『先輩と稲刈り』先輩シリーズ【怖い話】|洒落怖名作まとめ

『先輩と稲刈り』先輩シリーズ【怖い話】|洒落怖名作まとめ 先輩シリーズ
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先輩と稲刈り

 

この話は、二年の秋の話だ。
俺の実家は農家だ。
それも米農家。
米農家にとって秋とは、ズバリ収穫期であり、不本意ながらも長男の俺は、忙しい学業の合間を縫ってせっせと稲刈りに従事していたのである。
そこに先輩からメールがあった。
『見せたい物があるから来い』
俺は悩んだ。
多分面白い物だと思う。だが、俺は今稲刈りの途中だ。
確かに退屈極まりないのだが、放り出すわけにもいかない。
悩んだ末、返信は『今稲刈り中につき後日』にした。
暇な大学生と違って忙しいのだ俺は。
メールが途切れ、携帯をしまって、籾袋を軽トラックに乗せる仕事を再開する。
暫くして、田んぼの向こう、農道を歩く見覚えのある人物に気付いた。
麦藁帽子、首にタオル、ゴム長靴というテンプレートな農業ルック。
本人が生白くなければ、だが。
何故か満面の笑みの先輩がいた。
「よう。おばさんに場所聞いてな。手伝いに来た」
来なければ良かったのに。
いや、別に先輩は嫌いじゃない。むしろ尊敬しているが、この場にはあまりにも不似合いだし、恐らくまた質の悪い事を言いやがるだろうから。
「……何もたくらんで無いですよね」

□ □ □

一応確認してみる。
「勘繰るな。単純に稲刈りって見たこと無くてな。見たかったんだ、一回」
そういえばそうなのかも知れない。
先輩は中学までどこか都会に住んでいたらしい。
実家が農家って話も聞かないし、純粋に好奇心から見に来たんだろう。
多分。
「面白いもんでも無いですよ。昔ならともかく、今は稲刈り機でがーっとやっちゃいますから、風情もクソも無いし」
先輩は驚いた顔をしている。
「……鎌でやるんじゃ無いのか」
今度は俺が驚いた。
「終わりませんよ、鎌じゃ」
「だって、あの鎌で刈ってるの、お前の爺さんだろ」
「アレは稲刈り機が入れないようなところだけです。角とか、入口の前とか」
先輩は神妙な面持ちで「知らなかった」と呟いた。
それから先輩は、あまりない体力と腕力をフルに使って手伝ってくれた。
ちなみに籾袋が大体40kg。先輩にはギリギリの重さだったようだ。
以下、先輩の呟きと返答。
「俺も田んぼ買おうかな」
答え:田の売買が出来るのは、届けられている農家の家長のみ。長男あるいは父親。
「なんだ、貝がいるぞ。川から水引いてるのか」
答え:それはジャンボタニシ。害獣。川じゃなくて池。

「ヨーコがこれより重かったら抱き上げるの無理だな」
答え:知らん。ちなみにヨーコとは、先輩の大のお気に入りの女性で現在熱烈求愛中。彼女もまた不思議な人だが、彼女の話はまたいずれ。
まあ、時折苦笑がもれたが、それでも一人より楽だったので、淡々と作業していた
しかしある時、先輩の視線がある一点で止まったのだ。
「あ?……あー」
稲刈り機の少し先、これから刈る稲の辺りをじっと見ている。
嫌な予感がした。
「何かいます?」
残念ながら俺には見えない。
先輩は決まり悪そうに頷いた。
「お前に見せたい物があるって言っただろ。アレ、実は持って来てるんだが、憑いてたヤツも一緒に来てたみたいだ」
説明している間に稲刈り機が進み、視線のある辺りに差し掛かる。説明している間に稲刈り機が進み、視線のある辺りに差し掛かる。
「あっ、あっ、あ……あーあ」
何事か起きたようだがやはり見えない。
「え、何ですか何なんですか」
問いただすも、軽く笑って流される。
仕舞いには
「まあ、もし混ざっても大丈夫だろ。そんなに強い奴じゃないし」
と宣った。
俺はそれ以上聞かなかった。
せっかくの新米が食べられなくなりそうだったから。
嫌~な気分の俺とは対称に、先輩は帰りに乗った軽トラの荷台が気に入ったようで、とてもはしゃいでいた。
また乗せてくれと言われたが、金輪際ごめんだと思った。

□ □ □

後日

籾の乾燥・脱穀が終わり、手伝ってくれたお礼に一袋どうだと先輩に言ってみた。
すると先輩は
「いやあ、流石にアレ混じりの米を食う勇気は無いなあ」
と爽やかに断った。
とりあえず、即日ヨーコさんに告げ口しておいたが、後のことは……知らない。

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