一人すねてふてくされたように、立ち飲みで酒をかっ喰らっていた
でっかい白人男が、いきなり肩を組んできた
やべ
イタリアの夜は決して治安良くないんだっけ・・・
すると女が、何してんのよ馬鹿!といった調子で、男を止めに入る
語調から察するにロシア語だ
「おまえは俺の友達だよな?」
片言の英語で、酔っぱらったロシア男が言ってくる
「あぁ友達だ。たぶん」答える
連れの女は悶着にならなかったことに一安心したのか、ニッコリする
ニッコリして、いきなり古いマドンナの曲を歌い始める
おまえも完全に出来上がってるじゃねえか
男、俺のつまみに手を出す 女も手を出す フツーに食ってんじゃねえ・・・
そして男も、よく分からない歌を歌い始める
これはちょっとマズイなと判断し、コペルト(席料)を払うことにして、3人でソファーに移動
あいかわらず歌う2人
ヤケクソで俺も、一緒に歌ったり、コーラス入れてみたり、
エルトン・ジョンやビリー・ジョエルといった、ワールドワイドな歌を歌いだす
そういえばロシアやイタリアにはカラオケボックスはないのだろうか、などと思いながら
ボーイや他の客は、あきれた顔で眺めてる
たくさんの話を片言英語で交わしたが、記憶に残るようなまとまった話はない
3人で肩組んで写真を撮る
閉店で追い出されるまで飲んだくれた
別れ際
「ガスパージン!スパシーバ!my dear friends!」
ロシア語なんて知らないが、どちらかが「さようなら」で、どちらかが「ありがとう」だった気がするので、そう言ってみた
男”Good bye friend!”
女”Bon boyage!”
俺「節子、それはフランス語や!」
女、俺の日本語を無視して、両手を唇に思いっきりあてて、盛大な投げキッスを俺に送る
帰国後、写真を現像してみる
ものすごい馬鹿ヅラした3人が、豪快な笑顔で映ってる
俺には友達なんかいない 一人だっていない
こいつらの名前だって知らない
だけどスタンドに立てたその写真を見るたび、ほんの少しだけ滋養を感じ、
ほんの少しだけ温かな気持ちになれる
明日彼に告白します
去年の冬、受験勉強中でふらふらだった私は通学バスを待っていました。
先頭に地域でも有名なDQNが並んでおり、嫌だなあと思いながら単語帳をめくっていました。
すると突然息が苦しくなり、意識がもうろうとし、その場に倒れ込んでしまいました。
気がつくと、DQNが私を抱え込み、何か呼びかけていました。
私はシャツの前がはだけ、裸足で、口には紙袋があてられて、なんだこれはと混乱したのを覚えています。
ほどなくして近所の医院の先生が駆け付け、手当をしてくれました。
疲労とストレスから過呼吸になってしまったようで、その日は点滴を打ってもらい休むことにしました。
点滴中、おそるおそるDQNと話してみました。
半年前、おじいさんが目の前で倒れ、動揺してしまい何もできなかったこと、
救急車が来た頃には既に手遅れだったこと、
その出来事をきっかけに救命講習に通い、今は救急救命士を目指し勉強していること、
見た目や評判からは想像もつかない彼の別の顔に驚き、尊敬してしまいました。
事実、先生の話によると驚くほど的確な応急処置だと感心していました。
連絡先を交換し、後日改めてお礼に伺ってからは、よき受験友達としてメールや電話なんかするようになりました。
そして春、見事彼は志望大学に合格し、私も滑り止めとはいえ、進学が決定しました。
お互い都内で、新生活も落ち着いたので近況報告がてら夕食でも、という話になりました。
これはデートですかね?彼と食事をするのは初めてです。
でも決めていました。
私は明日彼に告白します
一人でいた私に
中学の卒業式で、リア充女子から「寄せ書き書かせて!」と卒業アルバムを奪われた。
何だろう……と思ってたら、返ってきたアルバムには
「喪子ちゃんは、入学した時に友達がいなくて一人でいた私に一番最初に話しかけてくれたよね!
あれ凄く嬉しくて、喪子ちゃん見て私も積極的に人に話しかけられるようになったんだよ!
本当にありがとう!
結局あんまり話せなかったけど、喪子ちゃんが良かったらメールしてね!」
との寄せ書きとアドレスが。
こっちは覚えてなかったってわけじゃないけど、話しかけてから彼女がどんどんリア充化したので、
もう縁が無くなったものだとばかり思ってた。
彼女がしっかり私の事を覚えてくれていたのが意外で嬉しかった。
卒業式翌日に高校合格が判明、すぐ携帯買ってもらったからメールした。
それから十年、今でも時々ご飯食べに行く仲になれたのも嬉しい。
捨てられた子犬を拾った
実は以前、捨てられた子犬を拾った、大雨の日。
マックロな子犬@ヨロヨロ
獣医に連れて行って治療、そしてカンビョウ
で、死んだ。庭に埋めた。生まれ変わったならウチにおいでと思いながら。
ある日、手のひらに乗る様な捨て猫を見つけた。
段ボール猫。
なんか、自分を見てる。
試しにマックロな子犬@ヨロヨロに付けるはずだった名前を呼んだ。
そしたら、ニャアーだと。お帰り。
一人で飲んでる
前のデンマーク戦の時、飲み屋でTV観て試合始まるの待ってたんだ。
店のはじっこに一人で飲んでる奴がいたから(俺も一人だった)
「一緒に観ませんか」と声をかけた。まだ始まるまで時間があった
から飲みながらいろいろ話してたんだけど段々テンション上がってきて
「いやぁ、最近仕事以外は一人でいる事がほとんどだったから
今凄い楽しいですよ」
なんて相手が言うもんだから「そうですよね!楽しいですよね!」
って言い合ってたら何か胸が熱くなって二人で涙ボロボロ流して
泣いてしまった。初対面同士なのに。
まだサッカー、始まってもいないのに俺らだけ泣いてて
はたから見たら異様だったんだろうなw
死んだ親父の夢を見た
6年前に死んだ親父の夢を見た。
何か奇妙な夢だったが、子供の俺は従って後を
付いて行ってた。何だかシンドくなり、「ちょっと待って」
というところで目が覚めた。懐かしかった。
毎朝見かける親子
通勤途中、毎朝ある親子を見掛けます。
小学校4年生くらいの男の子とまだ働き盛り40代前半くらいのお父さん。
でもお父さんは手と足に麻痺がある様子。片麻痺っぽいから、
倒れてしまったのかもしれない。
いつもは自転車で追い抜いていくんだけれど、自転車がパンクしてしまい、
今日は歩いて駅に向った。
曲がり角からその親子が出てきて、今日は話がよく聞こえた。
「パパといっしょに歩く練習するの、楽しいよ。倒れそうになった時は
ボクが必ず支えるから、安心していいんだよ」って男の子が話してた。
お父さんがあまり呂律の廻らない言葉で「ありがとう」って微笑んでた。
私、泣きそうになっちゃったよ。まったく知らない人だけど、1日も早く良くなる様に
って心の中で祈りました。
うちのバカ息子だったらそんなこと言ってくれるかな。
なんかこっちまでやさしい気持ちになった出来事だったな。
ミドリという猫の話
中学生の頃、我が家で飼い始めたミドリという猫の話。
ある日私はミドリを散歩に誘ってみた。
猫のような気ままな生き物がリードなしで人間なんかと散歩するのだろうか?という素朴な疑問、そしていつもどこで遊んでいるのかが知りたかった。
私達は一緒に玄関を出てまず公園に行った。
もしかしたら私だけ置いてけぼりを食らってミドリだけどこかへ行ってしまうんではないかと不安になりつつ、ミドリと付かず離れず3mほどの距離を保って後を歩いた。
一方ミドリも私に気を使ってくれたのか、猫にしか通れない場所を避けながら案内してくれている様に見えた。
私達はミドリがいつも立ち寄るとおぼしき散歩スポットを次々と巡った。
公園の裏、公団住宅の植え込み(中はまるでトンネルの迷路の様だった。)その公団の奥にある更に小さな公園…
そこを抜けて生活用水の流れるあたりは小さな草原になっていた。
アマガエルやバッタが見渡す範囲のそこかしこに潜んでいる。
ミドリはここでちょっとしたハンティングを披露してくれた。
(結局捕まえる事は出来なかったのだけど。)
背の高い草が生えた場所でかくれんぼもした。
ミドリはかくれんぼが得意で自宅でも好んでよくやっていた。
大体一時間ちょいぐらい遊んだだろうか。
少し疲れて草原の近くの公園のベンチに座っているとミドリもやって来てベンチに腰掛けた。
首を伸ばしながら鼻をすんすんさせていた。
きっとミドリは夏から秋に変わりゆく草や土の匂いを嗅いでいたと思う。
私もそんな青臭さを吸い込みながらどこかから流れてくる晩ご飯の匂いをキャッチした。
お腹空いたから帰ろうか。
今度はどこにも寄らず近道を歩いた。
肌寒い時期だったからか疲れて満足したのかは知らないがミドリは黙って抱っこされていた。
今から17年前の話。
秋の思い出です。
私が隣に乗ってる時に
電車に、付き合いの長そうな大学生カップルがいた。
男の方はもうすぐ免許を取るらしく、情けなく笑いながら「俺が車なんか乗って、事故ったらどうしよう」みたいなことを言っていた。
すると女も笑って
「いいけどさ、事故するなら私が隣に乗ってる時にしてね」
とさりげない調子で答えた。
その時は「なんでだよー」「ね、なんでだろねー」と特にオチもないまま会話が終わっていたが、
二人が降りた今、ふと言葉の意味が分かった気がする。
愛されてるんだな。畜生。
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