『呪いの部屋』
何でも、Aが、もう1人学生時代の友人(Fとします)に誘われて、二人でB宅を訪問してきたそうです。
「何か」が今もいるのか、そして何よりBの子供は普通なのかどうかが知りたかったと。
最も帰ってきた後の話を聞くと、
「……行くんじゃなかった……」と言ってましたが。
Aによると、Bは郊外のやや長閑なところに住んでいて、喜んで迎えてくれたそうです。
休日だったので、B夫と子供も居て挨拶したと言っていました。
そして結論から言って、やっぱり「何か」はBの中に居たそうです。
……しかも、A曰く「育ってた」と。
大きくなってたと言うか強くなってたと言うか、ハッキリしてきてたと言うか。
「やっぱり形とか顔とか、そういう輪郭は見えないんだけどね。
霧だとしたら『濃くなってた』、人影だとしたら『立体的になってた』って感じで。
気配も強くなってて、撒き散らす匂いっていうか放射能みたいなものが増えてた感じで、
正直ぞっとした」
また、AとFが最寄り駅に降りたときから、街そのものが酷く嫌な感じが漂ってたそうです。
「みえるひと」でないFさえも落ち着かない様子で、
「……何だか変わった感じするとこだね。子供が多いわりに静かだからかな?
少し早いけど、お店入るよりBの家いかない?」
と言うほどだったと。
Aは、Bの家に向かう間の短い道すがらに、霊的に酷く悪い状態のものを驚くほど大量に
見たそうです。
酷い死に方をして浮かばれないんだ、と一目で判るのとか、性質の良くない動物霊とかが
もうウヨウヨしていたと。
正味の霊だけじゃなく怨念じみた空気の塊?みたいなものとか、物凄く古そうな嫌な気配とか、
得体の知れないモノが寄って来たりして、本気で怖かったそうです。
「街が邪念にまみれてるみたいで怖かった。1人だったら引き返してたと思う。でもFに
霊の話とかして変だと思われたくなかったし、もう後ろに憑いてきちゃってるのも
居たみたいだったから。Bの家に行けば何とかなる、と思って、そのまま行った」
それで急いでB宅に着くと、その中には相変わらず何も近寄れないらしく、
B宅内はBの背負ってる『何か』の気配が充満してる他は綺麗なもので、
むしろホッとしたそうです。
「B夫もBの赤ちゃんも普通だったよ。ただ、そっち系について物凄く感受性がない人だった。
元からいいものも悪いものも全然感じなくて、だからどっちの影響も受けなくて、
一生『こっち』の現実の世界だけと関わって生きる人が、たまに居るんだよね。
Bと一緒に暮らすなら、そうでないとダメだと思う。B夫も赤ちゃんも、守護霊が
見えなかったから。守護霊もあの家に居られなくて、いなくなったんじゃないのかな」
……守護霊いないって、大丈夫なんだろうか。
2人がBと居ないときは守護霊が戻って来てるのか、とAに訊いてみましたが、
そこは解らんとのことでした。
何はともあれ、久しぶりに会ったんで互いに近況報告したら、
Bの趣味、と言うか怪談好きも健在だったそうです。
そこそこ新しく、立地も良く広々として立派な部屋だったので
Fが誉めると、何とB宅は、札付きの瑕疵物件だったらしく……
結構な頻度で住人が変わるせいで、大して古くもないのにB一家は10何番目かの
住人だそうでした。中で事故や自殺が複数あり、他にも不幸があって出て行った住人が
いたりして評判の部屋になってしまっていたため、家賃は破格の安値だったとか。
「不動産屋さんも案内してくれたけどあんまり勧めて来なかったしね~。
近所の人も知ってて、『本当に大丈夫?あのね、何かあったら
無理に我慢しないで引越した方がいいよ。こんな話して悪いんだけど、その部屋、
色んなことがありすぎるから……気をつけてね』って心配されちゃったよ。
でも、この人(B夫)そういうの全然気にしないし、私はむしろ幽霊いるなら
見てみたいし~」
のほほんと笑いながらBは言ったそうでした。
「でも結局、そういうのって話ばっかだよね。うち、もう半年住んでるけど、
全然なにもないよ。近所でも事故とか結構あるし、踏み切りではねられちゃった
子供もいたし、気をつけなきゃ危ないのは同じなんだよね。偶然この部屋の
人に集中したから、呪いの部屋にされちゃったんだろうね」
……Fは「そうだよね」と頷いたそうですが、Aは顔が引きつるのをこらえるのが
やっとだった、と言っていました。
A曰く。
おそらくその部屋は、本物の『呪いの部屋』だったんだと言う事でした。
何かのきっかけで悪いものの溜まり場になってしまう場所、というのが
あるんだそうです。
霊的な位置関係とか、近くに沼や海があるとか、その方向とか色々な
ことのせいで、悪いものを吸い寄せて溜め込んでしまうポイントが
できてしまうことがある、と。
「それが建物の中で気密性の高い部屋だったりすると、よけいに溜まったものが
出てかなくなるの。そこに悪いものが溜まるから他の場所が綺麗でいられる、
ってこともあるから。……そこにBが住み始めたんだよね、いきなり」
それは、つまり。
Aの表現したところでは、
「町中のゴキブリとかムカデとかスズメバチとかを全部集め続けてきた害虫で一杯の
小屋の真ん中で、不意に特大のバルサンをたきまくったようなもの」
だそうでした。そしてAは、こうも言っていました。
「Bのことが嫌いなんじゃないけど、2度とBの家にもあの辺りにも行かないと思う。
……もっと散らばったりして落ち着いた状態になるまで、何年もかかりそうな
様子だった」
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