『みさき』|洒落怖名作まとめ【長編】

『みさき』|洒落怖名作まとめ【怖い話・都市伝説 - 長編】 長編

 

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みさき

 

アチメ オオオオ オオオオ オオオオ
天地ニキ揺ラカスハ サ揺ユラカス 神ワカモ 神コソハ キネキコウ キ揺ラナラハ
アチメ オオオオ オオオオ オオオオ
石ノ上 布瑠社ノ 太刀モガト 願フ其ノ児ニ 其ノ奉ル
アチメ オオオ オオオ オオオ
猟夫ラガ 持タ木ノ真弓 奥山ニ 御狩スラシモ 弓ノ弭見ユ
アチメ オオオ オオオ オオオ
上リマス豊日霎カ 御魂欲ス 本ハ金矛 末ハ木矛
アチメ オオオ オオオ オオオ
三輪山ニ アリタテルチカサヲ 今栄エデハ 何時カ栄へム
アチメ オオオ オオオ オオオ
吾妹子ガ、穴師ノ山ノ山ノ山モト 人も見ルカニ 深山カ縵為ヨ
アチメ オオオ オオオ オオオ
魂筥ニ 木綿取リシデワ 魂チトラセヨ 御魂上リ 魂上リマシシ神ハ 今ゾ来マセル
アチメ オオオ オオオ オオオ
御魂ミニ 去マシシ神ハ 今ゾ来マセル 魂筥持チテ 去リクルシ御魂 魂返シスナ

『鎮魂歌(年中行事秘抄)』

 

◯概要

1992年7月7日。火曜日。
この日、吉野さん一家は一人娘の 美咲ちゃんの誕生日を前日に控え、家族三人で近所の商業施設、つかしん(西武百貨店)に買い物に出かけていた。
父親の義弘さんは当日午後から半休を取っており、会社帰りに自宅の最寄り駅である阪急稲野駅で妻の美幸さん、娘の美咲ちゃんと合流、
その後、家族三人でつかしん内の飲食店で昼食を食べ、美咲ちゃんの誕生日プレゼントを買って帰路についた。

 

事件は、その道中で起こった。
午後四時ごろ、吉野さん一家は御願塚古墳という小さな古墳の前を通りかかる。
御願塚古墳とは吉野さん宅の南東にある、全長約50メートル、高さ約七メートルほどの比較的小さな古墳である。
周囲に壕を巡らせた小高い山の頂上には小さな広場があり、そこには南神社という小さなお社が祭られている。

 

その神社に通じる鳥居の前に差しかかったとき、突然美咲ちゃんが足を止め「お参りがしたい」と言い出した。
吉野さん夫婦は当初それを美咲ちゃんの何気ない気まぐれだと思い取り合わなかったが、
美咲ちゃんがどうしてもと言うことを聞かず(義弘さんによれば、それまでに一度も見たことのないくらいの必死さで)
その場を動こうとしないので、仕方なくお賽銭にと五円玉を持たせて、古墳の上にある神社に行くことを許した。

 

このとき吉野さん夫妻はふもとの鳥居の外で待っていたが、
その場所から神社までの石段は視界が開けており、距離もたかだか10メートル足らずである。
そして、吉野さん夫婦は、たしかに美咲ちゃんが頂上に上ったのを確認している。

五分ほどたった後、戻ってこない美咲ちゃんを心配した義弘さんは、美咲ちゃんを探して頂上への石段を登った。
大人の足でなら急ぎ足で10秒といったところだろうか。
頂上の社殿がある広場についた義弘さんは美咲ちゃんを探したが、そこには美咲ちゃんの姿はなかった。
広場は直径約15メートルの円形で、社殿のほかには何もない。
義弘さんは美咲ちゃんの名前を何度か呼んでみたが、返事はなかった。

頂上までの間には、古墳を周回する周遊路があり、頂上からぐるりと見おろせたが、そこにも人の姿や気配はなかったという。
不安に駆られた義弘さんだったが、石段を使わずに中腹の周遊路に下りることも不可能ではないため、
入れ違いになった可能性を考えていったん妻の美幸さんの待つ鳥居に戻ってみることにした。

その途中で一応周遊路をぐるりと一周し、
どこかで転んで怪我をしているのではないかと注意深く周囲を探したが、やはり美咲ちゃんの姿はなかった。
仕方なく鳥居に戻った義弘さんだったが、そこには美幸さんが不安そうな顔があるばかりで、やはり美咲ちゃんの姿はなかった。
古墳全体は雑木に覆われてはいるものの、その間隔はまばらで視界は比較的ひらけている。
美幸さんも義弘さんを待つ間中ずっと美咲ちゃんを探していたが、美咲ちゃんの姿は見ていないという。

美幸さんと合流した義弘さんは、誰も石段を降りてきていないことを確認すると、再び頂上の社殿へと向かった。
もう残る場所は、社殿の中しか考えられなかったからだ。
古墳の周囲を囲むお濠は比較的小さいものの、その幅は約8メートル。
狭いところ(鳥居付近)で5もメートル弱、広いところでは11メートルにもなる。
とても6歳の女の子が渡れるような長さではないし、当然柵も設置されていた。
美咲ちゃんは、どう考えてもこの古墳から外に出ていない。
出られるはずがなかったのだ。

社殿へと向かった吉野さん夫妻は、なりふり構わずお社の戸に手をかけた。
が、その戸は頑丈に施錠されており、開くことはなかった。
内側を覗いてみても、人間がいるような気配はなかったという。
夫妻が目を離したわずか五分の間に、美咲ちゃんの姿はまさに煙のように消えてしまったのだった。

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