『ミキちゃんの人形』人形にまつわる怖い話【15】|厳選 洒落怖名作まとめ

『ミキちゃんの人形』人形にまつわる怖い話【15】|厳選 洒落怖名作まとめ シリーズ物

 

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人形にまつわる怖い話【15】

 

ミキちゃんの人形

俺は東京で働いていて家庭を持ってたんだが、2年前からちょっとキツイ病気になって、入退院をくり返して会社をクビにされた。
これが主な原因なんだが、その他にもあれこれあって女房と離婚した。

子供は女の子が二人いるんだが、俺が生活能力がないんで女房が育ててる。
申し訳ないと思ってるが、今のとこ養育費なんかも払えないでいる。
それでなんとか病気のほうは小康を得て、今は郷里に帰ってきて療養している。
療養というと聞こえがいいが、実際は年老いた両親の元に、一文無しで帰ってきたやっかい者だから、当然、近所も親戚の評判もよくない。

で、こっちに帰って来てパチンコに行く金すらないから、ヒマな時間は釣りをして過ごすことにした。
竿は中学校のとき使ったファイバーのやつで、仕掛けもそのまま残ってた。
それで近所の川でずっと鮒釣りをしてた。で、先月のことだ。
その日も朝から釣りをしてて、仕掛けは鯉用に変えてたから釣果はなし。

日が暮れたんで帰ろうと思って竿をあげたら、針になんか引っ掛かってるんだよ。手元に寄せてみたら、ぐしょ濡れの15センチばかりの、プラスチックなんかでできてるんじゃなく、中に綿を詰めた布製で髪の毛が毛糸でできてる女の子の人形。
俺はそれを見てあっと思った。
もう30年も前の記憶が一気によみがえってきた。

俺が幼稚園の頃なんだが、近所にミキちゃんという一つ下の女の子がいてよく遊んでた。
その子の家は俺の実家から100mくらい離れた通りの向かい側で、バラックに近いぼろぼろの家だった。
今はスーパーの駐車場になっててないけどな。
その子は片親で、アル中の親父と暮らしてたから、かっこも汚くて髪もぼさぼさで遊ぶものもほとんど持ってなかった。

家でまったくかまってもらえなかったんだろう。
幼稚園にも保育園にも行ってなくて、俺が幼稚園から帰ってくるのをずっと俺の家の前で待ってて、「お兄ちゃん遊ぼ」と言って駆け寄ってくる。で、釣り上げた人形は、その子がいつも脇に抱えてたやつによく似てるんだよ。

何でこの人形のことをすぐに思い出したかっていうと、実はそれは俺が川に投げ込んだからなんだ。
俺が小学校に入ってミキちゃんとはほとんど遊ばなくなった。
これは、ミキちゃんと遊ぶと新しくできた小学校の友達から、からかわれるというのが大きかった。

だからいつものようにミキちゃんが俺んちの前で待ってても、話をしないで横を向いて家に入っていくようにした。
その頃にはミキちゃんはボロくずのような格好になってたし、アル中の親父が酒場なんかのあちこちで迷惑をかけるせいで、俺の両親もミキちゃんと遊ぶのを歓迎してなかったしな。

ある日、俺が河川敷で友達と野球か何かして遊んでると、ミキちゃんが近づいてきて、その人形を草むらにおいて膝を抱えて俺らが遊んでるのを見てる。
俺は友達からからかわれるのが嫌だったから、ミキちゃんに帰れ!って怒鳴ったんだ。

だけど、それが聞こえないように、やっぱりニコニコしてこっちを見てる。
俺はなんか無性に腹が立って、ミキちゃんのほうに走っていくと、草の上に置いてあった人形をつかんで川に投げたんだよ。

人形は土手の下の草に落ちて、川まで落ちたかどうかはわからなかった。
ミキちゃんは俺のやったことを見るとはっと息をのんで、ものすごく悲しそうな顔をしてとぼとぼと帰って行った。
で、それから1ヶ月くらいして、ミキちゃんはアル中の親父に殴られて死んだんだ。

釣り上げた人形を見てそれらのことをバーッと思い出した。
でもありえないだろ。30年以上前の布の人形がそんな長期間 残ってるなんて。だから、似てるけどまったく別の物だと考えることにしてもう一度よく見ようとしたら、耳もとで、

「お兄ちゃん遊ぼ」という声がはっきり聞こえたんだ。

振り返ってあたりを見回しても誰もいない。
俺は水を浴びせられたようにぞくぞくっとして、その人形を川に捨てた。
そしたら、水を吸ってるせいなのか人形は石のように沈んですぐ見えなくなった。

俺は逃げるようにしてその場を離れたんだが、
一人になってあれこれ考えているうちに、
ものすごく切ない気持ちになったんだ。
それで、ずっと忘れてたミキちゃんの墓参りに行こうと思った。

で、おふくろに場所を聞いて行ってみた。ミキちゃんの墓は本家筋の墓の脇に小さな自然石が置かれてるだけだった。
親父は警察に捕まってるし、墓があるだけでもましなのかもしれない
とか考えながら手を合わせているとふっと陽がかげってセミの鳴き声が止みその苔むした自然石の墓の後ろから黒い小さな影が立ち上がった。
そして、「お兄ちゃんがんばれ」と小さな声で言った。

いや、小さな声が聞こえたような気がしただけ黒い影を見たような気がしただけすべては俺が自分の心の中でつくり出した幻覚だったと思う。
俺はミキちゃんの墓の前に両ひざをついて長い長い間、立ち上がることができなかった。

帰る道すがら、女房に預けてある二人の娘のことを考えた。
がんばらなきゃいけないなって思った。

それかミキちゃんの墓には大きな人形を買ってお供えしようと思ってる。

人形にまつわる怖い話シリーズ

1 呪いの人形

2 人形マニア

3 手を振るモノ

4 人型焼き

5 不幸を受け止める人形

6 ばあちゃんの人形

7 俺>>>呪いの人形

8 市松人形が呼んでいる

9 マネキンの警告

10 人形のご指名

11 姪と人形

12 逃げる人形

13 千寿江

14 潜り込んだ人形

15 ミキちゃんの人形

16 どうするの?

 

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