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『診療所』|洒落怖名作まとめ【長編】

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『診療所』|洒落怖名作まとめ【長編】 長編
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診療所

 

これは私の住んでいる家についての話です。

私が今住んでいる家は、元々は産婦人科の診療所だったところです。
今も『患者待合室』とか『レントゲン室』という標識や機材がそのまま残っています。
家の半分は診療所当時のままの状態で、家具や本など以前の住人のものがそのままにされています。

そして、残りの半分は改築されて私と家族が住んでいます。

私達は、家の半分の当時の診療所がそのまま残されている部分を
『診療所』と呼んでおり、そこにはほとんど誰も入りません。

引っ越してすぐの子供の頃には
興味本位で何度か入ったことがありますが、
入ってみると、なんとも異様な空気を感じました。

ゴムが焼けたような異臭がしていて、
なんだか生温い感じと、床がべたべたした感じがします。
ある程度奥までいくと、『診察室』があるのですが
この部屋は開けられませんでした。

外に回って窓から覗き込むと『診察室』の中が見えるのですが
本棚らしきもので入口が塞がれているだけで、普通の診察室といった感じです。

『診療所』の空気が気持ち悪いこともあって、入ろうとは思いませんでした。

もう半分の家の話をします。

家の半分は改築されたと話しましたが、
その中で私に割り当てられた部屋は『院長室』だった部屋のようでした。

私が小学生の頃、仲が良かった近所の子を家に招きました。
便宜上、A子さんと呼称します。

A子さんは定期的に目薬を差していて、
その日も、私の部屋でビデオを見た後に目薬を差していました。

その時、A子さんが上を向いて、
「天井から青い手が出てる」と言い出しました。
私が天井を見ても何も見えませんでした。
「何もないよ」と私が言っても聞いてくれません。

目薬を差すくらいだから、目が悪くて変なものを見たのだろうと思いました。
それ以来A子さんは私の部屋に来ることはなくなり、次第に疎遠になりました。

高校生になった頃、私は新しい友人B君を部屋に招きました。
B君は農家の子供で、少し信心深いところがある人でした。
B君は私の部屋に入ってしばらくして、
「天井から男の子が見てる」「なんかヤバい、出よう」と言います。
私は正直、B君を変な奴だなと思いました。
B君が指さす方を見ても、天井しかありません。

B君は必死になって「なんとかしないとヤバい、お前も判るだろ」と言っています。
私はとりあえずB君に合わせることにしました。
B君はその後、私の家について調べたほうが良いと言い、
学校の放課後、一緒に図書館で昔の新聞のバックナンバーを調べました。

気になる記事が二件ありました。

一つは交通事故。私の家の前で男の子が車に轢かれて死んでいました。

もう一つは、医療ミス。
私の家が診療所だったころ、母子ともに亡くなった事件について書かれていました。
記事によると医療ミスは、繰り返されていた可能性があるとも書かれていました。

B君は「交通事故で死んだ男の子を供養しよう」と言いました。

そういえば、かなり前に知らないおばあさんが訪ねてきて、
「○○診療所はここですか?」と聞いた後にお花を置いていったことが一度ありました。

私はその場所の近くに、亡くなった男の子の簡単なお墓を作り、
知らない男の子の死後の安息を願いました。

それから、私の部屋の天井裏から音がするようになりました。
今のところ、私しか聴いていないようですが、
何かが暴れているような、ギシンバタンとかなり激しい音です。
このところ騒音が原因で眠れないことも多いです。

B君は、私の家に近寄りたがりません。

それから少し経って、私の家の話を聞いたC君が興味を示しました。
C君はこの家の奥で塞がれている部屋、
『診察室』に入ってみたいと言いました。

私はまず、父に話して許可をとり、
窓を壊して『診察室』に入れるようにしました。

その後、家族がいない合間を狙ってC君と『診察室』に入りました。
やはり、中には重苦しく気持ちの悪い空気が漂っていましたが、
それ以外は存外に普通であるように思いました。
C君をみると余り長時間は居たくないような様子でした。

2人で見渡すと、
診察室の中には似つかわしくない『金庫』が見つかりました。
ですが、勿論鍵がありません。

その後は何も発見できず、C君はがっかりして帰りました。
私は父に『金庫』を開けてもらうようにせがみました。

父は快く承諾してくれました。
「鍵屋さんに頼んでみて、駄目だったら金庫を壊してしまおうか」
なんてことも言っていました。

それからしばらくして、『金庫』が無くなりました。

父に聞いてみると、
「あの『金庫』は友人の処に預けた」
「もう戻ってこないから見せられない」
「中身は何も入ってなかった」と言っていました。

そうして、『金庫』が無くなってから、『診療所』に入っても平気になりました。
なぜか、長くいたら倒れてしまいそうなあの嫌な空気が消えてしまったのです。
今現在、『診療所』は物置になっており、頻繁に人が出入りするようになっています。

あの『金庫』が何なのか、どうなったのか。
未だに判りません。

申し訳ありませんが、私の家の話はここまでになります。
実際、私が感じられたものは『騒音』と『異臭』だけで何も見えていません。
怪談ですらない話であるのかも知れません。

今でも、夜になると天井裏からギシンバギィという騒音は響いています。
物凄い騒音なのに、家族には何も聴こえないと言うのが少し奇妙だと感じています。

□ □ □

家の半分が診療所のままである理由、父に聞いてきました。
先に補足しますと、私の父は医師として働いていたことがあります。

この家は売り出し時、夜逃げ同然の状態であったらしく
前居住者の物品がそのまま全て残っていたそうです。

入居する際には便利屋に依頼して
わざわざ物を撤去してもらったりしたそうですが、
父のある考えの為に、半分だけそのままの状態になりました。

父は病院に勤めていましたが、
定年退職したら開業しようと考えていたそうです。

そのためのスペースが家の半分、『診療所』だったとのことです。

□ □ □

結論から言いますと、金庫をみつけることができました。

当時、あの『金庫』について父に聞いても
何も教えてくれなかったのですが
一昨日聞いたら今日持ってきてくれるとのことでした。

実際に見てみたところ、何の変哲もないただの金庫でしたが
金庫の扉が新しいものに差し替えられていました。

中が汚れているということもなく、
外側もとても綺麗な状態になっていました。
大分怪しいですが、当時から何も入っていなかったとのことです。

今思い出してみると、
金庫がなくなったあたりからしばらくの間、
父はよく家の床下や天井裏に潜りこんでいました。

耐震補強だと言っていましたが、少し不自然だったようにも思います。
もしかすると『異臭』の原因は床下か天井裏にあったのかも知れないです。

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