『パートのババァと売上金』本当にあった図々しい話
数年前の年の暮れ、うちが商売やっていたときの話。
ある日の正午頃、店でパートしている図々しいババアから俺の携帯に電話があり、
「大変です!売り上げ金を数えてみたら、10万円足りません!」とのこと。
このババア、40台半ばで入社数ヶ月。子持ちを理由にしょっちゅう無断で休むので、
店としては悩みのタネだったが、とにかく人手不足だったのでこっちも我慢して使っていた。
売り上げ金てのは当座に入れる現金のことで、普段は責任者に管理させるのだが、
その日は午後から早上がりというので、金庫から金を出し、俺が店に到着するまでの数時間、
そのパートに預けることになった、というわけ。
(数えてみたら足りません…って、バカが無い知恵絞って考えた結果がこれかよ…)
犯人は最初から分かっていた。パートに「現金○○円を預けるから」とは言ったが、
「現金を数えろ」とは一言も言ってない。まあ、今までの職務怠慢もあることだし、
このババアには地獄を見てもらおう、と俺と若手社員君の二人で店に向かった。
店に着くやいなや、俺は「自販機の金を数えてきて!大至急!」とパートに命じ、店の外へ向かわせた。
若手社員君は店の事務所(営業時間は無人のことが多い)へ急行。後に彼が手柄を立てることになる。
その間俺は、パートの私物をチェック。カバンや上着の中にはない。とすると残る可能性は一つ。
これが現在の残金です、とパートが戻ってきた。自販機の小銭を計数気で数える俺。
「う~ん、やっぱりいつも通りの売り上げだなあ。パートさん、ちょっと時間ある?バックヤードまで来てくれる?」
と本人の同意を得て裏に連れ込む。そしてまずは平身低頭に言う(これがコツ)
「あの、大変申し訳ないんだけど。いや、貴方を疑ってるわけじゃないんだけどね。
念のため、身体検査させてくれる?なに、ポケットとか、簡単なところでいいから。」
「ええ、いいですよ。そうしてくれた方が、あたしも身の潔白を証明できますし。どうぞ」
とまずは胸ポケット。次にズボンの前ポケットと後ろのポケットを調べるが、やはり出てこない。
「ごめんね、疑ったりして」とこれで終わりにしようとした。「店に戻りますね」とパートが言い、
俺は黙って、しかし鋭い眼力でパートの動きを追った。
確信した。やっぱりこいつはクロだ!
「あ、ごめん。ちょっと待って!もう一箇所、お願い!本当にあと一箇所調べたら終わりにするから。
悪いけど、靴下の中調べさせて」
「あああああ、ふじこ!あたし、急にトイレに行きたく…」
「すぐ終わる!さっき、調べていいって、貴方の同意は得ているからね。終わってからトイレ行って!」
と半ば強引に靴下を脱がせた。すると案の定、靴下の中から10万円が出てきた。
最初に奴を自販機に行かせたのは、私物をチェックするという目的もあるが、もしも俺が外に行けと命じて、
「あたしのカバンを取ってきていいですか?」等と言おうものなら、それはそれで別に対応の方法がある。
しかし奴はカバンをスルーした。であれば、金を身に着けているに違いない。その不自然な動きを見るためだ。
股間に隠す女は不自然な内股歩きになるが、奴は左右アンバランスな動きになっている。
それを確信し、見事に的中した。
「どういうことだこれは!」
「これはあたしのお金です!今日、通帳に入れようと持ってきたんです!」
「おまえは自分の金をロッカーにも入れず、そうやって変なところに隠すのか!」
「このことは旦那も知ってます!だからこれはあたしのお金です!」
「そこまで言うなら旦那に電話しろ。そして俺に代われ」
奴が携帯を取り出し、仕事中の旦那に電話を入れる。そして奴の第一声がこうだ。
「あーもしもし?アタシだけど。今ね、店にいるんだけど、あたしが通帳に入れようとした10万を…」
「ストーップ!それ以上喋るな!代われ!」
と奴の携帯を強引に奪って、俺が旦那と直接話をする。
「あ、もしもし。お忙しいところすみません。私、○○さんがパートで働いておられる、△△社の者ですが」
「あ、どうも。お世話になってます。」
「旦那さんですね?お仕事中なので単刀直入にお聞きしますが、10万円の件はご存知ですか?」
「いえ。何ですか?それ」
「奥さんが、家から10万円を持ってきて、今日、入金する予定だったことは旦那さんもご存知だと言ってるんですが」
「さっきから何のことですか。私にはなにも…」
とここで横目でパートを見る。明らかに奴は血の気がひいている。
「この際だからはっきり申し上げますが、おたくの奥さんが、うちの店の金を盗んだんですよ」
「な、なんだってーーーー!!!?」(AA略)
「で、本人は『旦那公認の10万だ』と言うので、それで確認をとらせてもらったんです。」
「……」
「どうも、お忙しいところ失礼しました。では」
血の気のひいたパートを見て言う。
「いやー、嘘つきは泥棒の始まりって言うけど、まさにその通りだな。ん?」
「あたしは嘘なんかついていません!旦那が忘れていただけです!」
「まだシラを切るつもりかこの野郎!おまえが行きたがっていたトイレはどうした、トイレは?」
「………」
「行きたいんだろ?ションベンかクソしたいんだろ?行けや!ただし手ぶらでな」
とトボトボとトイレに向かう。どうみても『漏れそう!』な様子じゃない。
奴がロスタイムを稼いでいる間、やっと若手社員君の登場。
「店長!お待たせしました!この間に映っています!」でかしたぞ、若手君!
奴が戻ってきた。そしてトイレにこもって、これまた苦し紛れな言い訳を考えたのだろう。第一声が、
「旦那が知らないのも無理はありません。あたし、10万じゃなくて5万と伝えて…」
「あー、もういいんだ。そんな嘘つきの言い訳は。ちょっと事務所まできてくれ。」
と、普段は現場のパートが入ることのない、事務所奥のモニタ室に連れてくる。
「見てくれ、これ。当社自慢の監視カメラさ。こんな風に店の死角はほとんどないんだな。」
もうこの時点で奴はヘタヘタと座り込んで、ちょっと失禁しやがった。
「うわ!きったねーな。おまえ、さっきトイレに行ったばかりじゃ…」
「ごめんなさい!ふじこふじこ!」
証拠を再生する前に、やっと罪を認めやがった。
「なんで加害者が泣くの?泣きたいのは被害者の方なんだよ!」
「くぁwせdrftgyふじこlあwせdfghyじゅいこl……」
もう言葉にならない。
「おまえには一筆書いてもらうから、そこから動くな。」
と始末書を急遽作成する。5分くらいして原稿が出来上がり、奴に一字一句全てを読ませる。
そして内容に間違いがない、ということを確認して本人に署名捺印させる。これさえあればこっちのもの。
「よし、分かった。というわけなので、うちはドロボウを店に置くつもりはないから、お前は今日限りクビだ。
給料も払わん。ただし、おまえにも家族がいることを考慮し、警察には言わないでおいてやる。
不満があるなら、お前が出るとこに出てもいい。ただしそのときは、この始末書も然るべきところに出すからな」
と最後通告を突きつけ、奴は年の瀬に解雇。
これで終わると思いきや、後日談がある。そこの旦那さんは一本筋の通ったマジメな方で、
年が明けて間もなく、会社に電話があった。事件の夜、旦那が帰宅してパートに改めて確認し、
顔面が変形するくらいボッコボコにブン殴って離婚した、とのこと。嫁(パート)は実家に帰らせたってさ。
当社に対しては、大変申し訳ないとただただ平謝り。旦那さんが頭下げることじゃないんだけどね。
ところがその数ヵ月後、今度はパートの実家というところから苦情の電話が入りやがった。
「娘を不当に解雇して、不景気だから給料も払わんとは何事だ!ゴルァ!」ってわけの分からん内容。
とりあえず実家の住所とやらを聞いたので、例の始末書のコピーと、奴の犯行を録画したVHSを送ってあげた。
それ以来音沙汰がない。子は親の鏡とはよく言ったものだよ。
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