田舎の伝承|怖い話・不思議な話
竜子伝説
田沢湖のほとり神成村に辰子という名の娘が暮らしていた。辰子は類い希な美しい娘であったが、その美貌に自ら気付いた日を境に
いつの日か衰えていくであろうその若さと美しさを何とか保ちたいと願うようになる。辰子はその願いを胸に、村の背後の院内岳は大蔵観音に、
百夜の願掛けをした.必死の願いに観音が応え、山深い泉の在処を辰子に示した。そのお告げの通り泉の水を辰子は飲んだが、急に激しい喉の渇きを覚え、
しかもいくら水を飲んでも渇きは激しくなるばかりであった。狂奔する辰子の姿は、いつの間にか龍へと変化していった。
自分の身に起こった報いを悟った辰子は、田沢湖に身を沈め、そこの主として暮らすようになった。
辰子の母は、山に入ったまま帰らない辰子の身を案じ、やがて湖の畔で辰子と対面を果たした。
辰子は変わらぬ姿で母を迎えたが、その実体は既に人ではなかった。悲しむ母が、別れを告げる辰子を想って投げた松明が、水に入ると魚の姿をとった。
これが田沢湖のクニマスの始まりという。
北方の海沿いに、八郎潟という湖がある。ここは、やはり人間から龍へと姿を変えられた八郎という龍が、終の棲家と定めた湖であった。
しかし八郎は、いつしか山の田沢湖の主・辰子に惹かれ、辰子もその想いを受け容れた。
それ以来八郎は辰子と共に田沢湖に暮らすようになり、主のいなくなった八郎潟は年を追うごとに浅くなり、
主の増えた田沢湖は逆に冬も凍ることなくますます深くなったのだという。
なお、湖の北岸にある御座石神社には、辰子が竜になるきっかけとなった水を飲んだと言われる泉がある。
土用坊主
子供の頃に住んでた地方に伝わる土用坊主の話。
土用(どよう)は年四回あって、この土用の入りから節分(新暦二月の豆撒きが有名だがこれも年四回)までの約十八日間は、草むしりや庭木の植え替えその他、土いじりをすることは忌まれていた。
この風習は中国由来の陰陽五行説からきたようだが、この期間に禁を破って土いじりをすると、土用坊主という妖怪というか土精のようなものが出てきて災いを為す、と言い伝えられてた。
土用坊主の姿はあいまいで、土が固まって人型になったものという目撃談が多いようだ。
ただ別伝承の中には、土の人型がだんだんに崩れて、その人の一番嫌いなもの、見たくないものに姿を変えるという話もある。
出身地の旧村はほとんどの家が農家だったので、実際には土用の間すべて土いじりしないのは無理がある。
だからそこいらでは立春前の土用は慎まれていたけれど、それ以外の期間は土にさわっても問題なしとしていた。
春の期間もおそらく田畑関係のことは除かれていたのかもしれない。
このあたりは他の地域の伝えと少し違うかもしれないが、昔からの風習が廃れかかっていた頃のことなのだろう。
ある中程度の自作が、庭の木の下に金を入れた壷を埋めていた。
この百姓はじつに吝嗇(りんしょく)で、嫁をもらったものの婢のようにこき使って早くに死なせたし、実の両親に対しても、年寄って弱ってくるとろくに飯も与えず一部屋に閉じ込めきりにして、やはりぱたぱたと死なせていたという。
また、小作や使用人への当たりもたいそう非道いものだったらしい。
そうして溜め込んだ百姓にはそれほど必要のない金銀を、夜中にこっそり壷から取り出しては、暗い灯火の下で数えるのが唯一の生き甲斐だった。
まだ冬のさなかのある夜、この百姓が夢を見た。
どこか遠くのほうから土の中を掘り進んで百姓の家にやってくるものがある。
人ほどの大きさもあるミミズで、頭に人の顔がついているようだが、夢の中のせいか霧がかかったようにはっきりしない。
その化け物が生け垣の下から庭に入り込んできて壷のある場所にいき、壷を割って中の大切な金銀をむさぼるように食べている。
そしてすべて食べ終わると、ぐるんぐるんと土の中で輪をかいて踊るという夢だ。
この百姓にとってこれほど怖ろしいことはない。
たんなる夢とは片づけられない、じつに気がかりな内容だった。
そこで次の日の夜中に、土用にもかかわらず壷を掘り出してみることにした。
龕灯(がんどう)と鍬を持って庭に下り掘り返すと、壷は割れた様子もなくもとのままで、口にした封にも変わった様子はない。
やれうれしや、と壷を手に取ると、壷の下に幼い女の子の顔があった。
その顔は両目からたらたらと涙を流していて、一気に百姓の肩あたりにまでのびあがった。
夢で見たとおりの土まみれのミミズの体をしていた。
目の前で涙を流している顔を見て百姓はあっと思った。
それはずいぶん昔に人買いに渡した自分の娘の顔だった。
こういうのが土用坊主らしい……
ユビキリムシ
ユビキリムシって知ってるか?
俺は九州の人間なんだけどよ、いまくらいの季節から夏にかけて出る夜の虫なんだ。
まぁ所謂子供を怖がらせるための迷信なんだけど、それにまつわる事件の話。長いからざっくり話すわすまんな。
ユビキリムシってのは、日の長くなる季節に子供を早く家に帰らせるように大人たちが言い始めたもんなんだ。
それはいろんな動物の指を切って食べる虫で、暗くなると人の指も切って食べるってもの。
俺の住む村は小学校が一つしかなくて生徒も少ない。
そこでは給食制になってて、2人のおばちゃんが小さな食堂みたいなとこで毎日給食を作ってくれる。
そのうちの1人のおばちゃんは、いつもしつこい位ユビキリムシのことをうそぶいて子供達を怖がらせてた。
ある日の給食で、汁物に今まで食べたことのないようなお肉が入ってたんだけど、
それは例のおばちゃんが山で捕まえた獣の指だった(結局なんの動物か分からずじまい)。
そのおばちゃんは精神的な病気の初期段階だったらしい。
相方のおばちゃんも作業が分担されてるせいで気づかなかった。
少し経っていっしょに給食を食べてる先生が気づいて、そのおばちゃんは警察に捕まった。つまり少しの間その肉を食べてた。
村の小さな小さな事件としてしか注目されなかったけど、それ以来ユビキリムシの話をする大人は居なくなったな。
送り狼
関東地方から近畿地方にかけての地域と高知県には送り狼(おくりおおかみ)が伝わる。
送り犬同様、夜の山道や峠道を行く人の後をついてくるとして恐れられる妖怪であり、
転んだ人を食い殺すなどといわれるが、正しく対処すると逆に周囲からその人を守ってくれるともいう。
『本朝食鑑』によれば、送り狼に歯向かわずに命乞いをすれば、山中の獣の害から守ってくれるとある。
『和漢三才図会』の「狼」の項には、送り狼は夜道を行く人の頭上を何度も跳び越すもので、
やはり恐れずに歯向かわなければ害はないが、恐れて転倒した人間には喰らいつくとある。
また、火縄の匂いがすると逃げて行くので、山野を行く者は常に火縄を携行するともある。
他にも、声をかけたり、落ち着いて煙草をふかしたりすると襲われずに家まで送り届けてくれ、お礼に好物の食べ物や草履の片方などをあげると、満足して帰って行くともいう
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