妖怪退治の仕事シリーズ『先生の話 その3』|【11】洒落怖名作まとめ

『先生の話 その3』妖怪退治の仕事シリーズ|洒落怖名作まとめ【ホラーテラーシリーズ】 シリーズ物

 

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【妖怪退治の仕事シリーズ】- 妖怪退治の仕事してるけど、何か質問ある?

 

先生の話 その3

最終的に天命を漏らしつくしてしまった人間はどうなっちまうかというと

「無くなる」

人間でいう意味合いの寿命は、人間が生きていて脳みそが動いている間のことを言うけど

天命の意味合いでは、寿命というのは、その生まれる前から、死んだあと
死体も完全きれいさっぱり無くなっちまうまでの時間のことを指す。

つまり、完全に寿命をなくしちまったものは「無くなる」

世間一般でいう物理的な失踪以外で、神隠しとかなると
この理由がとても多いんだよ。

まぁ、だから一度神隠しにあうと、よく次なりやすいとかいわれるけど
そりゃあ、寿命大部分なくしてるんだからね

いつ天命がつきて消えちまってもおかしくないんだよ。

だから、天命漏らしで生存した場合
別に歳を異常に取って帰ってきたりしたない。

取られた量にもよるけど、普通に年取って死んでから、死体が消えるのが普通より早いとか
そういうこともあったりする。

そんでもって、天命漏らしした人間自体は漏らした天命を覚えていない。

これは妖怪が忘れさせるのか、それとも知らないはずのことを知ったとしても
知ったままでいるのはおかしいから、天罰みたいな感じで強制的に忘れ去られるのか
分からないんだけど。

言ったかわからないけど、まず人間がなぜ天命を知ることができるのかというと。

どういった宗教や地域の神話でも、人間は神さまが作った残されている。
その神さまって言うのは、もちろん妖怪が祭られてできたような茶ちゃっちいやつじゃなくて

天地を創造するクラスの神さまだ。

日本神話的だと人間は神さまの子孫と呼ばれてるしね。

他の国だと、神さまの息からできたり、神さまの乳首からできたり色々だけど。

でも、人間というのは神さまの一部だったんだよ。

つまり、量は少ないけど。質的には人間と神さまはほぼ同じらしい。

これも人間が動物とかと比べたら、かなり修業しやすい理由の一つだね。

よくある昔話で、たかが数十年修業したお坊さんが
何千年も頑張った妖怪を封印できたりする理由がここにあるのかもな

まぁ、話がそれたんだけど、そのため人間は天命漏らしができる
しかも、した後はしばらくはそういう神であった部分が刺激されて

目に見えないようなものたちに対して敏感になってしまう。

先生の姪さんは、まさにこの状態だね

 

まぁ、天命漏らしについては、あくまで昔俺の教わった話で
先生と弟さんがいたその場ではしなかった。

先生は霊感のほうは大したことにならないと弟さんに言った。

今は色々見えすぎていてひどいらしいけど
そのうち落ち着く。もちろん、少しは後遺症として残ってしまうらしいけど

それを聞いた弟さんは少し安心したみたいだけど。

ただ、問題は、寿命がかなり縮んでいる可能性がある
と、先生は続けた。

弟さんは驚いて、なんとかできないのか?と先生に聞いた。

先生はしばらく悩むと。難しそうな顔をして、こう言った。

方法は3つある。

出たよ。
俺は複雑な気持ちになった。

 

妖怪関係で、天命漏らしでちじんだ寿命を回復させる方法は
まぁ、色々あるんだけど

その大体は妖怪を呼びだして、聞き出した予知を忘れてもらう
という手法だ。

人間の知識欲の話があったけど、人間は忘れたいと思えば思うほど
忘れたいと思う知識は頭にこびりついていって、自分から忘れられない

でも、妖怪はそれと違う

忘れたいと思ったことをすぐに忘れられるらしい。
そんで、おぼえていたいと思ったことはずっとおぼえてる。

だから、妖怪の恨みは妖怪自身が納得しなければずっとづづくし
納得すれば、すぐに忘れちまって、それで終わる。

昔のことでも重要なこと以外は全部忘れちまうらしい。

その忘れてくれるようお願いするのが第一歩。

その次なんだけど、妖怪が忘れたとしても、失った寿命が戻ってくるわけじゃない。
何かしらの方法でそれもなんとか元通りにしないといけない。

そんで最後なんだけど

寿命を奪われないようにする。

これも結構大変で。一度とれたシールを貼り付けても
取れやすくなるのと同じように、寿命も勝手に多めに流れてしまうらしい。

これをなんとかしないといけなかった。

先生のいう三つの方法の一つ目。

それは「宏願」を発するというものだ。

天命漏らしの結果、寿命がなくなるんだけど、誰が寿命をとっていくかというと
閻魔大王とかそう言うのじゃなくて

天道というか、この世界そのものが取っていくんだよね

じゃあ、その寿命を天道に返してもらえばいい。

まぁ、もちろん、返して言えば、返してくれたら苦労しない。

そこで取るのが「宏願」だ。

本来の「宏願」というのは、いわば天に対する借金をするようなものだ。
言葉で説明するとなかなか分かりずらいと思うから

今回も有名な一例で説明すると

みんなは地蔵菩薩ってしってる?

 

地蔵菩薩というのはまぁ、本当かどうかわからないけど
もともとは普通のお坊さんだった。

もちろんそれなりに徳は積んでいたけど、でも菩薩に至れるほどのものじゃないし
力もそこまでじゃなかった。

でも、心やさしいそのお坊さんは「宏願」を発した。

曰く「地獄を空にしなければ、地獄から出でることなし」と

まぁ、つまり地獄にはたくさんの悪い人がいて、心残りがあって成仏できない霊とか
もたくさんいる。

しかも、毎日現世ではそういう人がたくさん死んでいるから、その数は絶えない。

お坊さんは地獄にいるすべての人間を救ったり、改心させるまで
地獄から決して出ないと誓った。

これにより、お坊さんはそこまで道行を持っていなかったにもかかわらず

天道より、「菩薩」の位と力を前借して、地蔵菩薩になった。
もちろん、そのかわり、地獄を空にしなければ、永遠に地獄にいることになる。

というか、多分永遠にいるw

とてつもない願いをして、それを果たすための力とかそういうのを
世界から前借する。

このやり方を「宏願」というんだ

もろちん、誓えばすぐ力が手に入るとかそんなことではないww

じゃないと、多分みんなやっている。

それなりに儀式とか準備して、修業も積んで
そして何より、その誓い事が天の意志というかなんというか
そう言うものの流れに沿っていて

しかも、それをやり遂げるという本物の決心が必要だ。

地蔵菩薩はもともと力がそれなりにあったし、何より願い事がすごく立派で
しかも、それを本当にやり遂げるというかたい心があった。
だから成功したんだね

「宏願」自体はかなり前話した気がするけど、神道における神さまのなり方に少し近い部分はある。

ただ、もっと俗世的な例とかもあって。

たしか三国志で諸葛孔明もなんかの儀式をして、寿命を延ばそうとして
失敗したとか何とかあったけど、あれも一種の「宏願」だ。

漢という国を復興させるから、寿命もっとクレーてきなw

 

まぁ、そこまででかい願いじゃなくとも
もっと色々考えられる。

例えば、親孝行したいとか。何か重要なものを発明したいとか

地蔵菩薩ほどじゃないにしても、そういうのでも「宏願」を発することはできる。
そして、それ以降は、そのことを人生のすべてとして生きていく。

もしかしたら、世の中のすごいプロとかの人たちの中にも、無意識のうちに
この「宏願」というのを発している人がいるかもね。

そんで先生の姪の話に戻そう。

姪は天によって、寿命を取られてしまった。
ここで、「宏願」という手法を取る理由は

「何々するから、寿命かしてー」の場合、「宏願」はかなり難しいが

「何々するから、寿命返してー」だと、まだぎりいける感があるよな?

どうやら先生の中では姪を弟子にするのはすでに確定事項のようで

うちの流派「搬山」というのは前にも言った通り
なによりも、堅い意志が重要になる。

そのためのまぁ、身構えというかそういうものについての方法とかも少しはある。

それを踏まえて、姪にしばらく道行を積んでもらい。
それになりになったときに、何かしら「宏願」を発し、寿命を取り戻すという
割と長期的な方法だ。

 

まぁ、ただ、この方法の場合にもデメリットはある。

まず一つに、長期的なものというと、つまりそれは少なくとも10年はかかる
ということだ。もちろん「器」の個人差はあるけどね。

でも、姪の天命はいつ尽きるかわからない。
そんな悠長に構えていたら、すぐにでも神隠しにあっちまうかもしれないw

しかも、その過程で姪が自分の「道」と人生をかけるほどの願いを見つけられるかどうか
も実際のところわからない。

人生で結局なにしたいのかわからないまま終わる人間のほうが世の中大半だ。

搬山流で、見つけ方を学んだとしても、見つけられるかどうかは結局個人次第。

適当な目標で「宏願」に臨んでも、失敗するだけだしね。

二つ目の方法は一つ目の方法のように時間のかかるものじゃなく
短期決戦をねらうものだ。
その代わり、少し危険度もあがる。

これは姪さんに天命を漏らさせた妖怪を呼びだして
そいつと交渉して、漏らした内容を忘れてもらうというものだ。

前にも書いたが

人間というのは知識欲のせいで、何かを忘れようとしても
逆に印象が深まっちゃう

そんでずっとおぼえようと思ったことは時にふらっと忘れちまう。

でも、妖怪の場合はそんなことなくて
おぼえたいと思ったことは永遠におぼえているし
思い出したくないと思ったことはすぐに記憶から消すこともできる。

もしその妖怪が、漏らされた内容に何かの執着がなければ
それを忘れてもらう。

その上で少し儀式をして
天命を漏らさなかったことにして、寿命を戻す。

ただ、この方法にも不確定要素がいくつかある。

まず、本当に妖怪が忘れてくれるか。
ここら辺は他力本願になる。

また、天命を漏らした場合、聞いていたのは妖怪だけじゃない可能性もある。
妖怪が何かしらの方法で自分だけ聞こえるような細工をしなければ

その時、周りにいた風、土、草、木とかそうものも広くカウントされる。

そうなった場合、もう手の着けようがなくなる。

 

そして三つ目の方法。

この方法はもっと確実性がある。
でも前の二つと比べてぐーんと危険度も跳ね上がる。

みんなはピンと来るかどうかわからないけど「件」って妖怪がいるよな?

まぁ、知らん人はググってみておくれ。あれも、重大な予言を残して天命が尽きて
死ぬんってのは有名だけど

名前の由来は多分人+牛で漢字で件になったんだろうね。

ただ、こいつには元々の名前があって。
仏教由来だった気がするんだけど「如是」という名前らしい。

「如是」は世の中にものすごい悪いことが起きようとした時に生まれてそれを予言する。
予言する。そんでその予言はほぼ回避できないらしい。

でもあまり知られていないけど、実はこの「如是」って妖怪の予言は
半分でしかないらしい。

残り半分はどうなるかというと

「我聞」という妖怪が生まれて、それを残すはずらしい。

「如是」という妖怪は牛の体で、人間の頭を持っているらしいけど、「我聞」は
その逆で、牛の頭と人間の体を持つ。

「我聞」は「如是」が死んだあと、すぐにその10里以内に必ず生まれてくる。

そして、そこで「我聞」も予言のもう半分を残して死ぬ。

これでこの予言は完全に避けられないものになるんだけど。
もし、「我聞」が生まれた直後にこの妖怪を殺すことができれば
予言は回避することができる。

 

それを踏まえてだけど

実は「天命漏らし」をした人間も、死んだ後に

「我聞」に近い妖怪が生まれるらしい。

第三の方法とは俺の時に言われた三つ目の方法と似たもので。

「我聞」に近いその妖怪に先生の姪が死んだと勘違いさせて
生まれてきてもらう。

そして、それを殺し、予言自体を不発にする。

不発になれば、予言はしていないことになるから
そこからまた寿命を呼び戻す。

まぁ、この方法の危険性は昔に説明したとおりだ。
ただ、この場合、厄介のは「我聞」を探して殺すという点だ。

まず「我聞」が見つけるのが難しい。
そして、見つけたとしても、そいつが予言する前にそいつのいるところに行けるかが疑わしい。

さらに、見つけたとしてもその妖怪を殺す必要がある。
腐っても妖怪だから、それなりにリスクはあるだろう。

それに何度も言っているが、うちの仕事は「退治」というより「交渉」だ。

なのに、自分たちの都合で妖怪を害するのは
どこか道を踏み外している行為だからね。

 

3つの方法を話し終えると、先生の弟さんは難しい顔をした。

まぁ、どの方法を取るにしても、結局危ないのは変わりないからね。
弟さんは先生に、どの方法を取ったらいい?と聞いたが
先生は黙って首を振った。

そんで、最後どの方法を取るかは弟の娘自身に決めてもらおう。と言った。

ここで方法とか勝手に決めても、本人が納得しなければ、それをやることはできないのだ。

弟さんはそれもそうか…と切なそうな顔をすると
とりあえず、今日はもう遅いですし、詳しい話はまた明日にでもと言った。

彼も色々考える時間ほしいんだろうね。

先生と俺は自分にあてがわれた客室にもどり、そのまま寝ることにした。
部屋に分かれる直前、先生はお前ならどうする?とさりげなく俺に聞いてきた。

俺は分かりませんと答えた。

先生はめずらしく疲れたような口調で、やっぱり半人前だな。
と言った。

その日の晩は腹がかなり減っていたせいもあって
なかなか寝付けなかった。

そんで、長い間目がぱっちりしていると、ついトイレに行きたくなってきたんだ。
トイレの場所はあらかじめ紹介されていたので、そこに向かった。

するとトイレの前には弟さんの奥さんがいた。トイレのドアは閉まっていて
中から「オエェ」と嘔吐する声が聞こえてきた

聞き覚えのある声で、どうやら先生の姪が入っているらしい。

俺はちょっと気まずくなった。
まぁ、こうなったのは自分の責任が大きかったので、正直あまり合いたくない相手だった。

 

ここから新しいやつ。

そのまま踵を返して、隠れて庭に行ってどっかの草むらにでも用を足そうと思ったが
トイレの扉の前にいた弟の奥さんはその前に俺に気がついた。

どうも、といった感じに頭を下げ
どうなされましたか?と聞いてきた。

俺は仕方なく、トイレをお借りしたかったけど、どうやら今は使えないようですね
と答えた。

奥さんはすみません、でも、今すぐ出させるので…
と申し訳なさそうな顔でそう言った。

いや、もとはといえば、俺が原因のようなもんだし、謝られても困るし
でも、実際尿意はやばかったから、ごゆっくりーとも言えなかったし
そう言うのもなんか違う気がしたから、俺はそのまま言葉に甘えることにした。

奥さんはトイレのドアをトントンと叩くと
ミサト、大丈夫?一度出てもらえる?的なことを言った。

そこで初めて、先生の姪の名前を聞いた。

 

すると、トイレの中から水を流す音がした。

そして、なにやらドタドタと体が壁に当たったする音とかして
トイレのドアが開いた。

中から出てきた先生の姪は赤い布のようなもので目隠しした状態だった。

この布のついてなんだけど。霊感ある人とかも試してみてもいいけど
赤い絹の布を2重にして目に被せておくと、幽霊はともかく
大抵の妖怪は見えなくなるはず。

視界もかなりわるくなるんだけど、でもうっすらぼんやり物の大体の輪郭はわかるはず

先生の姪、まぁミサトさんはそれをしていた。
弟の奥さんは手に湯気が出ているお茶の入ったコップを持っていたんだけど
それを彼女に渡して、2,3口飲ませた。

失礼します、というと、ミサトさんの手を引いて、俺のそばから通ろうとしたんだけど

 

ミサトさんは急に「っひ」って小さな悲鳴をあげると
何かにつまずいたように、転んでしまった。

もちろん、何もないところだった。

奥さんはあわてて彼女を支えたんだけど、そのかわり手に持っていたコップのお茶が
俺の手にかかった。

結構暑かったので、俺は思わず「アツッ!」と声を上げた。

そして、そこで目が覚めた。
あれ?っと、ぼんやりしながら思った。
あたりを見渡すと、泊っている客室だった。

しばらくして、目が完全にさめると。
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていて、トイレに行ったのは夢だったと理解した。
妙に鮮明な夢だったけどね。

みんなはどうか知らんけど、俺はトイレに行く夢をよく見たいりする。

子供の時はそういう夢を見ると大抵そのままトイレで用を足して
そんで目が覚めると、おもらしをしてたりするんだけど

大人になってからは、トイレに入って、用をたす直前とかに目が覚める
そんでそういう時はいつもものすごくトイレに行きたい時だ。

もちろん、この時もそうで、俺はしょんベンしたくなった。
だから、夢の通りに、布団から這い出て、トイレに向かった。

 

トイレが見えたあたりになると、そこには人影があった。
弟さんの奥さんだった。

あれ?と、俺は激しいデジャブに襲われた。

そんでさらに近寄ると「オエェ」っと夢の中と同じ嘔吐するような声が聞こえてきた。

奥さんは俺が来るのを見ると全く夢の中と同じ口調でどうなされましたか?と聞いてきた。
不思議に思った俺はとまどいながらトイレを借りたいのですが…と答えた。

そこからの展開は全く夢と同じだった。

奥さんはミサトさんに大丈夫?と聞いて、彼女がトイレから出ると、お茶を飲ませて
そんで、2人は去ろうとするはずなんだけど

そこで2人の動きは止まった。

そして、視線だけをゆっくりと俺のほうを向けると。
何とも言えないいやらしい笑みに顔がゆがむ。

俺はかなり驚いて絶句して、そして次の瞬間、急に奥さんがカップのお茶を俺にかけてきた。

結構暑かったので、俺は思わず「アツッ!」と声を上げ、そんで

目が覚めた。

客室だった。

 

なんなんだよ。俺はそう思った。
夢の中で夢を見ていて、そんでそれがループした。

いや、ループしたとは違った。最後あたり、奥さんは明らかに悪意を持って俺に
お茶をかけてきた。

夢の中なんだけど、不思議にあのお茶の暑さには痛みを感じた。

俺はためしに頬をつねってみたんだけど、その時は痛みはなかった。
俺は察した。自分はどうやらまだ夢を見ているみたいだった。

俺は何かに導かれるように、また布団から這い出して、そのままトイレに向かった

 

廊下がさっきと比べて大分暗かったような気がした。

ドアの前には奥さんがいた。
そして、やはりトイレの中からは「オエェ」とミサトさんの嘔吐する音がした。
いや、もはや本当に先生の姪のその人がミサトって名前なのかどうかはわからなかったけどね

ただ、様子が少し変だった。奥さんはコップをドアにごん、ごんとぶつけていた。

コップはガラス製のものだったんだけど、少しずつ粉々になって言って
そんで奥さんの手はどんどんと血だらけになっていった。

その時はなぜかあんまり怖いとは思わなかった。

そのまま奥さんに近づいた。すると奥さんは「どうしたんですか?」
と聞いてきて、俺は素直に「トイレを借りに」と答えた。

奥さんはそれを聞くと、突然いやらしい妙にねっとりした笑みを浮かべると
もう少し待ってくださいと言って、ミサトさんをトイレから呼び出した。

そして、ミサトさんの口の中に結構砕け散ったガラス片を入れた。
ミサトさんはそれをはやりいやらしい笑みでひと噛み、ふたかみ
口から見る見るうちに血があふれ出てきた。

奥さんはそれをみると、俺にあなたもお腹が減っているならいかが?
と聞いてきた。

俺は断ったが、奥さんは遠慮しないでといってがっちりと俺の腕をつかんだ。
ものすごい力だった。
それを振りほどこうと頑張ってみたが、無理だった。
そして、ガラス片を無理やり、口の中にねじ込まれて

そこでまた、俺は目を覚ました

 

口の中ですこしだけ血の味がした。

頬をつねってみたら、痛かった。
どうやら、やっと本当に夢から目覚めたようだった。

ほっと溜息をついた。
怖い夢はよく見るが、いつもは目が覚めると内容はよく覚えてない
でも、今回は夢の内容が鮮明の分、後味が悪かった。

しばらく、そのまま布団の中で、夢を思え返しながら、ぼんやりしたんだけど

怖い夢だったし、トイレの夢だったせいもあってなのかわからんけど。
俺はまた激しい尿意に襲われた。

その時だ、俺はなんとなくわかった。
多分だけど、俺は今トイレに行くべきではないんだと。

でもおしっこは我慢できないほどだった。
だから、俺はトイレにはいかずに、最初の夢で画策したように
こっそりと庭に行って、草むらで立ちしょんすることにした。

布団から抜け出すと、忍び足で庭に通じる窓まで行って、その窓を開け
そこから庭に出た。

誰もいないことを確認して、俺はそこらへんの草むらで、ズボンを下ろした

用を足し終えると、俺は幾分か心が楽になった。

そのまま部屋に戻ろうとしたんだけど、その時だった。

結構近いところから、リズミカルに水が流れる音がするのに気がついた。
トイレの水を流す音だ。

しかし、なんだか様子が少しおかしかった。
なんというか、トイレのレバーを小のほうにひねると、水がそのひねっている間だけ
少し流れるじゃん。多分それの音なんだけど

それを一定の間隔で、まるで楽器を演奏するように、水を流してるんだよ。

俺は不思議に思った、何なんだろうか?

 

正直、トイレは夢のこともあるけど、あんまり関わりたくなかった。

先生の実家の庭は割と広かった。その水がリズミカルに流れるトイレは庭側に面して窓があった。
俺はひと眼だけその窓を眺めたが、電気はついていなくて中は真っ暗だった。

俺は少しだけ悩んだが、知らないふりをしようと思い、また部屋に戻ろうかと思った。

好奇心は猫を殺すからね

でも、次の瞬間その考えは全部ふっとんだ。

トイレの中から水の音以外の声が聞こえた。
控えめの声がったけど、聞きなれた声だった。

もちろん、耳を疑った。だからさらに音に集中してみた。

そしたら、確信した。その声は先生のものだった。

 

先生は真夜中の今、トイレで何をしようとしていたのか気になった。

どうしてこんな変なことを?と一度疑問に思うと
好奇心がどんどんと膨れ上がった。

ちょっとだけ様子を見てみよう。そう決めた

俺は背を低くして、こっそりとトイレの窓のほうに近寄った
流石に窓をのぞく勇気はなかったけど

せめて先生の音が何を言っているのか、聞きとってやろうと思った。

そして、聞こえた。

じゃー、じゃー、と先生は水を流しながらこう言っていた

出ておいで、出ておいで
出ておいで、出ておいで
出ておいで、出ておいで

俺の心臓はどくんと、飛び上がった。

なんだか聞いてはいけないものを聞いた気がした。

急いで、その場から離れて、こっそり来た道を引き返し
自分の部屋に戻っていった。

急いで自分の部屋に戻った俺は、ぶるぶる震えながら布団の中にもぐりこんだ。

先生がなにをしていたにしても
というか、先生じゃない何かだったにしても

多分あのトイレで起きていたことは、俺が知るべきじゃないことだったんだ。
ひどく、トイレの様子をうかがったことを後悔した。

その日はそのままもんもんとしながら、いつの間にかぐっすりとねむった。
今度は流石に疲れがたまっていたのか、ぐっすりねむれた

 

朝になると、先生に起こされた。

時間は8時くらいだった。
俺は夜中の出来ごとが気になって、先生の様子とか観察したけど
普段通りだった。

先生は朝食ができたらしいから、食べに行こう。といった。
俺はやっとなんか食える!と喜んだ。

先生についていき、台所のほうに向かった。
そして、台所に入るドアをくぐったその瞬間

突然体がなんだか軽くなった感じがした。

 

その感覚には少し身に覚えがあった。
でも、なんでこんなところで?と俺は思って、台所を見渡した。

すると、台所の壁になんだけど、ちょっとだけ色あせた感じの墨画が一枚飾ってあった。
まぁ、台所には場違いなものであった感じはした。

ほかのめぼしいものは特にないみたいだったので
体が軽くなった原因はそれではないのかと、あたりをつけた。

俺は霊感がないから全く分からないんだけど
まぁ先生とか霊感があると言っている人によると、いつも俺の体には焼き焦げた
気持ち悪いイタチが張り付いているらしい。

でも、たまにそれが離れることもある。

理由としては、イタチたちが怖がったり、嫌がったりするものがある
というわけではない。

まぁ、一般的な妖怪たちと違って、イタチたちはもう死んでるから
そう言うのはもうどうでもいいんだろうね。

いなくなってくれる時は大抵、彼らが「顔向けできない」と思う物の前だ。
死さえ怖くないのに、恥じらいを感じるのも、なんだか変な話だけどね

俺は先生の視界に入るように、合図を出して、このことを伝えた。

あの絵。高いかも。ほしい。だます。持ち帰らない?

先生は俺の合図に気がつくと、絵のほうに目を向けた。
そんで、昼飯がならんだ机につきながら、「あきらめろ」と返事の合図をした。

まぁ、先生もそういうなら、多分無理なんだろうな、と俺は思った。

俺も先生に続いて席につくと、絵のことをじっくりと見つめた。
その墨画は、なんか湖みたいなとこに鶴?かなんかが書かれていたもので。

絵の左下に、葬×(良く読めないかった)居士 という名前が残されていた。

居士ってのは、出家者の法名とか、戒名みたいな意味や、なんかすごい修業を積んだ人のことが
居士号を取って、居士をなのるの2種類がある。

特に有名な居士といえば果心居士とかあるんだけど、織田信長の部下で幻術使いの話とかみんな知ってんのかな?

そんで、聞き覚えのあるなかで「葬」って文字がつく居士なんてただ一人。

葬死居士だ。

葬死居士については、詳しいことについては長くなるから省くことになるけど

とりあえず、葬書という書物を日本語に訳した人ってざっくり考えてくれ。
葬書は風水について書いてあるんだけど、最初の風水ってのは祖先を敬うためにあった。

だから郭璞っていう葬書を書いた人間は中国だといわゆる親孝行の神様とかにあたったりするんだけど

葬書を日本語に訳した葬死居士ってひとは日本でもほぼ同じ立場にあったりする。
ちなみにだけど、妖怪退治の流派に葬死流というのがあって、それもこの人発祥にあたる。

まぁ、風水という概念を日本に広めた的な意味でも
流派を開いた的な意味でも

人間でありながら妖怪たちからもひとめ置かれているみたいなんだよね。

なんでイタチたちはこの人に顔向けできないのか、俺もよく知らない。
そこまでこの人に関する知識はないしね。

葬死流の人間なら何かわかるかもだけど

 

しばらくぼんやりと俺が絵を眺めていると

台所のほうに先生の弟さんとその母親さんがやってきた。
朝飯は米と焼き魚とみそ汁とか、結構ちゃんとしたものだった。

そんで、飯が食卓に並び終わると先生の嫁さんはおかゆとかをもって
それを娘さんのところに持っていく雰囲気を出していた。

そしたら、先生がミサトちゃんもこっちに呼んで、一緒にたべよう。といった。

ですが…と嫁さんはすこし迷うそぶりを見せたが

先生は俺のほうをちらりと見ると
ずっとあの部屋にこもっていても、よくない。
いまなら大丈夫ですよ。と言い聞かせた

すると弟さんも、そうだね。呼んできてくれないか?と先生に同意した。

俺はミサトちゃん?と夢の中で聞いたその名前が本当に出てきたことにびっくりした。

嫁さんはわかりましたと答えると。娘さんを連れてくることになった

 

ミサトさんはしばらくして、嫁さんに連れられてやってきた。

着替えもしたみたいで、寝巻じゃなく、長袖のシャツにジーンズ的な私服だった。

ミサトさんは俺のことをみると、一瞬ぎょっとした顔になったけど
どうやら、以前みたいに具合を悪くする様子はなかった。

そして全員そろうと、一緒に朝食を食べ始めた。

そしてら、先生は昨日はばたばたして、自己紹介もできなかったね的なことを言って
自分が何者なのか、ミサトさんに説明した。

まぁ、おじさんはともかく、妖怪退治とかの話もすると、あからさまに彼女は不審がってたけどねww
そんで、俺も先生に便乗する形で自己紹介をした。

俺はミサトさんの様子を見て、彼女はどこまで自分の状況を分かっているのか
気になったけど。

彼女は人見知りもあるのか、あまりしゃべらなかった。

そして、すこし気まずい朝食が済むと、先生がではちょっとこの子を話をするから
他の人間は席をはずしてくれないか的なことをいった。

弟の嫁さんは心配そうだったけど、弟さんと母親さんに手をひかれて
どっかに行った。

俺も彼らについていこうと思って、席を立ったんだけど

先生はお前は残れ、と言ってきた。

他の人たちがさると

先生はミサトさんに彼女の状況とか色々かいつまんで説明し始めた。

ミサトさんは結構散々みたいだし、わりと呑みこみというか
簡単に警戒は解いてくれた。

まぁ、先生が家族がいる状況で自分がそっち系の仕事をしていると暴露するのも
うまかったのもあるね。

そんで、今は逆にひとりだけにして、色々ゆさぶりやすくしてる感じだった。

先生の説明をミサトさんはただ頷きながら聞いていた。
そして、先生の話を大体聞き終わると

彼女はこう先生に聞いた。
両親のほうからは弟子入りの話は聞いているが
先生のことは書道関係の人だと聞いていた。

それはまったく違うのか?と

俺は彼女の部屋でみた、いくつかの書道の賞状をおもいだした。

なるほど、つまり彼女は最初、俺と先生のことを書道の師弟コンビだと思っていたわけだった
それがいきなり妖怪退治になったんだから、おかしく思うわけだ。

でも、先生は確かにどっかの流派の師範は持っていた気がす

弟子入りというのは書道のほうだったのかと、俺は思ったが
先生の話的には完全に妖怪退治を教えるつもりのはずだ

まぁ、書道も教えることもできるから、完全に騙したわけではないのか?

 

そこからは先生の弁解タイムに入った。

たしかに最初は書道だけ教えるつもりだったが、こっちのほうに来たら
君がこんな状況になっているので、しかたなく裏稼業のほうも

的なことだった。

なんだかんだ言って先生のしゃべりかたはうまいから
ミサトさんはそれで納得したようだった。

そして、ついに話は本題に入り、例の三つの方法があるが、どうしたいか?
と先生は切りだした。

先生的な説明だと、最初の方法だと、妖怪退治関係の勉強をこれから教えるつもりで

それ以外の二つは、もし成功すればまだその気があるなら、書道のみの弟子にするという話だ。

まぁ、書道だけの弟子にするってのもちょっと俺的にはあやしかったけどねw
とりあえず弟子にすれば、あとはどうとでも!とか思っていそうな顔だった。

ミサトさんはしばらく悩んだが、正直妖怪退治うんぬんを習う気はしないから
なるべく他の二つの方法で短期決戦でいきたいと、そういった。

 

そこからは俺と先生が少し話し合い。

第二の方法、「妖怪に忘れてもらおう」という方法をとることにした。
理由はまぁ、そっちのほうがまだ交渉の余地があって
俺や先生が慣れているから、というものだ。

方針が決まると早速準備をはじめた。

まずは妖怪を呼び出す場所の下見だ。
場所はミサトさんが失踪して見つかった、例の場所にすることにした。
先生は別の準備をするから、お前が見て来いと言った。

まぁ、あんまり先生は海とかに近寄りたくなかったんだろうし
俺はその指示にしたがった。

先生の弟さんに案内され、ミサトさんが見つかった崖に向かった。
場所的には弟さんの家から歩いて40分くらいかな?

割りと遠かった。最初は来るまで行きましょうか?と弟さんは言っていたが
俺は周りの風景とか建物の位置とかも、ちゃんと確認したいので徒歩でお願いした

着いたころには割りと疲れた。

 

その場所は聞いた通りかなり辺鄙な場所だった。

道路のすぐわきってわけでもなく、アスファルトの舗装された道を外れて
4,5分岩だらけの地面を歩かないとつけない場所だ。

もちろん、あたりに街灯なんかない。

今の時間帯は昼ごろだから、全然大丈夫だけど
夜になったら真っ暗で、何も見えなくなってしまうのは目に見えていた。

そんなところだから、ひととおりもすくない。
まぁ、妖怪を呼び出すにはうってつけな場所だな。

そんで弟さんに、ミサトさんがみみず食べてた大岩につれてってもらうと
その岩の一部を削り取った。

削り取ったと言っても、あらかじめ持ってきたトンカチで叩いて
大きめで平な岩を手に入れた。

その後、あたりでわりと広い場所はないのかみつくろい

その場所に酒を撒いておいた。
台所からくすめた料理酒だ。

この場合なぜか普通のお酒より、料理酒のほうがいいんだよなぁ
なんか違うのかもねw

 

大体の準備を終わらせると、俺は弟さんと一緒に、家に戻った。
もちろん削り取った岩とかも持って帰った。

帰ると、どうやら先生も他の準備のため家を出たみたいで、まだ戻ってない。

なので、俺は弟さんやその嫁さんに手伝ってもらいながら
庭の土を掘り起こしながら、生きのいいミミズを出来る限り捜した。

例の妖怪はミサトさんをおもてなすためにミミズを使ったのだが
妖怪は大抵、自分の好きなものを客人に出すらしい。

好物がわかったんなら、交渉に向けて、それを準備しない手はない

 

ミミズを用意したら、俺は弟さんと一緒にが家へ戻った。

帰るとどうやら先生も他の準備を終えたみたいで、戻っていた。

先生から妖怪との交渉は次の手段で行くと言われた。

 

前にも書いたが

実は「天命漏らし」をした人間も、死んだ後に

「我聞」に近い妖怪が生まれるらしい。

「我聞」に近いその妖怪に先生の姪が死んだと勘違いさせて
生まれてきてもらう。

そして、それを殺し、予言自体を不発にする。

不発になれば、予言はしていないことになるから
そこからまた寿命を呼び戻す。

まぁ、この方法の危険性は昔に説明したとおりだ。
ただ、この場合、厄介のは「我聞」を探して殺すという点だ。

まず「我聞」が見つけるのが難しい。
そして、見つけたとしても、そいつが予言する前にそいつのいるところに行けるかが疑わしい。

さらに、見つけたとしてもその妖怪を殺す必要がある。
腐っても妖怪だから、それなりにリスクはあるだろう。

それに何度も言っているが、うちの仕事は「退治」というより「交渉」だ。

なのに、自分たちの都合で妖怪を害するのは
どこか道を踏み外している行為だからね。

 

先生が戻ってきたのは午後の5時くらい。
もうあたりは結構暗かった。

戻ってきた先生は大きなバッグを持っていて
体からはすこし生臭い匂いがしていた。

俺は先生に自分が今まで準備したこととかをかいつまんで説明した。

先生は何やら疲れた感じの顔で、分かったと答えると
そして、いまからすこし風呂に入り
時間になるまで休むから、バックの中身を頼む。と言ってきた。

俺が了承すると、先生はそのまま風呂場に向かった。

嫌なにおいがする先生のバッグを開くと、俺は驚いた。

中には死んだ犬の死体が入っていた。

 

犬の死体は今からやるはずの儀式とかに特に必要なものなどではなかった。

どうして先生はこんなものを用意したのだろうか?

しかも、その犬は見た感じ、もちろん、あくまで憶測だけど
野良犬とかの類じゃなかった。

結構毛並みのいい、柴犬で、首輪もあったんだ。

そんで、その犬の腹辺りが真っ二つに割れていた。

黒い犬の血は妖怪退治とか幽霊退治とかで●貞のおしっこと並んで
よくつかわれてる。これは割と有名な話だよね。

ただ、その犬の血をどう取るかというと、実は結構残酷だ。

まず、犬を大人しくさせるために、口の中に石を詰め、手足を縛る。
そのあと、大きな鉈で、ゆっくりと犬の胴体の部分を真っ二つに切る。

しばらく、犬は死なずに苦しそうにもがく。
そして、完全に死に切った後に、犬の臓器を取り出して
それを水につける。

そして、水が赤くなるんだけど、その水のことを、「犬の血」として使う

 

まぁ、もちろん、そのあとにいろんなものを混ぜたりするんだけど
大体こんな感じ。普段はあんまり使ったりしないものかな?
残酷だし、手に入れるのもしんどい。

ただ、黒い犬の血は大抵「汚いもの」とされていて

妖怪とか幽霊から嫌われるていて、そういうものを避けるのには有効なんだ。

そんで、黒以外の犬にも色々な使い方がある。
今回の場合、割と色が白い柴犬だったので、多分白い犬の血を使うことになる。

でも、白い犬の血というのは、めったに使わないものだ。

なぜなら、白い犬の血は、人を「殺す」ために使うものだ

 

白い犬の血ってのは霊力が含まれているらしくて。

不吉なものを取り除けるとか、
魔の病気とかを治すとか、そういう力があるらしいんだよ

あとは、洗心術とかでも使うんだけど

まぁ、それを聞くとなんだかいいものように思えるけど

でも、そう言うのは基本的に何かしらすごい術の媒体としての話であって
今だとほとんどそういうのについての使い方は伝わってきてないらしい。

なら、今は何に使うかというと

「火消し」という術に使われる。
この火消しって言う術が、以前に言っていた「霊的な意味で死なせる方法」がこれだ

人間は両肩と頭のてっぺんとで3つの炎がついているって話って前したっけ?
してなかったら、またあとで解説するとして

この3つの炎がある限り、人間の魂は肉体につなぎとめられている。

この火を消すためには白い犬の血を浴びないといけないらしい。

なので、間違っても、白い犬の血を肩とか頭のてっぺんとかにつけちゃいけない。
ころっと魂がどっかいっちまうらしい。

でも、逆にだれかの魂を四散させたいなら、白い犬の血をぶっかければ
その人は十中八九、霊的に「死ぬ」

 

火についての解説をすこしだけ

夜道をで歩いているとき、ふりかえっちゃいけないというジンクスがあるんだけど
これも、両肩と頭のてっぺんにある火から来ているらしい

ちょっと、うっさんくさいかもだがその火はなんか神さまが人間をつくったときに
くれたものらしくて

3つそろうと一種の結界の力を持っていて
魑魅魍魎から人間を守るためにくれたものだとか

その火はめったなことがない限り、消えないんだけど
いくつかの弱点がある。

まぁ、もちろん白い犬の血もそうなんだけど

人間自身の息でも火は消えちまうらしい。
だから、人が振り返る時とかに無自覚に鼻の息で肩の火をひとつ消しちまうらしい。

 

だから、夜の時に、もし後ろのほうから気になる物音があったとしても
決して振り返ってはいけない。

なぜならそれは、人間に何かしら害をもたらしたいと思っている妖怪とかが
振り返らせて、その鼻息で肩にある火をひとつ消させたいがために

だましてるんだ。

白い犬の血とかの場合は割と消えた状態が長続きするんだけど。
まぁ、鼻息の場合はいったん火を消したとしても、次の朝くらいにはまた元に戻るんだけど

そんで人間が死んでも、その火そのまま消滅したりしない

人から離れて、しばらくはそのまま燃えているらしい。

もしかしたら、これが鬼火の由来だったりとかなんとか。

 

まぁ、この火についてはもっといろいろ話があるんだけど
今回のことに関してはそこまで関係がないから、ここまでにしておくね。

話を本筋に戻す。

俺は先生から渡された犬の死骸をどうするべきか少し迷ったけど
とりあえず先生に言われた通り「処理」しておくことにし

幸い、先生の弟さん一家の人はその場にいなかった。
俺は生臭いバッグを一回庭の隅に隠して、先生の弟さんとかから必要な道具を借りた。

まぁ、そんときにだけど。俺の体にも生臭い匂いがついたのか、不審に思われ
色々聞かれた。

俺は今晩に必要なものの準備とって、とりあえず弟さんをいいくるめた。

そんで庭から人払いしておいてほしいとお願いすると、死骸の「処理」に入った。

まずはバケツに、水を半分くらい入れる。
その後、水の中に唾を吐いて、もう二、三工程あるんだが、流石に詳しく書きすぎるのはあれなので
省くとして

犬の臓器を取り出して水につける。そして、赤く染まった水をペットボトルにいれた。

もちろん途中に、水が肩や頭あたりに飛び散らないように注意しながら。

そして残ったものは、バケツも含めて、全部庭に埋めた。

最後の締めとして、その埋めた場所に桃の種をひとつ植える。

何かよくないものを埋めた場合、植物を植えるようなことをするのは有名だけど
桜や柳とかはやめたほうがいいらしく

こういう時は大抵桃の種を選ぶ。もちろん相性の問題おあるけど

俺が犬の血の処理をし終わると、あたりはうす暗くなってきた。
そのまま俺も風呂に入ることにした。

途中、弟さんの嫁さんにあったんだけど、あからさまに目をそむけられた
やっぱり匂いがひどかったのかと少し心配した。

そして、風呂ついでに仕事用の「衣装」に着替えた。

前にも行ったと思うけど、神さま相手の神主さんとかは小奇麗なかっこをしないといけないんだけど
うちのような妖怪相手の商売は、むしろ逆で汚らしい格好じゃないといけない。

まぁ、でも汚さといっても色々あって、血なまぐささは妖怪的にだめらしい

どっちかというと妖怪の好みの汚さってのは、泥とか、ほこりっぽさとか
そういうものだ。

なんというか、そういうものの方が、自然に近いのかもね。

だから、あらかじめ着古していて、あまり洗ってない服とかを用意してる

 

しばらくすると、弟さんが晩御飯に誘ってくれた。

ミミズやら、犬やらで結構食欲なかったんだけど、一応夜に向けて
何か食べておこうと思って、彼について行った。

台所につくと、もうすでにミサトさんやら、奥さんやら弟さん一家はそろっていたが
先生はいなかった。

先生はどうしたんですか?と聞くと

どうやらまだ寝ていて、起きる様子がない、と弟さんに言われた。

まぁ、こういう時は寝かせておくのがいいんだろうけど
ただ、俺的には今回の妖怪はミミズとかを出して食わせてきたりするし

なるべく空腹の状態とかで対峙するのはよくないのでは?とおもった。
食欲とかに付け込まれる可能性も微レ存

なんで、俺は起こしてきます。といって先生の部屋に行った。

先生の部屋のドアを開けると、中は真っ暗だった。

俺は先生、先生と2,3呼んだが。返事はなかった。
仕方なかったので、部屋の電気を手探りでつけた。

すると、すこしぎょっとした。

先生は目を開けていて、天井のほうをじっとみつめていた。

俺はおそるおそる彼に近づき、どうしましたか?ご飯の時間らしいっすよ?と聞くと。
見えるか?と、急に聞かれた。

俺は( ゚д゚)ポカーンってなったが、先生の目線のほうを見てみても何もなかった。

いえ、と俺が返事すると、先生はそうかと答えて、布団から出てきた。
そんで、俺はさらにが愕然とした。

先生の来ていた服が、寝汗でびしょぬれだった。
絞れば出るとか、そんな感じだった。

妖怪退治の仕事シリーズ

1 太平洋側の島の話

2 うちのじいちゃんの小さい頃の話

3 止められていた

4 相談者の姉 – 先生との出会い

5 先生とマレーシアに行った

6 初めての一人仕事

7 倀

8 先生の話 その1

9 先生の話 その2

10 鬼隠し

11 先生の話 その3

12 初めて先生と仕事した時の話

13 先生の話 その4

14 スクエア

15 禁山

16 先生の話 その5

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