『赤ずくめの女』|洒落怖名作まとめ【長編】

『赤ずくめの女』|洒落怖名作まとめ【長編】 長編

スポンサーリンク

赤ずくめの女

 

俺が一昨年の冬に体験した話書いてく。
初めて“そいつ”にあったのは2年前の11月だった。
俺は幼い頃に母ちゃん亡くしてて、今は父親と2人で神奈川のとある小さい町の一軒家に住んでるんだ。
その日もいつも通り高校終わって最寄駅で降りて、いつも通りの道で家に向かってたんだ。
神奈川っつっても田舎だから細くて人通りのない道が多くて、夜になると我ながら結構不気味w
帰り道半ばの雑木林の脇道に差し掛かった時だった。
電柱の脇にそいつはいた。

真っ赤なトレンチコートと真っ赤な靴とこれまた真っ赤なハットっていう、とにかく全身赤づくめの女の子。
身長は小学校低学年くらい。ハットを深くかぶってたから顔はよく見えなかった。
そんな異様な恰好の女の子が夜の10時くらいに誰もいない雑木林の脇道に立ってるんだぜww
「こえーww」とか思いながらその子の脇を通りつつチラ見したんだ。

そいつは女の子じゃなかった。
ハットで鼻から下までしか見えなかったけど、真っ赤な口紅を塗ってたし、なにより肌にしわがあって、たぶん40歳くらい。
何の病気かわかんないけど、顔は大人なのに身体だけ子供、みたいな人たまに見かけるじゃん?あんな感じ。
しかも俺が目の前を通ってるのにもかかわらず、全く微動だにしないでただ暗闇のなかに立ってるの。
もう本能でこいつはヤバイって感じた。ダッシュで逃げるのもアレだから、速足でそこから立ち去った。

次の日の帰り道、「これが洒落怖の話だったら絶対あいつまたいるよww」とか思いながら例の雑木林脇の道に差し掛かった。
その日は授業も少し早めに終わってまだ夕方だったし、最寄駅まで友達と一緒に帰ってたからあまり恐怖心はなかった。
そいつはいなかった。
霊的なストーリーを期待してた自分としてはなんだかがっかりした反面、ちょっと安心した部分もあった。
脇道を通って、角を曲がった瞬間、俺は凍りついた。

あいつがいた。
前日と同じように真っ赤な服装で電柱脇に立っていた。
ヤバイヤバイヤバイと思いつつも、そこを通らないと家にたどり着けないから、仕方なくそいつの前を通った。
また何の反応もない。
心臓がドキドキしているのが自分でも分かった。一気に手汗が出てきた。
誰かと待ち合わせるような場所でもないし、その女は手ぶらだったし、次第に「こいつは何なんだろう?本当に人間なのか?」と思い始めた。
次の角を曲がる時、後ろを振り返った。
そいつはまだそこにいた。こちらを向いて。

次の日もその次の日も、そいつはいた。
気になったのは、毎回そいつが現れる場所が変わってたということ。
そして気付いた。だんだん俺の家に近づいてる。
その次の日、遂にそいつは俺の家が面している道に現れた。

人間じゃないヤバイやつかもしれないと思っていたのに、その時は不思議と気味悪さと「何で付いてくる?」という怒りで我慢できなくなって、そいつに話しかけてしまった。
「あの、どなたですか?毎日付きまとうの止めてもらっていいですか!!」
女は、微動だにしなかった。
相変わらず真っ赤なハットのせいで顔がよく見えない。
あの、ともう一度声を掛けようとした瞬間、突然女が笑った。
笑った、というかニヤリ、と真っ赤な口紅を塗った口を大きく開けた。
そいつの歯はまっ黄色で、何本かは抜けていた。
ヤバイ、と思った。
俺は急いでそいつから離れて家の鍵を開けて玄関に飛び込んだ。
憑かれた、と思った。

その晩、仕事から帰ってきた父親にその女のことを話した。
父親はそんな女見たことないと言い、
「そんな小せぇ女怖くもなんともねえだろ!仮に幽霊だったとしても母ちゃんが守ってくれるから大丈夫大丈夫!」
とか言って全く相手にしてくれなかった。
母ちゃんは亡くなる数日前、
「天国に行っても○○ちゃんのこと守ってあげるからね」
と言って俺に小さいお守りを渡してくれた。
父親の言葉で引きだしにしまっていたお守りの存在を思い出し、翌日からバッグに入れて持ち歩くことにした。
お守りのおかげか、どこか安心した気持ちになった。

それからその女は現れなくなった。
俺は母ちゃんが守ってくれたんだ!と思ってすごく嬉しかった。
変な話だけど、母親の愛情を思い出させてくれたことに対して、あの女に感謝する気持ちさえ生まれた。

それから3週間くらい過ぎたある日。
俺は高校でいつもと変わらず授業を受けていた。
数学のsincosなんちゃらとかいうやつ(名前分からん)が意味不明すぎて、窓側の席で心地よい太陽の光にうつろうつろしていた。
ふと外の景色に目を向けた瞬間だった。

あいつがいる。
正門脇で、あの真っ赤な恰好で。こっちを見てる。
一気に鳥肌が立った。「何で?何で?お守りは効かなかったの?」
とにかく女の存在を誰かと共有したくて、前に座ってた友達の肩をガンガン叩いて、「あそこに変な女がいる!」って窓の外を指差した。
「は?どこ?」って友達が言うから、「あそこ!正門のとこ!」って言いながらもう一度そこを見た。
女はいなかった。
「どうして?どうして?」俺はパニックで泣きそうだった。友達は何かブツブツ文句言ってたけど、全然耳に入ってこなかった。

その日の放課後、俺は隣のクラスの春香ちゃんという女の子のもとへ向かった。
春香ちゃんは、なんというか、よく言えば一風変わった、悪く言えば変人で、よく「あたし霊感強いんだ~」とか言って周りの女子をドン引きさせていた。
俺ももともと幽霊の存在なんて信じてなかったし、春香ちゃんとは幼馴染ってだけで特に仲良いとかじゃなかったけど、
その時はもう藁にもすがる思いで、「春香ちゃんなら何か分かるかもしれない」って思ったんだ。
俺が凄い剣幕で現れたからか春香ちゃんも最初はびっくりしてたけど、俺の話を聞くにつれ次第に真剣な表情になっていった。

「それで、○○君はそいつに話しかけちゃったの?」
「うん…」
「今もそいつが見える?」
「いや、今は…でもさっき授業中に見たんだ。正門のとこからこっちを見てた。」
「そっか…」
それから10秒くらい沈黙が流れた。俺はとにかくそいつが何者なのか、何で俺に付きまとうのか知りたかった。
「あいつは何者なの?春香ちゃん何か感じる?」
「うーん…○○君に残ってるそいつの念、凄く強い。強い恨み。なんだろう、たぶんだけど、昔男の人に捨てられて自殺した女の霊だと思う。
恨みが強すぎて、お母さんのお守りも全てを防ぎきれてないみたい。」
「何で俺に!?」
「似てるんだと思う。○○君が“持ってる”ものが。」
何を“持ってる”のかよく分からなかったけど、大体の事情は察した。
春香ちゃんは、自分には手が負えないから神社でお祓いをしてもらうといい、と言って帰って行った。

その日の夜、悶々としながらベッドに入った。
「あいつは俺に何を求めているんだろう」「俺は死ぬのだろうか」…。気付いたら眠りについていた。
その日の夜のこと。ふと目が覚めた俺は、スマホをいじって時間を確認した。
深夜の2時半。
まだまだ寝れるじゃん…と思い、もう一度眠りにつこうと身体の向きを左に変えた瞬間だった。

あの女がいた。ドアの向こうに。
俺の部屋のドアはところどころすりガラスで半透明になってるんだけど、あいつの顔と長い黒髪と真っ赤な服がはっきり見えた。
ガラスの向こうからこっちを見てる。
全身の筋肉が硬直して一気に胸の鼓動が早くなった。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
俺は枕元に置いてあった母ちゃんのお守りを握りしめて布団に身をくるめ、お守りを握りしめながら「母ちゃん助けて母ちゃん助けて…」と何度も祈った。

どれくらい時間が経っただろう。
数分だったかもしれないし、1時間くらいだったようにも感じた。
物音一つしない部屋の中、あいつがどこへ行ったのか、
もしかしたらすぐそこに移動しているかもしれない、と気になって仕方がなかった俺はそっと布団の隙間からドアの方を見た。

あいつは居なくなっていた。
意を決して布団をガバっと外して辺り一面見回したが、あいつは居なかった。
「母ちゃんが守ってくれた」。そう思った。
手汗でぐしょぐしょになったお守りを握りしめ、母ちゃんありがとう、と呟いた。

次の日、俺は朝一で町はずれにある神社に向かった。
神社の奥から出てきたお坊さんに事情を説明して、除霊を頼むとお坊さんは快く引き受けてくれた。
除霊はメインの神社の奥にある小さな小屋みたいなとこで行われた。
お坊さんとその弟子的な男の人に挟まれて、お経を唱えて塩を振りかけられて終わり、みたいな。
30分くらい経って、「もう安心してください。霊は祓われました。」ってお坊さんに言われた。
なんだか予想外にあっさり除霊が終わったもんだから、不審に思って、「あの女は何だったんですか?」って聞いたら、
「あれはこの地で昔行われていた人柱の犠牲者たちの集合霊です」だって。
お坊さん曰く、俺が住んでいた地方では昔、平和を祈念する村の風習として10年に一度村の女を人柱として神に捧げていたんだそう。
あの女は人柱にされて殺された女たちの怨念が作りだした霊で、俺に憑いたのは本当に偶然だったという。
何て迷惑な霊だ、と思った。
同時に、そんな強い怨念を持った霊が、果たしてあんな簡単な除霊で成仏したのだろうか、と少し不安になった。

その帰り道、家に着くとそこにはパトカーが止まっていた。近所の人たちも心配そうに様子を見ている。
すぐに自分の家で何かあったことを察した。俺は急いで警察のもとへ駆け寄った。

「この家の者です!うちで何があったんですか!!」
「あー君この家の子?何で今まで気づかなかったのー。危ないとこだったよ?この家に女が1か月潜伏してたんだよ。」

俺は絶句した。
何が起きたかすぐに理解した。

あいつは霊なんかじゃなかった。
れっきとした人間だった。
あまりのショックに立ちくらみながらパトカーを見たら、後部座席にあいつがいた。
いつもと同じ真っ赤な出で立ち。
俺と目が合った瞬間、ニヤッとあのおぞましい笑顔で俺に笑いかけた。
そしてパトカーはそいつを乗せて去って行った。

あとから分かった話なんだけど、あいつは俺のストーカーで(何でただの高校生の俺にww)、
俺と父親が家を空けている間に合鍵を作って侵入し、2階の物置部屋の押入れにある入口から天井裏に潜り込んでそこに潜伏してたらしい。
そんで俺たちが寝静まった深夜にこっそり降りてきて、ドア越しに俺のことを毎日眺めてたって…。
俺が神社に行ってる間に買い物をしに家を出たところをお隣さんが目撃して警察に通報したという。

ってか、事件が終わった安心もあるけど、それより「母ちゃんは別に俺のこと守ってなんかない」ってことの方がショックだったねww
あと、春香ちゃんもあの神社もマジで嘘っぱちばっか言いやがってww

でも何よりゾッとしたのが、警察の人が教えてくれた、取り調べでのあいつの言葉。
「○○君と一カ月過ごせて幸せだった」って…。

特に俺に危害を加えたわけではないという理由で(精神的被害やばいんですけど)、あいつに下った判決は執行猶予付き懲役1年2ヵ月。
あれから何か月経つっけ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました