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『続・聖夜』藍物語シリーズ【31】◆iF1EyBLnoU 全40話まとめ – 怖い話・不思議な話

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『続・聖夜』藍物語シリーズ【31】◆iF1EyBLnoU 全40話まとめ - 怖い話・不思議な話 シリーズ物
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藍物語シリーズ【31】

 

藍物語シリーズ【全40話一覧】

 

 

『続・聖夜』

 

チーム榊の忘年会の夜、恵子ちゃんと榊さんとの出逢い。
それから十日程経ったある日、Sさんと俺は榊さんから呼び出しを受けた。
あの少女は既に安全な場所で保護され無事に年を越したと聞いていたのだが、
それでは今日になってSさんと俺が呼び出しを受ける理由が分からない。
まさか、あの少女の身に何かあったのか? いや、それならそうと連絡が有った筈。
早々に『今夜はお酒を飲まない。』と宣言したSさんの運転で待ち合わせ場所に向かった。
それは郊外の寿司屋、『藤◇』。大事な会合で決まって使う、俺たちの隠れ家。

 

「もうあの娘は安全な場所で保護されていると聞いたんですが。」
「まあ、あの娘が母親の死や継父との生活を思い出す機会は少ないだろうから、
その意味では精神衛生上は確かに安全だよ。俺の家は。」
「へ? じゃあ、あの娘は今、榊さんの家に?」
「忘年会の後、二人で分署に戻る訳にもいかないだろ。だから、さ。」
確かに。それはそうだ。一人きりでホテルに宿泊させるのも心配だし。
「いきなり年寄りを驚かすとマズいから、勿論家に電話してから帰ったよ。そしたら。」
榊さんは大きな溜息をついた後、杯の日本酒を一息に飲み干した。
すかさずSさんが空の杯に日本酒を注ぐ。完璧なタイミング。少しだけ、嫉妬。
「手ぐすね引いてたらしいお袋は甲斐甲斐しく風呂やら着替えの世話を焼くし。
あの強面の親父まで、見てられないくらいに相好を崩して。全く、俺の立場がないっての。」
きっとそれは、年末で帰省した孫娘の世話をする感覚だったのだろうか。

 

「姉貴が使ってた部屋だ。着替えとかも。新学期の最初からは高校にも通ってる。」
ああ、それなら新しい落ち着き先が見つかるまで何の心配も。
「ただあの娘の引取先を探すのに二週間くらいかかって。それがマズかった。」
...たった二週間の内に何が?

「姉貴の所はみんな男の子ばかりだったから、無理もないと言えばそうなんだが。
お袋と親父があの娘を文字通りの猫っ可愛がりなんだよ。
まずは毎日5時半に起床、5時半だぜ。それで親父と一緒に犬の散歩。
散歩から戻ったらお袋と一緒に朝食の準備。3人で朝食を食べたら高校へ。
高校から帰ってきたら、またお袋と一緒に準備して3人で晩飯。それが日課らしい。」
「あの、3人って?」
「だから親父とお袋、それとあの娘だよ。」
そうか。まあ、どう考えても榊さんの帰宅時間は当てにならないからね。

 

「でも、引き取ってくれる親戚がいるならそれが一番だろ?
『新年早々』って、親父とお袋には散々嫌な顔されたけどやっと見つけたよ。母方の祖父母。
乗り気と言うほどでもないが、引き取って面倒を見るのは構わないと言ってる。
それでその日は早く帰って、話を切り出したんだ。そしたら。」
榊さんは両掌で顔をゴシゴシと擦った。
「あの娘に、派手に泣かれちゃってさ。結果、お袋と親父も仏頂面。
『いきなりそんな事、無理強いするものじゃない。』って。まるで俺一人が悪者だ。」
ああ。普段から家庭内での空気が読めないと、それで色々有るのは仕方ないですよね。
「でも、あの娘の将来が一番大事なんだから。構わず言った訳。
『恵子ちゃんの将来が一番なんだから何時までもこのままじゃいけない。
恵子ちゃんはこれからどうするつもりなんだい?』って。そしたら。」
榊さんは杯の日本酒をくいっとあおった。

 

『私、健太郎さんのお嫁さんになりたいです。
それが駄目なら、このお家のお手伝いさんにして下さい。』

俺と榊さんは盛大に日本酒を吹いた。この声はあの娘の...そうか、『声色』。Sさんだ。
「何だよ~いきなり。Sちゃん、俺の心臓止める気かい?」
「いいえ、もうそろそろ本題に。依頼の内容を聞かせて戴こうかと思っただけです。」
「そうか。それはそう、だな。折角来て貰ったんだから。」
ウーロン茶のグラスを持った、Sさんの笑顔。しかし榊さんの表情、冷たい翳りは?

「あの娘の、気持ちを変えて欲しい。俺に関する記憶を消せるならそれも。」
!? どうして...あの夜、榊さんもあんなに楽しそうに。
「とても辛い状況から助け出されたから、あの娘は思い違いをしてるんだ。
これから色々な人に出会うんだし、その中にはあの娘を待ってる運命の人もいる筈だ。
俺の事を好きだなんて思い違いは、あの娘の未来を狭めてしまう。」

 

違和感。

本庁からも一目置かれる『チーム榊』のボス。その話術は筋金入りの犯罪者の心さえ。
それなら、何の問題も無くあの娘を説得出来る筈。なのに何故俺とSさんに?
掘り炬燵の中で、右の爪先が軽く踏まれた。Sさんだ。つまり、これは俺の役目。

「榊さん。術者に仕事を依頼するのに、嘘はいけませんよ。基本中の基本でしょう?」
「嘘?」 一瞬、顔から肩に膨大な熱を感じた。 正面から押し寄せる激情。 熱い。
自分の歳の約半分しか生きていない若造相手。しかし、榊さんは見事に感情を抑え込んだ。
それとなく額の汗を拭い、心に鍵を掛ける。 そう、出来るだけ平静を装うために。
「榊さんなら説得は簡単でしょう?さっきの通り説明すればあの娘も理解する筈。
なのに何故わざわざ僕達に? 一体榊さんは何を、困っているんですか?」
「参ったな...分かった、正直に言おう。俺もあの娘が好きだから、困ってるんだよ。
いつも通りに話が出来れば説得は簡単だろうが、その間、自分を抑えてる自信が無い。」
「え~っと。相思相愛なら、何の問題も無いんじゃ?」
あの娘は18歳。母親は既に亡く、継父とは法律上の親子関係が無いと聞いていた。
それならあの娘の意思だけで結婚を決めることだって出来る。
「歳の差だよ。 45-18=27 幾ら本人の希望でも、それは無理。だろ?」

 

「あの、榊さん。」 「何だい?」
「亡くなった奥さんと結婚した時は周りの反対を押し切ったって聞きました。なのに何故今回は?」
「反対、か。確かにあの人の御両親は俺たちの結婚に反対してた。
でもそれはあの人が中々結婚を承知してくれなかったからだ。
『1年も経たずにあなたをバツイチにするって分かってるのに、結婚なんて。』 そう、言ってな。
でも、俺はどうしてもあの人と結婚したかった。それに。」
榊さんは言葉を切り、窓の外を見詰めた。目尻にうっすらと、涙?
「もしあの人が妊娠したら、俺たちの子供が出来たら、一族の護りがあの人にも、そう思った。
結局それは、間に合わなかったけど。」

「榊さん、あなたは『約束』を果たすべきです。未だ果たしていない『約束』を。」
Sさんの優しい、それでいて厳しい表情。
「Sちゃん、『約束』って。まさか。」 少し、榊さんの声が震えている。
「結婚を承知するのと引き替えに、あの人と交わした約束です。」
「それは。」
Sさんは眼を閉じ、ゆっくりと、深く息を吸った。

『もしもあなたが誰かを好きになって、
それが一族を護る力の仕業だと分かったら、その想いは冷めてしまうの?
もしもあなたの前に現れた女性が私の生まれ変わりだと分かったら、
今と同じように、どんな障害も乗り越えてその人を愛するの?』
違う、これはSさんの声じゃ無い。それに、あの娘の声でも無い。だとしたら。
「分からない。本当に分からないんだ。君を失ってから、俺は何も。」
『たとえ私が死んでも、きっとあなたは幸せになって。
素敵な人をお嫁さんにして子供を作って、お父様とお母様を安心させて。
あんなに約束したのに。』
「確かに約束したよ。でも君が俺を残して逝ってしまって、俺はどうしたら良いのか。」
『私も精一杯頑張る。約束、あれから一時だって、忘れてはいない。それは今も』
「俺は...」
榊さんはそれきり黙った。俯いたまま、テーブルの上で、きつく握りしめた両の拳。

 

Sさんが俺の右肩に触れた。小さな目配せ。
そうか。素早く立ち上がり、壁のハンガーからSさんのコートを取る。
「ご馳走様でした。依頼はキャンセル、車を呼んでおきます。落ち着いたらどうぞ。」
Sさんは俺が着せかけたコートに袖を通したあと、座敷の襖をそっと閉じた。
廊下を進むSさんの軽やかな足取り。後を追いながら声を掛ける。
「『武士の情』って事ですか?あとは榊さん自身が。」
「武士?良い歳して、まるで駄々っ子じゃないの。あれじゃ恵子ちゃんが可哀相。」
ふと、立ち止まったSさんが振り向いた。
「でも、あなたは違う。榊さんの半分しか生きてないけど、駄々っ子じゃ無い
何時だって真っ直ぐで、一生懸命で。私、あなたの事、大好き。」
熱く、長いキス。

 

運転席のドアを閉じ、助手席に乗り込むとSさんがケイタイを取り出していた。
「もしもし、そう、S。今『藤◇』を出る所。車出して貰うように話して頂戴。
ちょっとキツく言い過ぎたかもしれないから、しっかり慰めて上げてね。
依頼の件は多分成功。全部上手く行ったら報酬は約束通り、忘れないで。」
白く細い指がボタンを押し、ケイタイを仕舞う。続いてキーを捻った、低いエンジン音。
「今の電話の相手、もしかして。」 「そう、恵子ちゃんよ。」
「今夜の、本当の依頼主はあの娘だったんですね?」
「あなたの依頼主は榊さん、私の依頼主は恵子ちゃん。
あなたも私もそれぞれの仕事をしっかりこなした。そういう事。」
「でもこれは二重」 Sさんは人差し指で俺の唇を押さえた。
「細かい事は言いっこなし。最大多数の最大幸福、それはいつだって絶対の真理。」

 

「あの、もう、1つだけ。」 「なあに?」
「仕事の報酬って。あの娘はまだ高校生で...もしかして榊さんの御両親が?」
「いいえ、榊さんの御両親は無関係。」 「じゃあ、一体どんな報酬を?」
「折々の葉書。」 「葉書?」
「そう。まずは式と披露宴の招待状。それから近況報告を兼ねた年賀状とか暑中見舞い。
依頼への私たちの対応。それが本当に正しかったのか、確かめなきゃいけないでしょ?」

その後、チーム榊の会合で、
水野という青年のモノマネに新たなネタが加わったと聞いた。
それは多分、犯罪かと見まごうほど若い夫人と、可愛い子供達にデレデレの榊さん。
なら、俺と女装の結びつきはとうに『過去』。 きっとそうだ。
暗い山道に響く、力強いエンジン音。 本当に気持ちが良い
待てよ、でも今夜は聖夜じゃ。 いや、俺はキリスト教徒じゃない。何の問題も。
とても綺麗な、Sさんの横顔。 自分の頬に笑みが浮かぶのを感じた。
そう、何の問題も無い。 明日からまた、一生懸命に生きるだけだ。

 

 

『続・聖夜』 完
藍物語シリーズ【全40話一覧】

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