切ない話 Vol.17
あひるさん
二度の脳梗塞で重度の障害が残った夫は、狭心症発作を繰り返しながら自宅療養を続けている。人との接触を求めて、時々外出する。
冬の一日、急に思い立って遊園地へ行った。
広場の隅に車椅子を止め、私は傍らに立って元気に走り回る子供達を見ていた。
思ったより寒く、早く帰らねばと思った。
その時広場に歓声があがった。ドナルドダックの着ぐるみを着た人が現れ、子供達がどっと駆け寄ったのだ。
ところがそのあひるさんは、子供達をかき分けてどんどん駆けて、こちらへ近付いてくる。広場の隅にいる私たちの方へ……。
車椅子に乗った夫の前へ来ると、大きく一礼して大きな手で夫の背中を撫でてくれる。
二度、三度、突然の出来事に私達も周りの人も驚いた。
夫の背中を大きく撫でて、今度は私の腕をさすり、両手で包み込んでくれる。
大きな白い温かい手で……。優しさが老二人を包み、その温かさが周りに広がり、見ていた人達の間から拍手が起こった。
夫の顔を見ると、涙がほろほろ頬を伝っている。風の冷たさを忘れた。
「優しさをありがとう」と言うのが精一杯の感謝の言葉。
あひるさんはウンウンと頷いてもう一度夫の背中を撫でて、子供達の方へ駆けていった。
思いがけない出来事だった。
着ぐるみだからお顔は見えない、お声も聞けなかった。けれど、優しさと励ましのお心はしっかりといただいた。病む夫にも、介護の私にも元気をくださったあひるさん、ありがとう。
早く治すぞ!
高熱で寝込んでいた私のところにきてトントンしながら子守歌うたってくれ、熱を下げようと氷がたくさん入った桶とタオル(じゃなくて雑巾だったけど)を持ってきてくれた4才。
冷たいのに一生懸命氷水の中でタオル絞ろうとしてて、小さな手も赤くなって…熱のせいもあるのか泣いた…
いつも母ちゃんがしてることちゃんと見てくれてるんだなと。
早く治すぞ!
2人で頑張ってます
子供さんのいるご夫婦はやっぱりいいですね。
うちは嫁さんが体質的に子供無理っぽいんで、とにかく2人で頑張ってます。
というか2人ともネタじゃなくて天涯孤独の身の上なんで、家族というと本当に夫婦だけなんです。
俺も彼女も学生時代に親亡くしてます。無理に探せば遠い遠い遠い親戚くらいいると思いますけどね。
男の俺でも相当ショックでけっこう引きずったくらいですから、嫁はどれだけ心細かったかと思います。
救いはそんな境遇でも嫁さんが明るい性格と優しさを失わなかったことでしょうか。
あとは「お互い厳しい身の上だねえ」と、恋愛のときに意気投合しやすかったことくらいw
狙って同じ境遇の女性を探したわけではないんですが、割れ鍋に綴じ蓋でした。
嫁さんが取り乱したのが、病院で子供は止めとけと診断されたときでした。
「もうずっと1人で生きていく。あなたに家族団らんがあげられなくてごめん」などと別れ話まで持ち出したくらいで。
それを「俺と一緒にいれば一生寂しい思いはさせない」とか大きなこといって籍を入れたので
今でも時々は思い出して責任感じたりはしてます。
外からはラブラブの馬鹿夫婦に見えてるらしいですが、これで内面はけっこう真剣な生き方をしてますw
もう結婚して10年、俺は30代半ばを過ぎ、嫁さんも35になりました。今さら子供がどうのこうのもありませんし
お互いの趣味を優先させつつ、夫婦でも一緒に遊ぶ気楽さもすっかり身につきました。
ただ、たまに嫁さん自身が子供みたいにじゃれついて読書やPCの邪魔してくることがあります。
最初は擦り寄ってくるくらいですが、そこで放置しておくと俺の周囲を踊って回ったり、後から首を絞めたりしてきますw
俺と一緒にいても、それでもたまに寂しくなるのかもしれません。
捕まえて抱きしめてやると暴れるのをやめますw
そういう時は、笑うでも泣くでもなく穏やかな表情を浮かべて遠くを見るような表情をしてます。
黙って心ゆくまで静かに抱き合っていることがあります。2時間くらいw
俺としては抱きしめる手に、嫁さんをいかに大事に思ってるか、思いを込めているつもりです。
愛しくて
昨日頭が痛くて頭が痛くて、明るいうちから布団に入って朦朧としてた。
4才の娘、完全放置。ご飯も買ってきた納豆巻きをテーブルにおいただけ。
「かーさん、口開けて。一個だけでもね、食べたらね、元気になるんだよー」
と言いながら、ちょっとお醤油をつけた納豆巻きを私の口に入れていった娘。
ちゃんと歯を磨いてパジャマに着替えて、居間の電気も消してから、
「よーし、○○も一緒に寝てあげるからね」ともぐり込んできた娘。
「なっとまき、まだ残してあるからね。後で起きたら、
きっとお腹空いてるから食べるんだよ?」って言ってから眠りについた娘。
ちょっと泣いた。
夜中だいぶ回復して起きたら、テーブルの上に納豆巻きが無い。
あちこち探してみたら…冷蔵庫の野菜室の中に、
輪ゴムでぶきっちょに封をした納豆巻きのパック。
冷蔵庫は最近買い替えたばかりで、
普通の冷蔵室には手が届かなくなったから、
どこに仕舞ったらいいか娘が一生懸命考えている様子を想像してまたちょっと泣いた。
今朝目覚めて最初に「おかあさん、もう頭痛くない?」って訊いてきた娘。
ああ、私が産んだ子なのに、なんであなたはそんなに優しいのだ。
毎日可愛い可愛いと思ってるけど、昨日から何というか、可愛いというより愛しくて泣けてたまらないのです。
剛田
役員「では自己紹介を手短に」
剛田「はい。ハーバード大学院経済学修士課程から参りました、剛田たけしです」
役員「では、アピールポイントを3分で」
剛田「はい。2点あります。一つはリーダーシップ、二つ目は体力です。
リーダーシップに関してですが、小学校の頃にジャイアンズという野球チームを立ち上げ、何度ものメンバーチェンジ、選手交渉、トレードを経てNYヤンキースに勝利するまで育て上げました。
体力に関してですが、先に申した野球を始め、サッカー、アメフト、柔道など幅広いスポーツをこなしました。体力なら自信があります。
またMorgan Stanleyで事務のアルバイトを経験し、不眠不休でエクセルの表を作っていました。」
役員「では学生時代に頑張ったことは?」
剛田「先ほど野球チームとアルバイトの話をしたので、アイビーリーグの学生をまとめて大規模なビジネスコンテストを主催した経験について話します。
ハーバードの院に入った年から活動し始めたのですが、GE、P&G、AT&T、IBM、Merrill Lynchなどの企業の役員にアポを取ることから始め、スケジュール管理、各大学への訪問などを繰り返し最終的にアメリカの5000人もの学生を集めることに成功しました。延べ一年半を費やしてようやく実現にいたりました」
役員「いやあ、君は優秀だね。なんだっけかな・・・君と出身小学校が同じ子が面接に来たんだが奇妙奇天烈な学生でね。選考には進ませなかったんだが。」
剛田「その学生・・野比という名前では?」
役員「ん、まあ名前は言わないけど。“無能”な子だという印象を持ったよ」
剛田「・・・・謝れ」
役員「なんだって?」
剛田「謝れと言っているんだよ、俺の友人に」
役員「内定あげようと思ったのに」
剛田「こんな会社の内定なんていらない。だから野比に謝れ」
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