『妻への懺悔』【長編 感動する話】

『妻への懺悔』【長編 感動する話】 感動

 

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妻への懺悔

 

 

10年前に嫁を亡くして、今週末に1人娘が式を挙げる。
いま娘から電話があって

「これでお父さんも荷物降ろせる?」

って笑いながら言われてたまらなくなった。
懺悔させてほしい。

 

俺は医者なんだ、嫁は元看護婦で結婚したとき専業になった。
嫁が頭痛や物忘れに悩んで、レントゲン撮りに行ってたのを聞いてはいたけど。
俺は整形外科で、脳神経は専門外だからって口出ししなかった。
嫁は元医療関係者だからって、無意味な安心をしてた。

娘の夏休みでタイに旅行行く前の夜。
いつも前日には完璧な準備をしてた嫁が全然出来てなくて、家族3人で大喧嘩した。
今思えば、嫁自身自分に違和感を感じてて苛立ってたんだと思う。
俺と嫁がヒートアップしてきて、まず娘が口出しできなくなって、テレビ見にリビングに行くって居なくなった。

嫁が「私がやるから、いつもそうだったでしょ」
って意地張ってるのに我慢できなくなって、俺も便所で座って頭冷やそうとした。

トイレ入ってどれぐらいだったか分からないが
嫁の「うぁああぁぁぁ・・・」っていう声がした。
ゴキブリか蜘蛛でも出たか?と思ってズボン上げてたら、

娘の「えっお母さん!お母さん!」って声がして、やっと緊急事態だと気づけた。

トイレでて走ったらベッドの横で嫁が倒れてて、娘がお母さんって叫びながら携帯で電話かけてた。

白目、口の端から泡、肌色、症候性てんかんだった。
俺はずっと、なんで俺自身も診察ついてかなかったんだろう。
なんであの時喧嘩したんだろう。
支度手伝わなかったんだろう。

おかしいって心配しなかったんだろう。
すぐトイレ出なかったんだろう。
1秒でも処置が早ければ・・・
俺が見殺しにしたって思ってきた。
実際、嫁の親戚には何故医者なのにと言われてきた。
情けないけど今日まで気づかなかった。

 

娘も同じだった。そこまで思ってるなんて。
お母さんの料理とか変だったのに残してた。
もっと家事手伝ってたら。
喧嘩なんかしなかったら。
1人いなくなったりせずに一緒にいたら。

声聞いて駆けつけるのがもっと早かったら。
救急車より先に応急処置してたら。
お母さんも式に呼べたかもしれないのに・・・

お父さんがあんなに責められなくて良かったのにって。
ちょっと震えた早口な笑い声で言われた。
そんなこと関係ないってすぐ言えたことだけが良かった。

 

どちらからともなく2人でわんわん泣いて、結婚式はずっと笑ってようねって約束させられた。
泣いても嬉し涙だからね、写真に残るんだからお祝いなのに悲しい顔は嫌だって。

2人しか血の繋がった身内はいないようなものなんだからって。
俺が嫁と結婚するとき、実家の反対押し切って絶縁したのも、生まれてきた娘には関係無いのにずっと気にしてたんだな。

嫁がいなくなったのが小6。
嫁入り修行とか道具とか家のレシピとか全然ない。
大学の入学式や成人式も娘が着物のレンタルから美容室まで全部1人で調べて決めてきた。
ボンボン育ちの俺が女の子の教養というものを教えられるわけもなく、娘がどれだけ苦労したのかわからない。

俺はそれこそ学費や暮らしの心配だけはさせなかっただけで、娘が勝手に大きくなって、大人になって、女になってた。
料理が出来ないことはない、嫁より少し薄味だけど。

それはそれで同じくらい旨い、まずいと思ったことはない。
相手方の奥さんも良い方そうでうちの事情も伝えたけど、
もう一度、娘として可愛がってやってほしいと頼み込むつもりだ。

 

娘自身は可愛らしい、お淑やかとは言い難い。
嫁の天然ボケを擦れた感じにした茶目っ気の強い性格だから、そこは旦那さんの器量とフォローを信じる。

式が終わったら、一度嫁と初めて同棲したアパートと、疎遠になっていた嫁の実家に行こうと思う。
娘は新婚旅行をタイにしたいって言おうとしてやめたらしい。
俺と向こう方のお父さんお母さんも連れて家族旅行で行きたいからだそうだ。

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