『みさき』|洒落怖名作まとめ【長編】

『みさき』|洒落怖名作まとめ【怖い話・都市伝説 - 長編】 長編

川上さんが美咲ちゃん美咲ちゃん言うて呼びかけ始めてから五分くらいでしょうか、
突然旦那さんと美幸さんが身体をびくっと震わして、えろう何かに驚かれたんは、カコイサマが動かれたんじゃ思います。

川上さんはふうっと長え息をひとつ吐かれて、美咲ちゃんがきとられますよ、て言われました。
そっから部屋の空気が全然違うたんは、ただ横に座っとっただけの私にもはっきり分かりました。

どういうんですかね、部屋の温度は寒いのに、身体は妙に暑苦しゅうて汗が滲んでくるような、いうんですか。
蝋燭の炎の上のところだけが長あく横になびいて、気持ち悪かったんを覚えとります。

質問は、最初ん頃は川上さんも美咲ちゃんに交霊のやり方を教えんといけんのんで、みやすい質問を何個かなさっとった思います。
歳はいくつか。名前は何か。男か女か。美咲ちゃんは順調に答えとってで、私もこれは成功じゃ思いました。
ほいで、いよいよこの後ですよ。

こっからは美咲ちゃんが生きとるんか死んどるんか、今どこにおるんか、それを聞き出さんといけんいうことで。
川上さんも言うとられました。
おそらく子供相手じゃあええがあいかんじゃろう、て。
子供いうんは生きとるんでもろくに聞きゃあせんのに、まして魂じゃあまともに聞きゃあせんじゃろう言うて、
私も同感じゃ思うとりました。事実あがあなことになって、ほんとうに手には負えんもんじゃと思い知らされて。

こがあなことは滅多に言えんですが、私も川上さんも用心が足らんかったんです。
何がほんまかはそりゃあ分からんですけど、美咲ちゃんがとられたんは人攫いじゃとか、
土地に住んどる神さんじゃとか、そげなもんじゃあねえのは確かです。
川上さんは偉え人じゃけど見える人じゃあなかった。それで判断を誤られたんです。

始まってしばらくは順調に進んどるように思うとりました。なにが見えるか、いうて聞いたらお母さんじゃ言うたりして。
ええがにいっとる思いました。でも、途中からなんか変じゃ思うたんです。
どこが変じゃいうのは言えんのですが、
たしか、今どこにおるんかいうようなことを聞いたら、美咲ちゃんは、いいえ、言うたんです。

このいいえいう答えは意味をなしちゃおらんでしょう。ほうじゃけ川上さんも、いいえいうんはどういう意味か、いうて改めて聞いちゃったんです。
ほしたら美咲ちゃんは、今度はうしろじゃ言うんです。うしろ。
私も含めてみな背中をあらためんではおれんかったですね。
例えなんもおらんじゃろうと分かっとっても、ああいう言われ方は恐ろしゅう感じますけ、
私もなんとなくぞおっとして、川上さんもこのままじゃと危険じゃ思われたんでしょう、

改めて旦那さんと美幸さんに、ええですか、何ぞ見ても取り乱さんでください、
指い離さんでくださいよ言うて念を押しちゃって、もうそろそろ日が落ちよってじゃ言うて、
川上さんは私に、部屋の電気点けてくれんかって、私が立ち上がったそん時です。

ぱしっ、いう音がして、
電球のたまの中で火花が飛んだんです。
蝋燭の火いも急にゆらゆらし始めて、
カコイサマが質問もせんのに勝手に動き出して、順に、い、た、い、く、び、いうて動いたところで蝋燭の火も消えてしもうて。
あとは日が落ちた真っ暗ん中で、カコイサマが動き続けとる、 木の擦れる音だけがしばらく続いとって、
わしらにゃあそれが何を言うとるか見えんのんじゃけど、もう恐ろしいことを言うとるんじゃいうのは分かるでしょう。

川上さんはもう必死んなって、美咲ちゃん、もうええけ、美咲ちゃん、もう帰ってもええけ、言うて。
私も怖うてたまらんで般若心経一心に唱えおったんですが、突然耳鳴りがきーんとして、ぴしっ言うてですね、

カコイサマが真っ二つに割れんさって、未だに忘れんですよ、
それと同時くらいに美幸さんが物凄え甲高い、笛を吹いたみたいな悲鳴を上げんさって、
そりゃあもう、あげな小せえ体のどっから出おるんかいうような、家が震えるくらいのえれえ悲鳴だったんですから、もうみんな儀式どころじゃないですよ。

急いで美幸さん廊下に引っ張り出して、はよう救急車じゃ言うて、美幸さんは白目剥いて、泡吹いてがくがく痙攣しておられました。
その後はもうどげえもならんですよ。

儀式も続けられんし、わしらも身の置き所がない。
病院まで一緒に付き添うたんですが、旦那さんがそりゃあもう凄え形相でわしらのことを睨みつけてから、
あんたらのせいで美幸まであげえなって、悪りいがもう帰ってくれ言うちゃって、そう言われたら私らもどうもできんけえ、
荷物だけ片付けに上がらしてもろうてから、挨拶もそこそこに引き上げたんです。それが当日のことでした。

ほうで、この話はこれで終りじゃあないんです。後日、川上さんがうちに来ちゃって、こないだの件で話があるんじゃ言うて。
私はええですよ言うたものの川上さんもずいぶん辛えじゃろう思うて黙りこんどったら、川上さんがこう言うちゃったんです。
ありゃあえれえ家じゃ、あがあな家じゃ知っとったらわしゃあ関わらんかった言うて。

何事か思うでしょう。
それでどういうことですか言うたら、川上さんが壊れたカコイサマを出してきちゃって、これを見てみんさいいうけえ、私見してもろうたんです。
そしたらですね、あん時は気付かんかったんですが、明らかに変なんですね。
普通は板いんは、折れるときは木目に沿って折れるもんじゃ思うんですが、それが木目と違う方向に無理やり折られとるんです。
折られたいうか、真ん中から割られたいうか、裂かれたいうんか、とにかくありゃあ人間業じゃあない思いましたね。
そんで川上さんも、こがな真似そうそうでけん、あすこにはわしらの思うたよりずうっと恐ろしいもんがおったんじゃ、
あんとき降りてきとったんは確かに美咲ちゃん じゃったはずじゃ思うけど、それだけじゃあなかったようにも思う、いうて。

どういうことね言うたら川上さん、あの電球が切れたときがあったじゃろいうて、
あったあった言うたら、あんとき私見たんよ、部屋が真っ暗んなる前、火花が飛んだとき、美幸さんの首を締めとる美咲ちゃんをはっきり見たんよ、言うて。
じゃけえ私言うたんです。

川上さん、それがほんまじゃとしても、そりゃあ首を締めとったんじゃなくて、おぶさっとったんじゃないですかって。
子供が親の首い締めるなんて普通考えられんで、川上さんの見間違いでしょう言うて。
ほしたらそうじゃないんじゃて川上さんは言うんですよ。
そういう子供が親に甘えとるようなふうじゃない、そりゃあもう物凄い形相で、声は聞こえんのんじゃけど、
もう気がちごうたように泣き叫んどるんがはっきり分かったんじゃけえ、ありゃああの母親には表立っては言えんことが何かあるんで、言うて。

私も川上さんの言うちゃることが、そこでぴんときたんです。
あがあな神隠しいうようなもんは実際にあるわけはない、いうわけでしょう。
いやね、人の魂を降ろして飯を食うとるようなもんが何を言うかと思われるでしょうが、そりゃあ話が別じゃろう思いますよ、私は。

人が死んで魂になるいうんはあっても、肉体のある人が煙みたいに消えるいうんは、道理が通らんです。
人一人が消えるいうんは、そりゃあえれえことなんで、そげえなことはほんまの神さんにだって難しい思いますよ。

じゃけえ、私はこう思うとるんです。美咲ちゃんは、あの家ん中で殺されとる。
そんで、どっか人目のない山ん中にでも運ばれて埋められとる。
じゃけえ、あがあなふうに美幸さんに祟りおるんでしょう。

美幸さんはあれっきり、もうまともに話もできんようになって、一日中わけのわからんことをぶつぶつ呟いとるいうことです。
日に二度ほど我に返ってから、美咲、美咲、いうて泣きおるいう話を聞いたらどうにも不憫で、
私もどうにかしてあげたいとは思うんですが、もうどがあもできんのです。

川上さんも参られとってで。世の中には明るみに出さんほうがええこともあるんじゃ思うとなんともやりきれんですが、
この話だけはしとかんといけんような気がして、別にこれでどうこういうつもりもありゃあせんですけど、
川上さんももうあがあなったら駄目かも知れんけえ、私の口が利けるうちにお話ししおこうと思うたいうことです。

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