完全に思考の停止した俺をHが引っ張って、林から普通の道路に出て
しばらく歩いて、コンビニを見つけて近づいた。
もう薄暗くなった駐車場に、Bが居て。携帯をいじってました。
「あ、J君!Hさん!」
元気よく声を上げたBの顔には、殴られた痕など全くなく。
「待ち合せ場所に戻ろうとして道に迷って、コンビニ戻っちゃってー。
メール出しても返事ないから、電波悪いのかなって焦ってたんですよ」
「……うん、電波悪かったしJ来たし、動いちゃった。メールは来てないなあ」
辛うじて笑ってみせたHと、まだ思考停止してた俺の携帯が、一緒に鳴った。
『Bです。すみません!コンビニには着いたけど、そこ戻る道が解らなく
なっちゃいました。コンビニで待ってるので、J君着いたらコンビニ来て
くれませんか?』
着信したメールを読んでやっと頭が動き始め、混乱の渦に巻き込まれた
俺をよそに、HとBはまた飲みの店を相談してた。
決めるとさっさと電話して予約した2人に引きずられ、
とりあえず飲んで喋り、一段落したら早めに店を出て
『主婦だしお子さん居るから、そろそろお開きで』
とHがBを言いくるめて解散し、俺は半ば混乱したまま帰宅しました。
数日後。Hと連絡を取りA交えて3人で会って、やっと俺は事情説明を
受けることが出来ました。
『分身というか、自分の姿を見る人が出る場所。祟り等がないか
調べてくれ』
との依頼を受け、見た人と直接会ったHが、敵の気配や強さが何故か
読めないことに心配になり保険にBを呼ぶことを考え、口実に俺との
飲みをセッティングしたのは、前述の通りです。
とりあえず気配を探りに1人で現地入りしたHは、相手の気配が
予想以上にしょぼくて貧相なことに拍子抜けしたそうです。
確かに霊的なものが居る、だけど年代物の割りに本当にしょぼい。
相談者に会っても読めなかったのは、しょぼすぎて気配が弱かった
からだ、と納得したほどで。
分身とかを“みせる”以上のことができそうには全く思えないから
気にする必要なし。それが当初のHの結論でした。
「いやね、本っ当に貧相だったのよ。来て損したと思うくらい」と。
で、Bが待ち合わせ場所の石碑に来て、二人でJ(俺)を待ったが、
最悪の事態を想定して(ヤバいモノが居たら、うまいことBのアレを
使ってB当人には気づかせずに片付けよう、と算段してたらしい。
Hのこういうとこが、Aの神経に障るようですが……)、待ち合せ時間を
ずらしてあったので、暇すぎて間が持たない。
Bがガムを欲しいと言ったので、コンビニへの道を教えて行かせた。
1人残って、漂えども姿はない貧相な気配をお遊び程度に探ってるうち、
俺到着。つづいてB帰還。
「その時はね、本当に変だとは思わなかったんだよ。アレもいたし」
HもAも、みえるひとは皆、人をみるときには外見だけじゃなく
自然に気配や憑いてるモノもみるのだそうです。
Bは全く普通に間違いなくBの気配を持っていて、“アレ”も居た。
何も疑う要素はなかった。
ただ一つ違和感があったのは、ちゃんとみえる“アレ”の気配が
変に弱いというか薄いこと。
気配の質は同じだから、Bの中に引っ込むと気配が弱まるのか、と解釈して
スルーしたのだが、仕事電話で石碑を離れてからもやはり気になる。
何だろう、あの、みえるのに弱いってか、薄いってかペラいってか、
と考え続けててふっと頭に浮かんだ言葉。
『ハリボテみたいな気配なんだ』
いや、引っ込むと外側が抜け殻っぽく残るのかも、と考えても
違和感が打ち消せない。
形だけ残して中身が引っ込むとか、何か凄く不自然だ。
そういう偽装とかハッタリとかと一番無縁な、生の力がむき出しで
いるような存在が、Bのアレなのに。
どんどん不審が増してきたので電話を中断して引き返し、
こそっとBの写メを撮って、Aに送って聞いてみたそうです。
すぐにAから返信があり『Bのアレじゃない。絶対違う』と断言。
アレは引っ込むと形がみえなくなる。その時も気配は残り香みたいに
Bを包んでいる。弱くなんかならない、と。
その返事を受け取ったHは、瞬時に結論に到達したそうです。
アレが偽物で背負ってるBが本物ってのは、絶対に、ない。
有り得ない。どんなにそっくりでも、Bごと偽物なんだ、と。
……その辺の理屈は、正直俺の理解できない点もありましたが。
とにかく“偽物のアレを背負った普段通りのB”は、みえるひと
視点では有り得ないようです。
なお、Hを焦らせAにも驚きだと言われた事実。
それは、石碑に居たモノが気配や憑き物を模写したことでした。
2人の言では、他人の声や姿を真似るモノはワリといる。
そして人間の姿を模した程度のものは、本人の気配とか憑依してる
霊とかを写さないので、幻覚でも化けてても、みえるひとには
疑問の余地なく解るのだそうです。
なのに今回のモノは、本人の気配やオーラ(的なもの)どころか、
背後の霊の気配まで含めてコピーしようとしたわけです。
これは本当に、みるのも聞くのも2人とも初のケースだそうな。
「Bさんのアレも特殊レアものだし、さすがにコピりきれなかったん
だろーけど。それでも、あの精度だよ?ふつーの人なら、守護霊まで
完全にコピーできる可能性が高いよ」
「Hさんが騙されたくらいだもんね…何だろ?ソレ、弱いってのも
フリじゃかったんですか?」
Aの質問にHが身振り手振り交えて説明した限りでは、Aの見解も
「それは確かに。取るに足らないレベルですよね」
とのことだった。
そのしょぼい貧相な気配がBを模して何をしたかったのかも、謎です。
あの時Hは俺が狙われたのかと慌てたそうですが、冷静に返ってみると、
生身の人間1人をどうこうできる程の力はなかったようだと。
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