山にまつわる怖い話【13】全5話
真っ黒な人間みたいなもの
これは祖父が林業を辞める1週間前の話らしく、さらに手記を読んでみると
林業を辞める間接的な要因にもなったようです。
祖父はその日、沢の付近にいい犬槐の木が生えておりそれをとってきてほしいと依頼をされました。
親方にその場所までの行き方を聞いている時のことです。「沢なりに上る道はあるがその道はあるくな」
と、言われました。道を外れてあえて歩きにくい森の中をいけというのです。
祖父は少し疑問に思いながらも言われた通り森の中を進んでいきました。
しかし、森の中をいくのは足場も悪く行く手を遮る草木を払って進むようなので
体力の消耗が激しいため誘惑に負けて沢の道へ出てしまいました。
ちょうど昼時だったために昼食をとりながら一休みしている時、あることに気づきました。
座って休憩している祖父の周りでひそひそ声が聞こえることに気づいたそうです。
それは祖父を取り囲むようにひそひそ聞こえているのですが、祖父が動こうとしたり
するとぴたっと聞こえなくなるのです。気味が悪くなってきたと思った祖父は
早々と昼食を終えて登り切ってしまおうと思いました。山から見晴らしのいい方を眺めて
食事をしていたため振り返って再び沢の道を上ろうとしたときに祖父は体が固まってしまいました。
進行方向の木の陰から真っ黒な人間みたいなものが祖父の方をのぞき込んでいたのです。
それは見間違いとかではなく、ずっとその場に居続けました。
さらにそれは祖父が見つめていると、ぼそぼそざわざわとしゃべっています。
黒い人間みたいなそれは体と顔の大部分は真っ黒なのに不思議と口を
ぱくぱくと話しているのは見えたそうです。真っ赤な口と白い歯が見えたらしいです。
その黒い人間は最初は一人だけ見えていたのですが、近づくと隠れて離れた所にまた出てくる。
そういう行動を繰り返していました。不気味に思いながらも我慢して上っていくとそれが沢の反対側
ほかの木の陰、岩の陰からでていることに気づき歩みが自然と止まってしまいました。
そこで祖父は下山しようかどうか迷っていましたが、誰も沢の方にいかないため依頼者は祖父に
高い料金で依頼していました。また、祖父は林業をやめた後に夢や考えがあったため先立つものが必要でした。
そのため我慢して依頼された木を取りに行くことにしました。不気味な声をできるだけ聞かないように我慢しながらも
祖父が木を切り、引っ張って下ろせるように細かく切り分けて、縄でくくって沢の道を下り始めました。
するとぼそぼそ声がだんだんはっきり聞こえてくるようになりました。聞いてみるとそれは子供の声、赤ん坊の泣き声、
すすり泣く声や泣きわめく声も混じっているようでした。
中には「ひもじい」「なんで迎えにきてくれないの」「まだかな」という子供の声が聞こえました。
祖父はなんだか気疲れしてしまい、沢の石の上に座り込んでうなだれました。
岩の陰からも真っ黒な人間が出るのを忘れて。うなだれた先に赤ん坊の真っ黒の人間がはいはいして
祖父の足にしがみついていたのです。驚いた祖父は岩から転げ落ちました。木にくくりつけた縄を引っ張って降りようとしたのですが
重くて動きません。木の方をみると、上に真っ黒な人間が数人座っておりにっこりと赤い口と真っ白の歯を見せて笑っていました。
祖父が鉈を投げつけるとけらけらと笑いながら鉈をよけるように木の束から降りました。
祖父は逃げるように下山し、親方の元へいきました。そのことを話すと親方は何も言わずに
神道さんと呼ばれる神職の人の所へ連れて行きことの顛末を話した後にお祓いをしてもらいました。
そして親方は、後日お供え物を沢の入り口にあるお地蔵様にあげてちゃんと手を合わせてこいと言われました。
言われた通りにした後、親方に呼び出されしかりを受けました。
そのときに「おまえは沢の道を上るなと言われたのに上ったろう。
あの沢の上は面倒だからいかないということではない。」
「みんな行きたくないから行かないんだ。」と言いました。
そして「おまえが上った場所を言ってみろ」と言われたので
祖父は「小助沢の道を上りました。上るなと言われた沢です。」と正直に答えました。
すると「都合上、小助沢とみんなが呼んでいるだけでおまえが上っていた沢の名前は。」
「本当は子捨沢という場所なんだよ。」と親方は言いました。
そのことを聞いた祖父は血の気が引きました。
親方は「昔、食い扶持が足りなくなった時にしょうがなく親は
その沢に子供を捨てに行ったんだ。少しここで待ってろとか言って
迎えにくるふりをして捨ててきたんだよ。まだ歩けない乳飲み子も捨てた
やつもいる。」と悲しそうに言ったそうです。
祖父はあの真っ黒な影のような人間はあそこに捨てられた子供達だったのだと
わかった瞬間に自然と涙が零れてしまったそうです。
祖父は林業をやめた後にタクシー会社や乳業店を開きました。
自分の会社を持つことが祖父の夢だったそうです。
会社を初めてしばらくたって資金的に余裕ができた頃。
祖父がお地蔵様と魚や野菜やおにぎりとお味噌汁が彫られた
石を沢の入り口に置いたそうです。
ク・フラン
村の産婆や薬師が魔女と
怖れられた忌むべき時よりも更に遠い昔のこと
ク・フランが棲んでいたとされる神聖な霊山があった
そこはク・フランが昔、戯れに丸めた雷などが常に停滞していて
とても人の入れる場所ではなかったという
また誰も入っていこうとは思わなかった
しかし、二つ向こうの村ではその山に入ろうとしている若者がいた
彼は「誰も入ったことがないという事はそこは手付かずの獲物が豊富ということだ」
と思い、妻が止めても「妻は夫に意見する資格はない」と聞き入れず、彼の山へ入っていった
雷雲が蠢き、辛い道であったが若者は山へどんどんと入っていった
すると、中腹辺りに差し掛かった頃、あるひらけた場所へ出た
そこは神の楽園を思わせるような豊沃なところであった
川にはミルクと蜂蜜が流れて美しいニンフが水浴びをしており、多くの牛達が放し飼いで戯れあい、
そして木々では小妖精達がお喋りに夢中になっている
若者が見とれていると、川辺にいたニンフが話し掛けてきた
「まぁ、ずいぶんと久しぶりなこと。新しいお客様ね。」と微笑みかけられ
若者は急に悪い事をしたと思い「すまない。私の立ち入れる場所ではなかったようだ」
「私はこの楽園に立ち入り、神の名を汚してしまった」と詫びた
しかしニンフは「そんなことを心配する必要はありません」
「あなたは自分の意志でここへ来たのでしょう?麓の村人は怖れて入山しない」
「あなたは勇敢で立派な若者だわ」と彼に優しく語りかけた
そして「ずっとここへ居てよいのです。牛と蜂蜜はあなたのもの」
「小妖精はあなたに付き従う。勿論私はあなたの全ての世話を見てあげる」と言って跪く
若者はいい気分になって暫しの間ならということで住み着くことにした。
すると最後に「但し、ここでは神霊の名はおろか、特にク・フランの名はみだりに唱えてはなりません」
「彼らを侮辱することになります」と強く言われ、若者は了承した
住み着いて暫く経ち、若者が森を歩いていると
なんと鬱蒼と茂った木々の裏に柘榴が大量に生っているのを見つけた
彼はここが冥界なのではと疑い、ニンフに「どうしても神霊に祈りを捧げたい」と申し出た
ニンフはどうしてもダメだと言うが、制止を払い若者は祈りを捧げた
すると視界にモヤがかかり、辺りがハッキリしてくると
若者のいる場所は荒涼とした冥界のように寂しい場所だった
そして目の前にいたニンフの顔は崩れ、みるみる内に赤黒い悪魔の顔へと変わっていった
若者は驚き、一目散に下ったが道が全くわからない
そして後ろからは悪魔が信じられない速さで襲い掛かってくる
若者は「雄々しきク・フランよ!あなたの山に悪魔が巣くっています!」
「そして愚かな私はそれに追われています!あなたが噂通りの蛮勇であるなら」
「どうか私に力を貸してください!」
若者がそう叫ぶやいなや、霊山の天で停滞しているはずの雷が一筋落ちてきた
それから数ヶ月後、あの若者の妻が一人きりで暮らしているところ
夜中に突然ドアを叩く音がした
誰かと思い尋ねるとあの若者だという
とっくに死んでしまったものと思っていたので妻は大喜びでドアを開けた
若者は青白い顔をし、頬はこけていたのだが明るい顔で妻を抱きしめた
「今まで済まなかった。寂しかったろう。」と言い、腰袋から何かの実を取り出した
「私はク・フランの霊山へ行き、そこで大変美味しい果実を見つけた」といい妻に食べろと言った
妻は「まぁ、赤黒くて変わった形をしているのね。でもあなたがそうおっしゃるのなら食べるわ」
と言い、果実にかじりついた。
すると「食べたな?」と若者は呟き、段々と彼の顔が崩れて醜い悪魔の姿に変わってしまった
「あの男は我々の国へ自ら足を踏み入れ、冥界とも知らず私に精を注ぎつづけた」
「身の衰えにも気付かず、逃げたとて我から逃げおおせるものか」
「お前も冥界の果実である柘榴を口にした。夫婦仲良く冥界で暮らすがいい」
それ以降、若者の妻の姿を村で見かけた者はいなく
妻の住んでいたところの木々には、赤黒く変形した奇妙な果実が生っていたという
龍神岩
自分の家は山のてっぺんなんだけど、そこから隣の山の頂上に大岩がたくさん
置いてある(実際は誰が置いたわけでもないのだろうが、この表現が一番しっくりくる)
のが見えるんだわ。で、近所の爺さんに「あの岩は何?」って聞いたら、
岩の中に老人が二人住んでる、みたいな物語を聞いたんだけど、詳しくは覚えてない
で、どーしても会いに行ってみたくなって、行ったんだわ。
てっぺん目指して山道をひたすら登る。でもどうしてもたどり着けない。
てっぺんは平原みたいになってるはずなのだが、いつまでたっても森の中。
次々と頭の中に「本当にあった怖い話」シリーズのネタが浮かんでくる。
泣きそうになりながら、実際ちょっと泣きながら、それでも1時間ほど登った所で、
急に視界が開けた。やっと着いたか、と思ったが、大岩は無く、あるのは寂れた赤い鳥居。
不思議だったのは鳥居だけだったこと。建物が見あたらない。
で、ここで分かれ道になってて、一つは再び森の中へ、もう一つは鳥居をまっすぐ行く道。
暗い森の中には行きたくなかったので、まっすぐ行くことにした。鳥居をくぐり、進む。
が、しばらく進むとこの道も森の中へ再び入っていった。
この時点でもう出発から3時間は経ってて、へとへとで泣きながら進んだ。
するとなんか集落みたいな所に出て、人もいたので、急に安心してしまいもっと泣いた。
そんな私を見て、事情が飲み込めたのだろう、「ようきたね」と言いながら頭をなでてくれた。
そんで「もどろうか」と言ってくれたが、そこからは記憶が無く、
気がついたら龍神岩の前にいた。
龍神岩ってのは自分の町にある神社の池の真ん中にある馬鹿でかい岩で、
土地の先祖が龍を退治して閉じこめた岩、らしい。
その神社は自分が登った山とは反対方向だったが、疲れていたのか疑問に思うことなく
そのまま家に帰ったら両親が泣きながら飛びついてきた。
どうやら家を出てから2日経ってたらしく、やれ神隠しだ遭難だと、大騒ぎだったそうだ。
ちなみに今ではそのてっぺんの大岩には2時間もあれば行けるようになった。
遺跡じゃないんだろうが、遺跡っぽい雰囲気が好き。町も一望できるし、今じゃお気に入りの場所です。
それから、二度とそのじーさまの話は信用しませんでした(笑)
長いし怖くないしでごめんね。孫が出来たら話そうかと思う。
システムエンジニアと山のお話
システムエンジニアをやっていた知人。デスマーチ状態で、残業4-5時間はザラ、睡眠時間は平均2-4時間。
30過ぎて、国立受験生みたいな生活に、ついに神経性胃炎と過労で倒れ、そのまま内科で軽度の鬱病と診断された。
会社も流石に悪いと思ったのか、5日間の休暇と、賞与を結構たっぷりくれたらしいが、彼は本格的に鬱病に
なりかかっていたらしい。 やったことがある人はご存じの通り、鬱は気晴らしや運動などで直ってしまう場合もあるが、
鬱病は、れっきとした神経伝達異常で、幸せを感じる回路が接続不良、不安や悲しみ回路が増大という状況で、
コメディー話を見てすら悲しく、落語を聞いても悲しいところだけクローズアップされてしまう
知人は、休暇が取れたことで、またあのデスマーチの職場に戻る恐怖感が一層増してしまったらしい。自殺という
単語すら時折頭をかすめ、気が付くと、愛車のジムニーに乗り込んで、車で3時間離れた、故郷の近くの山に向かっていた。
高校時代、登山部だった彼が、何度ものぼった山だった。
ツェルトとシュラフ、食料と水だけを持って、夕暮れ時、ただ、黙々と山へ登り始めた。
何も考えず、ただ、足を交互に出していく。冷たくなっていく、酸素濃度の高い山の空気。草木と水と土の匂い。
首と背中を熱く濡らしていく汗。何年ぶりかの登山の感触。
何時間歩いたか、いつもテントを張っていた場所ではないが、水場もある広場に出た。シーズンではないので誰もいない。
今日はここまでと思い、ツェルトを張り、シルバーシートを敷いて、荷を下ろした。
お湯を沸かしてラーメンを茹で、にぎりめしをかじり、番茶をすする。知らず知らずに、孤独な山の空気が、
自分の鬱屈をふきながしてくれるようで、不眠症気味だったのも癒されたのか、眠くなってくる。
たき火に砂を掛け、水で絞ったタオルで身体をふき、シュラフに潜り込んだ。頭をつけたかどうかもわからないぐらい、
素早く、深い深い睡眠に入った。
「しににきたのか?」「・・・?」「なあ、しににきたのか?」
突然、唐突に振ってきた声に、知人が粘るような瞼を開いて、寝ぼけ眼を向けると、狭いツェルトのなかに、
自分以外の小さな人影がある。不思議と怖いとは思わず、芋虫のようにシュラフからは出して枕元の眼鏡を取り、
据え置き式の蛍光灯をつけると、ようやく相手が見えた。
綺麗な赤い着物を着た、肩口で髪を切りそろえた、9-10歳ぐらいの、可愛らしい女の子だった。
蛍光灯がまぶしそうに手で光を遮って、物怖じせずに知人を見つめている。
「・・・・」何が起こっているのかいまいち理解出来ていない知人に、ちょっと首を傾げて、また、女の子が口を開く。
「なあ、しににきたのか?」知人の頭で、ようやく変換ができた。「死にに来たのか?」と聞いていたのだ。
知人は、自分でも意識しないまま、答えていた。
「わからない。疲れていたとは思う。でも、いまは、死のうとは考えていない」
その答えを聞いて、赤い着物の少女は、真っ白な歯を見せて、柔らかく笑った。「そうか、ならいい。」
知人は、必要があるほど高い山ではないが、いつものくせで持ってきた行動食の飴のパックをきって、
「純露」少女の手に握らせた。少女は珍しそうに手の中の飴を見つめていた。「飴だよ」知人は、包装を剥いて見せて、
自分でも食べ、少女にも食べさせてあげると、少女は、とても嬉しそうにもういちど微笑んだ。
そして、少女は、シュラフを指さして、にこにこと言った。「おらも、いれてくれ。」「・・・狭いと思うけど」「いい。いれてくれ。」
知人は、二人はいるには少し狭いシュラフのジッパーを下げると、少女は、するりとその中に入り込んできた。
少しひやっとする、ほそい手足の感触と、季節外れの、桃か桜のような匂い。シュラフの感触が楽しいのか、
くすくす笑いをしていた少女が、蛍光灯を指して言った。「ねよう。けして。」知人は、手を伸ばして、蛍光灯のスイッチを切った。
未だに、自分が夢の中にいるような気がして、ふたたび薄闇の中で知人が眼を閉じると、すぐ耳元で、少女がささやいた。
「うたって。」「・・・?」「なあ、うたって。」
子守歌をせがまれているとしばらくして気付いた知人は、こんな時にうたう歌なんて知らないとあわてたが、
気が付くと、シュラフの中の少女を、あやすように揺さぶりながら、小さな声で歌い始めていた。
「・・・いかに います父母・・・つつがかなきや ともがき・・・・ 雨に風につけても・・・・ 重いいずる ふるさと・・・・」
正月に帰って以来、電話もしていない両親。自分が卒業した小学校。子供時代を遊んだ駄菓子屋と公園。
「こころざしを はたして・・・・ いつのひにか 帰らん・・・山はあおきふるさと・・・みずは清き ふるさと・・・・」
気が付くと、ぼたぼたと大粒の涙がこぼれていた。そして、歌い終わると、知人は、ここ数ヶ月の死に絶えていた感情が
爆発したように、号泣していた。
少女は、驚きもせず、おこりもせず、知人に抱きつくような姿勢を取って、さっきしていたように、優しくあやすように揺すっていた。
気が付くと、ツェルトの外側が、すっかり明るくなっていた。知人は、まだ濡れたまま顔のまま、シュラフをはい出した。
飴のパッケージは空になっていたが、ゴミはちゃんとゴミ袋に全部はいっていた。
知人は、冷水で顔を洗って歯を磨き、ツェルトをたたんで、別人のようにすっきりした気持ちで下山にしていった。
職場は、その後、ストライキをほめのかす全員の強い要望があって大幅に改善され、定時に帰れることも多くなった。
知人は、その山の出来事に、心から感謝しているが、いくつか困った点もあったとのこと。
「困った点ってなんだ?」 「一つ。その朝、パンツが白くガビガビになっていることを発見した」「変態」
「もう一つ。あの少女のことが思い出されて、よく上の空になる」「ペドエロス」
あれは、追いつめられた知人の防衛反応が夢となって現れたのか、それとも自分の縄張りで不景気な顔で死なれたくなかった
人ならぬものの好意だったのか
元気の代わりに心を奪われ、何度かその場所で宿泊した知人だったが、赤い着物の少女は、出会えてはいないらしい。
それでも、そのつど、包装を剥いた飴を、お供えするのは忘れていないそうだ。
ゴキゴキ
俺の友達は手先が器用で、小学校5年生の時に、学校裏にある山の木の上に、
ゴザや板、その他もろもろを持ち上げて、秘密基地みたいな小屋を造っていた。
トムソーヤに出てくるような立派な小屋じゃなくて、
木の枝と枝の間に板を差し込んだような、本当に簡単な小屋だった。
何度か登らせてもらった事があったけど、かなり丈夫に出来ていて驚いたのを覚えてる。
雨が降ると、屋根代わりに使ってたベニヤ板の間から、
激しく雨漏りするのが悩みの種だったけど。
ある日、友達はその「秘密基地」で眠ってしまったらしく、
気が付くと辺りは真っ暗だったそうだ。
親に怒られると、体を起こした時、友達は不気味な音を聞いてしまった。
ゴキゴキ、ゴキゴキ、と、固い物を強引にこすり合わせるような不快な音。
なんだろう?と、小屋から地面を見下ろした時、彼は悲鳴を上げてしまったという。
木の幹を、真っ白でむくんだ顔をした、胴体が小さく手足が異様に長い、
明らかに人間でないものが這い上がって来ていたという。
そいつが、手足を動かす度に「ゴキゴキ、ゴキゴキ」と音が鳴っていたらしい。
その不気味な生き物は、ゆっくりと、彼がいる場所まで這い上がってくると、
その真っ白な顔にニターっと笑みを浮かべて、すーっと消えてしまった。
友達は、慌てて木から下りて、途中で足を捻挫。
夜の山の中で、体中にひっかき傷を作って家に飛んで帰って、
両親にこっぴどく怒られたと言っていた。
それ以来、彼はその小屋へは行っていないと言う。
俺は、友達が寝ぼけただけだと思ってるけど。
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