『みさき』|洒落怖名作まとめ【長編】

『みさき』|洒落怖名作まとめ【怖い話・都市伝説 - 長編】 長編

誰であれ、ほんまの犯人が見つかるとええですね。美咲ちゃんの魂が安らかに眠れるように、私も祈うとります。

◯談話1

川上さんは、もう終りじゃ、殺したんはわしじゃ、殺したんはわしじゃ、言うて随分参っとったけえ、
もう気にしんさんな言うてとりあえず寝かしたんじゃけど、一晩たってみたらもうおらんようになっとって、
皆なたまげてもうて、どこに行ったんじゃろういうて皆なで探したら、裏の井戸に身を投げとったんじゃ。

最初に見つけたんは駐在さんじゃった思うけど、そりゃあもうがたがた震えて、わしゃあこがあな惨い死体は見たことがない言うて近づきもせんけえ、
吉田さんがそがいなことでどうするんじゃ言うて代わりに見に行きんさったんじゃけえど、これも飛んで帰ってきて、
川上さんはどうせもうだめじゃ、あがあなもん見んほうがええ言うて。

何を見たんじゃいうたら、真っ黒い人が底におって、それが川上さんの曲がった首をひねくり回して、
その首とわしゃあ目が合うたんじゃ、言うて。

そがあ言うても誰も信じられんし、何より引き上げんことにはやれんけえ、皆なで連れ立って川上さんを引き上げに行ったんよ。
ほしたらこれがたまげたことにほんまなんよ。

井戸の底に真っ黒い人影が座りこんどって、川上さんの首を捻り上げて、その目が恨めしそうにこっちを見おるんじゃけえ。
皆な飛び上がって逃げて、ありゃあまともじゃあねえで言うて、もういよいよ誰も近づかんのんじゃけえ。
わしもあがあな怖い思いしたんは生まれて初めてじゃ。

ほうじゃ言うても、そのまま放っとくわけにもいかんし、あれが表に出てきても困るけえ、
もう川上さんには悪いけど閉めたほうがええじゃろう言うて、皆なでコンクリの板転がして、井戸の中見んようにそおっと蓋をして、
ぎょうさん石のせてその日は寝たんじゃ。

ほんで怖いのはこっからなんよ。その日の晩に三次の春子さんのとこから電話がかかってきて、
出てみたら血相変えてあんたとこの村だいじょうぶなんね言うから、
いったいどうしたんか言うたら春子さんが、いま玄関に川上さんがきちゃってね、美恵子姉さんがえらい大事故をして重態じゃ言うんよ、って。
でも川上さんはもう亡くなったんで言うたら、おばちゃんえらい声で悲鳴上げて受話器放り出して、

しばらく後に聞いてみたら、玄関が血だらけじゃ言うんよ。
ほいでも別に誰も怪我しとらんし、誰の血か分からん言うて、いちおう警察にも来てもらったけど怖くて寝られん言うて、
怖くて寝られんのんはこっちよ。

村の家みんな叩き起こして、いまこれこれこういう電話があってこう言うちゃった言うて、話し合うた結果、
下野の三郎さんの家に嫁いできちゃった美代子さんのお兄さん、牛窓の徹さんいう人がお寺をやっとる言うて、
それでお祓いしてもろうちゃったらどうかいう話になって、さっそく電話したら、
出た瞬間に向うがこっちから何か言う前にどないしちゃったんですか言うて、聞いてみたら電話口から煙がもうもう出おる、いうて。

しかもこっちが話しとるすぐ横で、誰かがはあはあ息をしとる言うて。もう怖あて怖あて。

それで何とかならんですか言うたら、事情はともかく今すぐ行くけえ待っとってください言うてくれんさって、
皆なこれで安心じゃ思うとったら徹さんが、ちなみに誰が亡うなったんですか言うから川上さんです言うたら、
川上さんてあのまじないの人ですか、川上さんがとられたんですか言うてえれえ驚かれて、
なんでも川上さんはそうとう霊格の高え人で、それがとられる言うのはよっぽどじゃ言うて、
正直わしの手には余るけえ今夜はなんとか辛抱してください、明日えらい人を連れて行きますけえ、
それまでなんとか、いうて電話を切ろうとするけえ、これからわしらどないすればええんですか言うたら、
どないもなりません、この話も聞かれとりますけえ、 いま川上さんをとったそれがわしの真横におって、
今も耳に息がかかるんです、たぶんもうだめじゃ言うて、それで電話は切られてしもうた。

そがあなの聞いたら皆な震え上がってしもうて、もう一睡もできんのよ。
ほいで案の定、翌日になっても徹さんは来ん。
もうどないなったんかだいたい想像つくじゃろ。

電話切ったすぐ後に家を出て、田んぼに車ごと突っ込んで引っ繰り返って、そのまま重態いう話よ。
結局、徹さんをあんな目にあわしたんはわしらなんよ。
美代子さんなんか大泣きして三郎さんに食って掛かって、
こないなきち×い村に来たんが間違いじゃ言うて村を飛び出して、そっちもそれで行方知れずよ。
実家にも帰らんし村にもおらん。
車も見つからん。それっきりじゃ。

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