優しい話 短編10話【6】
1
小学校低学年頃の話。江の島の親戚宅へ遊びに行った時のこと。
さあ泳ごう!と思って海に入ろうとしたら転んでしまい、波に飲まれてしまったんです。
海水を飲んでしまい顔面砂だらけ。
「大丈夫?」と声をかけられて、叔母だと思って「うぇ~ん、怖かったよぉ」と抱きついたんです。
顔を上げたら、別人。超美人のおねえさんでした。
恥ずかしがっていたら、新品のミネラルウォーターで顔の砂を落としてきれいなタオルで顔を拭いてくれました。
「ありがとう」と言うと「いいのよ」と言って去っていきました。
あの時はありがとうございました。
2
そういえば、私は幼稚園の時に手術で頭に大きな傷跡が残ってしまい、
髪を伸ばしたりして隠していたが何かの拍子に見え隠れしてしまうので、
小学校上がってからは周囲からは「妖怪」「化け物」っていじめらてたんだ。
んである日、いつものように2,3人に囃し立てられてる所に
よそのクラスの男子(A)が走ってきて、片っ端から殴り飛ばして、
「この傷は、コイツが命懸けて戦った証拠だ!戦った事のないやつが、
戦って傷ついたやつを笑うな!」って乱闘。
騒ぎを聞きつけた先生に一同連行され、「Aがいきなり殴りかかってきた」みたいな
流れになってしまい、でもAは黙って何も弁解しない。
状況に混乱して、囃されて凹んでた私も、これはいけないと思って泣き喚きながら
そうじゃない、私を助けてくれたんだって必死に誤解を解いた。
真相が分かって冤罪も免れ、またその後の指導のお陰で私へのいじめはなくなった。
Aには事故で死んだ3つ上の兄がいたそうだ。
3
地元駅前の駐輪場で、入口をふさぐようにDQN仕様のデカいバイクが停まってて、奥にある自分の原付が出せない状態になっていた。
仕方ないからバイクを動かそうとするも、前輪ロックかかってるし重いしでどうにもならない。
しばらく試行錯誤してた所に、マッチョな黒人男性が通りかかった。
黒人男性は私と目が合うなりこちらに来て、バイクを軽々と退けてくれた。
お礼を言うと「イイノ、イイノ。日本、『困ッタ時はオタガイサマ』デショ?」と真っ白い歯を見せて笑い、
「ナサケハ人ノ為ナラーズ!日本イイ言葉多いネ!HAHAHA!」と言いながら爽やかに去って行った。
思わず噴いたが、かっこよかった。
4
高校2年の冬に交通事故というかひき逃げにあった。
そんな酷い事故でもなかったけど、道路に叩きつけられて道にへたり込んでグッタリしてたら、
893とかチンピラとか、そういう風貌のお兄さんが近くのコンビニから走ってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫か?」とか聞かれたけど、
正直その人が怖くて、あと興奮して痛いのとかもよくわからなかったから
「大丈夫です、大丈夫です」って言って立ち上がろうとした、けど打った所為か立ち上がれなかった。
雪が積もっててスカートはビチャビチャだし、寒いし痛いし怖いしで泣きそうになってたら
「大丈夫じゃないだろ?女の子は体冷やしたら駄目だからとりあえず移動しよう」
って言って、私を支えて自分の車の座席(ベンツ!)に座らせてくれて、カイロやらひざ掛けやら貸してくれた。
その後直ぐに警察と病院に連絡してくれて、その人がひいた車のナンバー覚えててくれたから犯人はすぐ捕まった。
事後処理で一時間近く拘束させた後、駆けつけてくれた両親と私が警察と話している間に何も言わずに姿を消してしまったあの人。
せめてお礼を言いたかったなぁ、と今でも思ってやみません。
5
マックでお昼を食べていたら、隣の席にギャルとギャル男のカップルが座った。
うるさいなあ、もう、と思いながら食べ終わって、荷物とトレイ持って立ったら、
ひそかに足が痺れていたらしく、思いっきりバランスを崩して、
ギャルカップルのテーブルに倒れこみそうになった。
私「す、すみません!」
ギャル男「おお、全然いいっすよ、大丈夫っすか」
ギャル「大丈夫ですか?貧血とか?」
私「すみません、大丈夫です」
ギャル男「俺それ(トレイ)片づけてきますよ」
ギャル「あ、あたしやる」
私「すみません、ありがとうございます、大丈夫ですから」
んで、私がトレイを片づけて店を出るまで、二人して立ったまま
心配そうにこっちを見てた。ありがとう、若人たち。
私は人を見かけで判断するのをやめたよ。
6
何年か前池袋歩いてた時に風俗のスカウトに話かけられた
田舎者なんでスルーできずに対応してたらどんどん押せ押せで誘ってくる
言葉を濁しているとイライラしてきたのか相手の口調も強くなってきて私涙目
そしたら20代半ばくらいの妙にガタイのいい爽やかな感じのスーツ男性がきて
男性「おお、風俗のスカウトって初めて見た」
スカウト「あ?なんなんすかあんた?」
男性「なんですかと言われても・・・変なおじさんとかロケット団とか言うべき?」
スカウト「なんでもいいけど仕事の邪魔すんなよな」
男性「ほう・・・」
そこで会話が止まった
男性の声すごく透きとおった高めの声で、声には威圧感とか全然ない
笑顔でじーっとスカウトの顔みて立ってるだけ
10秒くらいして
スカウト「すみませんでした・・・」
男性「謝ることはないさ。仕事なんだしね」
それでスカウト去っていった
なにをしたんだ?なんかすごいぞ と思ったけど、あれが覇気ってやつだろうか
お礼を言いたかったんだけど、半分泣いてたんでうまく声を出せずにいたら男性の携帯が鳴って
電話「委員長同窓会の会場どこだっけー」
男性「俺今駅に向かってるから駅でまっててー」
と、電話しながら歩いていっちゃった
それ以来私の書く学級物同人誌の委員長は、真面目なメガネ女からガタイのいい爽やか男に変わりました
7
最寄り駅まで自転車で行ってるんだけど駐輪場に居る自転車整理?の
おっさんは威張っていて評判が悪かった。
いつもふんぞりかえって自分で動かずにえらそうに口で指示するだけ。
(「おい、あんたそっちに詰めて停めろ」とか)
毎朝イライラして、「おい」とか呼ばれても無視したりしてたけど
あるとき朝一番から嫌な気分になるなんて勿体無いなと気がついた。
で、どうしたかというと毎朝明るく「おはようございます」と挨拶した。
あと、おっさんの物言いにむっとしても深く考えることはせずに、
「こういう言い方しかできない人なんだー」と聞き流した。
そうしてるとおっさんも思うところあったのか自転車整理などをし始めた。
挨拶だけじゃなくて「いつもありがとうございます」と言うようにした。
最近はおっさん、挨拶するしよく動くし、駐輪場のゴミ拾いもしてる。
誰でもいい人になれるんだなと思った。
8
休み前の昼休みにATMで、あわててお金をおろした。
あわてすぎて1万円を落としてATMを飛び出して、
自分では気がつかずにかけだしていたのだが、
「もしもーし!お金落としましたよーーー!」と、
私の後ろに並んでいた中年男性が、お金を握りしめて全速力で追いかけてきた。
男性はにこやかに私の手にお金を握らせて、「では!」と爽やかに手を振ってまた戻っていった。
ATMは長蛇の列だったが、彼は最後尾に並び直していた。
御礼にと千円を取り出して握らせようとしたが品のいい笑顔で辞して、
「当たり前のことをしただけです」と、問うても名も名乗らなかった。
「ではせめてこれだけでも」と、おやつ用に買った
コンビニで買っていたチロルチョコ10個組(100円)を渡すと、
「お心遣いありがとうございます」と、彼は深々と礼をして受け取ってくれた。
9
後に恩人の彼とは意外なところで出会った。
会社で取り扱うかもしれない新製品のセミナーに出かけたときに、
彼はサプリメントの開発チームのリーダーとして、研究データを発表していた。
流ちょうな日本語だったので気がつかなかったのだが、
彼は中国人医師で、日本で言うところの灯台みたいな
エリート中のエリートが行く大学で学び、彼の研究が認められて
商品化のために日本の大手企業に招聘されている”大先生の博士”だった。
本来私のような下っ端が本来直接声をかけられるような人でもないのだが、
パーティのときに思い切って近づいて行き、
お金を拾ってくれたときの御礼を改めてすると
「たいしたことをしたわけでもないのに、憶えてくださっていて感激です。
さすが日本は礼儀を重んじる国ですね」と、気さくに握手をしてくれた。
博士が言うほどに日本人は礼儀正しいのかと考えると、
褒めていただく自分が恥ずかしくなった。
その後仕事上接触する機会もできたが、博士は少しも偉ぶったり気取ったりすることなく、
いつも助けとなってくれている。
日本に流れ着いて悪さをしてる中国人と接する機会が多いと、
つい中国人自体がだめな民族のような気がしてくるけれど、
博士は「古き良き中国人の品位」を体現していた。
博士と会って以来、私は人に対して、
出自による偏見は持たないように努力している。
10
たいしたことではないかもしれんが。
朝の満員電車で、ちょっと離れたところにいるOLさんの
髪を後ろでとめるバレッタ(?っていうんだっけか)が落っこちそうになってた。
俺は離れてたし身動きもできないし、ただ見てたんだけど。
で、大きなターミナル駅に着いてどっと降りて行く中で、その髪どめが落っこちたわけよ。
OLは気付かず、その後降りようとしたリーマンが足元のそれを見て拾い上げ、
そのままドア横の網棚の上にひょいと載せた。
たぶん誰が落としたのか分からなくて、みんなに踏まれると思ったんだろうな。
次の瞬間、後続の制服の女子高生がぴょんと飛び上がって網棚の髪どめを取った。
そのままホームへ。
降りて見てみたら前方で女子高生がOLを追いかけて手渡していた。
良い連係プレーを見た。
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