『ヒキニートの兄』本当にやった復讐 – 修羅場【長編】

『ヒキニートの兄』本当にやった復讐 - 修羅場【長編】

 

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ヒキニートの兄

 

俺男…会社員。営業。26歳
彼女…俺の務める会社の取引先の事務員。24歳
彼女兄…31歳

俺が営業回りをよくする会社の一つに、彼女の勤める会社があった。
もともと俺の同僚(こいつも営業)と彼女の先輩子が仲良くてお互いの会社の若手何人か同士でランチをしようという話になった。
そこで知り合ったのが彼女。

ぱっと見に目立つ顔じゃなくて地味で、悪く言えばモサいんだけど、絶対に人の悪口言わないし、ぼーっとしてそうなわりに天然じゃない狙ったギャグが言える子だった。

頭の回転が良くてしゃべると楽しい子だったから、すぐ気に入ってメール交換し、しばらくは色気抜きで雑談メールのやり取りをしていた。
その間にも複数人で何度かランチはしていた。

彼女の話にはよく「おばあちゃん」が出てきた。
親兄弟の話は全然出てこなかった。

「おばあちゃん好きなんだね」

と誰かが言ったら

「今、おばあちゃんと住んでるから」

と答えが返ってきた。
実家は遠いが、おばあちゃん家は会社から近いので就職してからは祖母宅に住まわせてもらってる、という話だった。
その時は

「ふーんそっか」

で話が終わった。

気付くと半年近くが経って、俺はいつのまにか彼女が好きになっていた。
こういうツボにハマったメールを楽しく長期間続けられる子は貴重だと思った。

でも友達期間が長かったし、ここで色気出して嫌われたら、もうこの関係は終わりかと思うとなかなか誘えなかった。

でもまあ結局は勇気出して誘って、二人きりで会うようになってから三ヶ月後に

「つきあって下さい」

と言った。
そしてOKがもらえ、俺たちは付き合うようになった。

彼女はおばあちゃんと二人暮らしだから、基本会うのは俺のアパート。

彼女は俺が初彼氏だったからエッチなことは我慢して初期には紳士的に八時までには送っていましたほんとです。

でも彼女とよく話しこむようになって気付いたこと。

実家が遠いという話だったが、彼女の出身中学(公立)、地元だ。
その中学に通ってたってことは、実家は遠くないどころかたぶん近所。
でもなんか事情があるんだろうなと思ってその時は聞かなかった。

また何ヶ月か経って、初のホワイトデーを迎えた。

俺はまだ彼女とメル友時代に彼女が欲しいと言っていた。
とあるCDの復刻版じゃないオリジナル盤をオクでゲットしてワクワクテカテカしながら彼女が来るのを待っていた。
ほんとうにテカテカしていた。

彼女は時間どおりに来たが、暗かった。
プレゼントを渡す雰囲気ではなかった。どうしたの(´・ω・`)と思っていると

「私、俺男くんとお別れしなくちゃいけないかもしれない」

と言われた。
俺「なぜ?なんで?」

カノ「今まで内緒にしてたことがあって…」

俺「それは何となくわかってたけど、なんで別れるん?なんでなんで?」

カノ「……」

俺「ほら!CDあるよ、聴こうか!実は買ってたんだーハハハハ!俺もきみに内緒にしてたことがあったんだよーん!あいこあいこ!!」

カノ「……」

俺「……」

そんで彼女がぽつぽつ話し出した。

おばあちゃんと二人暮らしなのはほんとうだけど、就職してからというのはウソ。
実家が遠いというのもウソ。
彼女が祖母宅に住み始めたのは高校生の途中かららしい。

理由は彼女の兄が登校拒否児のなれの果てのひきこもりで家庭内暴力+妹への身体的・精神的虐待+自傷のフルコンボだからだそうだった。

彼女の両親は彼女がかわいくないわけじゃないようなんだ。
それ以上に兄を「かわいそうな子」と溺愛していて兄を強く叱ることができないらしい。

もともと兄は子供の時から優秀で「神童」と言われたほど利発だったが、中学でいじめに合い登校拒否になり

「理不尽ないじめにさえあわなければ」
「おにいちゃんは被害者」

という感じでずっと両親は腫れものに触るような扱いだったらしい。

妹(彼女)への暴力があまりにひどい時に叱ったこともあるそうだが叱られると自分の髪を大量に引き抜く、頭を血が出るまで壁に叩きつける、奇声、食事をとらない等々の自傷行為があったそうでそれ以来親は何も言えなくなってしまったということだった。

以下彼女が兄にやられたこと。

・殴る、つねる。腕をねじり上げる。
・階段から落とす。
・腹や脛を狙って蹴る。
・すれ違いざまに殴るふりをする(ほんとうに殴る時もあるし殴らない時もある)
・ポットのお湯をカップに注いだ直後、彼女や母親に向かってかける
・髪を切る
・夏休みの宿題や、教科書やドリルを盗んで捨ててしまう
・家族の食事時に降りてきて(普段は部屋にこもりっきり)食事めがけてキンチョールを大量散布する
・唾をかける

などなど。

両親はやられた側の彼女のフォローより兄へのフォローが最優先で彼女にはあとで

「我慢してね」

と言うくらいだったらしい。
骨折して病院に行った時も

「転んだって言いなさい」

と固く言い渡されたそうだ。
しかし彼女が高校生になったあたりから旗色が変わってきた。
兄が色気づいたのだ。

今まではすれ違いざまに殴るふりだったのが、乳を掴んできたり無理やりキスするように顔を近づけてきたり寝ている間に部屋に入って来るようになったという。
彼女は親に

「部屋に鍵をつけてくれ」

と訴えたが、

「日常と変わったことをするとお兄ちゃんが動揺するからだめ。お兄ちゃんを刺激しないようにして、ささいなことは我慢しなさい」

とスルーされた。

その後彼女は家を出るまで、手製のつっかえ棒みたいなもので夜中にドアが開かないよう自衛していたらしい。

高1の冬に伯母と叔父(父方)と伯母(母方)の協力があり祖母宅(父方)へ避難。
ひきこもりの兄は自宅から一歩も出られないので追ってくることはなかったらしい。

そのうちに祖母が弱ってきたので祖母を置いていくこともできず彼女は祖母宅から通える会社に就職。

現在に至る。

兄はどうせ家庭内のみの暴君だからあの家にさえ二度と戻らなければ、と思っていたが最近母親から祖母宅に電話があり油断と懐かしさで近況をしゃべってしまったのだそうだ。
彼氏ができたとはっきり言ったわけじゃないがニュアンスで伝わってしまったらしい。
そしてその話はそのまま兄にダイレクトに伝わった。

31歳ヒッキー兄、激怒。

彼女を「自分のもの」だと今でも思っているらしく、もう傷物だとかビッチだとか相当罵倒して家の中で暴れた。

そしてその激怒の勢いで10数年ぶりに家を出て、祖母宅でも暴れた。
その時彼女は留守だったが、彼女のおばあちゃんがやられたらしい。

さいわい途中で大声を出して、たまたま開いてた縁側のサッシから逃げたので大けがにはならなかったが、目の周りや腕、腹にあざができるなど軽い被害ではなかった。

彼女は「家庭内のみの暴君」だった兄がついに外にも出れるようになったことを知り「このままでは俺男くんもやられる」と悩んでいたそうだった。

俺「その兄貴は俺の家を知ってるの?」

カノ「たぶんまだ知らないけど、時間の問題だと思う。だから早く逃げて欲しい。こんなことになってほんとうにごめんなさい」

俺「でも俺、現役引退して何年も経つけどスポーツやってたし、まだ31歳ひきこもりに負けるほどじゃないはずだから、安心して」

カノ「そういうことじゃない。俺男くんは他人を躊躇なく殴れるかっていうとそうじゃないでしょ?
でも兄は躊躇なくゴルフクラブで他人の頭を全力で殴れる人。
リミッターがない人と常識人とでは比較にならない。
とにかく兄は普通じゃない。普通じゃない人を相手にしてけがしないで」

と泣かれた。

そういう幼少期を過ごしたんだから無理もないだろうけどとにかく彼女は兄を過大評価というか、大魔王みたいに思っていた。

いまだに顔を思い出すだけで足が震えるとか、高校生になっても口答え一つできなかった、と言っていた。

でも話を聞く限り、その兄は母親、彼女、母方の叔母、彼女の祖母など女にしか暴力をふるってなかった。
彼女の父親を殴ったという話は一回もなかった。

彼女にそれを指摘すると

「父は「お兄ちゃんを刺激してはいけない」説の信奉者で、兄を怒らせないようにいつも一番気を使っていた人だからだと思う」
との答えだった。
ちなみにその「刺激してはいけない」は医者だかカウンセラーだかに言われたことらしい。
彼女が物心ついた時にはもう家庭内に浸透してたそうだ。

俺は話を総合して、ヒキ兄が男には強く出られない奴だろうという方に賭けた。
部活やめてかなり経ってややビール腹とはいえ、体脂肪が13%より上になったことがない俺が、31歳ヒキに負けることはない…ないだろう…たぶん、と思った。

包丁でも持って来るかもしれないから、一応長物でも用意しておくことにして、彼女をちょっとでも笑わせたかったから

「俺はそっちに賭ける!きみは俺が負ける方に賭けて商品はこのCDだ!」

ということにした。
彼女は

「CD欲しいけど負けなきゃ」

と言って、泣いてたけどちょっとだけ笑って、でもやっぱり泣いてしまった。

そして彼女が家を出る時に協力してくれた父方の伯母と、叔父とその奥さんは信用置ける人そうだったから協力してもらうことにした。

彼女は渋ってたが、俺のほんとうの住所を知らせないということを条件にまずおばあちゃんを父方伯母さんの家に避難させ、「彼女が祖母を追い出して、俺を祖母宅に引き込んで同棲してる」という話を彼女の母に吹き込んでもらった。

母親から兄にすぐ伝わるだろうという予想で。

でも予想に反して、ヒキ兄はすぐ襲撃して来なかった。

やっぱり俺という他人の、それも男を襲撃するのはハードルが高かったんだと思う。

そこで諦めても良かったんだが、このまま彼女が一生ヒキ兄におびえたままじゃかわいそうだし、全部やり返すのは無理としても一発くらい殴らせたかったから作戦は継続した。

なお、何日も二人きりで過ごすうち、俺は紳士ではなくなってしまったがそれは仕方のないことだと思う。

驚いたのは俺が変態紳士ではなくなってしまったことがすぐ彼女実家にばれたことだった。

盗聴器でもつけてるのか?と怪しんだくらい早かった。
彼女の母から祖母宅電話に

「あれほどお兄ちゃんを刺激しないでって言ったでしょ!」

と号泣しながら電話がかってきた。
ちなみに取ったのは俺。
俺がなにか言う前に切れた。

そして母親から兄に話が伝わったらしく、その日の夜中に兄が突撃してきた。
予想してたから彼女は一番頑丈な鍵のかかるトイレにいさせて
(もともとおばあちゃんの家なので和室づくりだから鍵かかる部屋が少ない)
玄関ドアは鍵しめてたが、縁側サッシの一番端のとこだけいかにもウッカリっぽく開けておいた。

時刻は零時ちょっと過ぎくらいだったと思う。

蛍光灯を消して補助の豆電気だけにして、俺は居間にいた。

手にする長物はバットとかゴルフクラブとかいろいろ迷ったけどもしもの時もために正当防衛を主張できるものにしようと、おばあちゃんの杖を借りた。

杖とはいえ柿の木でできてるやつですごく固い。

最初に玄関をガチャガチャいわす音がして、その後サッシが端からガタガタ動かされる音がして最後にわざと開けたサッシが開いた。

開いた瞬間にわざとパチっと電気つけたら思った以上にはるかに弱そうな色白ピッツァが「ポカーン」顔で縁側に上がりこもうとしてるとこだった。
でも手には木刀持ってやがった。
さすがに杖と木刀じゃ長さが違うし、成人男子の力で殴られたら骨までいくんでピッツァがポカーン顔のうちに、木刀持ってる手を杖で叩きまくった。

「いたっいたっ」

と間抜けな声をあげて木刀を落とすピッツァ。
それを足で蹴って背後に回収してから
外に向かって

「ドーロボーーーー!」
「キャーーー!」

と叫んだ。
ついでに

「火事だーーーー!!」

とも叫んでおいた。
なにかの本で、これが一番効果的に通報してもらえるって読んだから。

得物を失ったピッツァの襟首を掴んで投げたら、ピッツァは畳の上に前のめりに倒れた。
トイレにいる彼女に

「電話!」

と声をかけた。
これは「泥棒を確保したから110番通報する」の合図。
彼女は携帯持ってトイレにこもっている。

俺はその間にピッツァが逃げないよう、押さえこむとか殴るとかする予定だった。
でも何もしてないのにピッツァは畳にうつ伏せになったまますすり泣きはじめた。

まだパトカーが来る気配はなかったからトイレの彼女に

「おーい!ちょお、出てきて!」

と言った。
彼女は

「いいからそのまま警察に渡して」

と渋ってたけど、俺が何度も

「一発くらいやり返しておけばスカっとするから」

と勧めてやっと出てきた。

出てきた彼女を見て、ピッツァは畳に唾を吐いた。
たぶん彼女に吐きたかったんだろうけどそばに俺がいるからやめたんだと思う。

俺としては彼女がデブにビンタ一発!という展開を望んだんだけど結局彼女は何もしなかった。
だんだん外がザワついてきて、パトカーの音が近づいてきたから

俺「ビンタするとか、蹴り入れるとか今のうちだよ」

って言ったけど

カノ「ううん、いい。そんなことしなくてもすっごく弱そうなのが改めて見てわかった。それに汗かいてるのが気持ち悪くて、こいつに触りたくない」

と言って、

「私は奥にいたから兄だってわからなかったことにしておいて」

と寝室に入っていった。
侵入者が身内だとわかると、警察が拘留してくれないことがあるらしいから。

その後はパトカーに引き渡して、素性が知れて身内だと判明したがサッシから夜中に侵入したことや、木刀を持ってたことから強盗未遂と判断された。

地元の新聞に小さく乗ったけど

「孫が祖母のいないうちに空き巣狙いの家宅侵入」

って感じの全然違う内容の記事になってたのにはちょっと驚いた。

記事はそんなだったが、地元ではちゃんと「ヒキ兄が祖母のいないうちに妹を狙った」とかなり正確な噂が広まった。

俺の同僚が営業ついでにヒキ兄と両親の悪行を大げさに広めたせいもあるが。

かなり長くなってしまったから、その後はざっと。

彼女の両親、噂に耐えきれず?なのか、事件後半年でスピード離婚。
彼女の父親が出て行った。

ヒキ兄と母親だけで二ヶ月ほど暮らすが、母親の姿が見えなくなる。

新聞が新聞受けに溜まっているのを見て近所の人が連絡すると母親は心を病んで実家の人に引き取られていったとかいう話だった。

ヒキ兄は10日ほど籠城したらしいが食糧と金が尽きて、地べたに座りこんでいるところをふたたび警察に確保された。

身元引受人として両親が指定されたが母親は拒否。
父親が来たみたいだ。

その後は父親と、父親の社宅で一緒に暮らしているらしい。
まだヒキなんじゃないかと思う。

なぜか彼女の携帯に母親から電話があって

「ひょっとして、いい気味だと思ってる?」

と言われたらしいが、彼女が黙ってたら切れたそうだ。
でも直後に叔母(母方)から電話があって

「もう電話させないから」

と謝られて、それ以後連絡はなし。

彼女はもうサバサバしたもんだが、たぶん俺の方がまだムカついてるんだろうな。

おわり。

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本当にやった復讐長編
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