後味の悪い話【12】『ちょっと鬱になるクレヨンしんちゃんのシロの話』など 短編5話収録

後味の悪い話【12】『ちょっと鬱になるクレヨンしんちゃんのシロの話』など 短編5話収録

 

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後味の悪い話【12】 短編5話

 

軽い悪戯

実話です。

もう20年以上前の、僕が小学生だった頃の話です。

理科室の掃除当番が僕たちの学年に割り振られていて、掃除当番以外のやつらもちょくちょく理科室に入り込んで遊んでました。

僕もたまに友達と遊びに行って、いろいろ珍しいものが置いてあったのですごく楽しかったことを覚えてます。

ある日、遊んでいるうちに、理科の先生が控室として使っている準備室が施錠されていないことに気が付きました。

普段は生徒の立ち入りが禁止されていて、定年間近のすごくやさしいおじいちゃん先生が使っている教室でした。

立ち入ろうという気は全然なかったんだけど、なんとなくドアを開けて中を見てみると、14インチくらいの小さなテレビが置かれていて、なぜかイヤホンが刺さっているのが目に入りました。

そのテレビを見た瞬間、ふとあるいたずらをやってみようという気持ちが湧き起ったんです。

今ではやめておけばよかったと、死ぬほど後悔しています。
けど一度やってみようと思ったら止まらなかった。

この後とんでもないことになるなんて思いもいたらなかったんです。

友達がみんな理科室から出て行ったタイミングを見計らって、僕はこっそり準備室に忍び込みました。

そしてリモコンを使ってテレビの電源を入れると、一気に音量をマックスまで上げました。

イヤホンから漏れる音量がすさまじかった。

たしかドラマが放送されていたと思うんだけど、登場人物のおやじが急に怒鳴り声を上げて音割れしまくり、めちゃくちゃびびったのが印象に残っています。

そしてボリュームを最大に上げた後すぐに、僕はテレビの電源を切ってイヤホンを抜いたのです。

つまり何も知らずに電源を入れると、ものすごい爆音でテレビが付くことになる。

ほとんど衝動的にやってしまったことなので、なぜそんなことをしたのか自分でも理由がわかりません。

ただただ浅はかだったと思います。

理科の先生が一人でいるときか、それとも理科室に生徒がいるときかわからないけど、テレビから突然大音量が流れて、その場にいるみんなが大混乱に陥るさまを想像すると、おかしくてしょうがなかったんです。

いたずらを終えると僕はすぐに理科室を出ました。
たくさんの生徒が出入りしていたし、僕がやったとはバレないだろうと思った。

それになんとなく大問題にはならないだろうと軽く考えていました。

理科の先生は穏やかなおじいちゃんという感じの先生で、生徒を叱っているところなんて見たことがなかったから。

やさしくてみんな大好きな先生でした。

いたずらをした後、午後の授業を受けながらどうなるんだろうとどきどきしていました。

僕の仕掛けたいたずらで、いつもの平穏な学校生活にちょっとした騒動が湧き起る。

想像すると興奮が治まらなかったのです。

どきどきしながら午後の授業が終わり、下校の時間になったときでした。

理科の先生が死んだという話を聞いたのは。

午後の授業中に理科室から大きな音が聞こえてきたので、ほかの先生が驚いて駆けつけると、準備室で先生が倒れていたとのことでした。

ものすごい大きな音がテレビから流れていたそうです。

あわててテレビを消して、先生の容体を確かめたのだがすでに心臓が停止していたらしく、すぐに救急車を呼んで救命措置を施したものの、そのまま亡くなったとのことでした。

もともと先生は心臓が悪かったらしく、発作を起こして倒れたときに体がリモコンの上に乗ってしまったので、テレビの音量が際限なく上がってしまったのだろうと、皆がそう結論付けました。

突然の不幸な病死。そういうことになりました。誰も疑念を抱くことなく。

20年以上が経った今でも、あの時のことを思い出すと眠れなくなります。
誰にも言えなくて、苦しくて苦しくてたまらなかった。今ここで僕の罪を懺悔させてください。

ごめんなさいY先生。僕は先生を死なせるつもりなんて微塵もなかったんです。

ごめんなさい許してください。あんなことになるなんて思ってもいなかった。やるべきじゃなかった。

やり直したいやり直したい。なんであんなことをしたのか自分でも本当にわからないんです。

ちょっと鬱になるクレヨンしんちゃんのシロの話

 

シロと捨て犬

冒頭でシロは、人間の女に捨てられた病気の子犬を見つける。

自分のエサを毎日分け与えるものの、数日後……子犬は動かなくなっていた。

子犬を捨てた無責任女に吠え掛かるが、女は「何よこの犬、ウザいわね」とシロの気持ちを理解できるはずもない。

哀しみに打ちひしがれるシロのもとへ、しんのすけが迎えに来る……

 

シロとメスの野良犬

ある日シロは、凶暴な大型犬に襲われているメスの野良犬を助ける。

メス犬の方は、最初は「別に頼んでねーよ」とつっけんどんな態度で、どこかへ去ってしまう。

しかし、シロが毎日自分のエサを分けて運んでくれた事で、彼女は心を開いていく。

そんなある日、シロはしんのすけと散歩中に偶然そのメス犬と出会う。

メス犬の方は嬉しそうにシロに駆け寄るが、シロ達の目の前でスピード無視した自動車に跳ねられてしまう。

ドライバーはそのまま

「やっべ、犬轢いちゃった」

「逃げちゃえ逃げちゃえ」

と去ってしまう。

「おバカ、スピード出し過ぎだぞ、犬に謝れ!!」としんのすけが罵倒するも、空しく響くだけ。

間接的に自分が殺してしまった彼女を前に、悲しむシロ。

その夜、震えるシロの身体を抱き抱えるしんのすけ……

 

シロと、デカい野良猫

庭でお昼寝をしていたシロは、物干し竿からガリガリと妙な音がする事に気付く。

見ると、シロの数倍の体躯はあろうかという野良猫が、みさえの洗濯物を齧ってボロボロにしていたのだ。

すぐに吠えてみさえを呼ぶも、みさえが駆け付けた頃にはすでに野良猫は逃げていて、みさえはシロが洗濯物をボロボロにしたと誤解し、ひろしの靴下でお仕置きする。

その野良猫は、シロの昼食中にまたやってきた。

「腹減った、それよこせ」と言わんばかりにメンチを切る野良猫。

負けじとシロも威嚇をするが、猫が地面を踏みつけた地鳴りだけで、シロはあっさりと倒されてしまう。

餌をとられ、プライドはズタズタにされ、いじけるシロ。

やがて時間がすぎて、夜になる。

その夜は大雨で、しかも例年より冷え込んでいた。

シロはまた猫が現れるかもしれないと、犬小屋にバリケートをはってから外をにらんでいる。

案の定猫は現れた。

しかし、その姿は冷夏にうたれ凍えている。

「凍え死にそうなんだ、頼む、助けてくれ……」と、猫はシロに助けを求めて来たのだ。

シロは一瞬考えるが、すぐにバリケートをどかして犬小屋に野良猫を招き入れた。

自分の身体で猫をあっためるシロと、優しさに涙する猫。

────単行本だとここまで。以下、雑誌掲載版────

雨のあがった朝になると、しんのすけが犬小屋の様子を見に来る。

野良猫とシロが寝ているのを見ると、しんのすけは勘違いして

「わーーーヘンタイだあ」

「母ちゃん、シロのウチがでっかい猫に乗っ取られてる!!」

と叫ぶ。

すぐに、みさえとヒロシが駆けつけて、猫を箒でバシバシ叩いて追っぱらってしまう。

「気づいてあげられなくてごめんね、シロ。怖かったわよね……」とみさえ。

「シロー、無事で良かったー」

とシロを抱きしめるしんのすけ。

埃まみれになりながら、「裏切られた」と言わんばかりの顔でシロを睨み付ける野良猫。

「違うんだ」と言いたげに、クゥーンと小さく鳴くシロ。

しんのすけに抱きつかれて頬ズリされるシロと、小さく見える野良猫の背中……

 

人工内耳手術

今から三十年以上前の話。

俺には姉がいて、姉は耳が聞こえない聾唖者だった。

ある日、どういう伝手なのか知らんが、姉に手術の話が来た。

当時としては新しい技術で、脳に音を電気信号のように変換する機械を埋め込み、耳から入ってくる音が聞こえるようになる、というものだった。

料金もほとんどかからないということだし(多分治験的なもの?かよくわからんけど)両親は姉にすすめたのだが、姉は「頭にそんなもの埋め込むなんて怖い」と拒否した。

俺は当時まだ小学生だしアホだったので

『なんで?耳が聞こえるようになったらいいのに』と思っていたが、結局、姉が強硬に拒否して手術の話は流れた。

その後、しばらくして姉の友人が手術を受けることになった。
聾学校時代からの友人で、本人は

『耳が聞こえるようになったら、ある男性歌手のコンサートにいきたい』と喜んでいた。

それからさらにしばらくして、母からその友人が家に篭もるようになったと聞いた。

音が聞こえるようになってから、家から出られなくなったらしい。

健常者にとっては当たり前の日常音が、音のほとんど無い世界に生きてきた彼女にとっては恐ろしい世界だったらしい。

その後、どうなったのか詳細は知らないが、その女性はそれから数年後に電車に飛び込んで自殺をした。

それが手術が原因なのか、他の事が原因なのかはわからない。

でも、もし、手術をしなければ自殺しなかったのかも、というのが心のどこかで引っかかっている。

障害者が健常者になる、ということは手放しで喜べるものじゃない、ということを思い知らされた。

多分、人工内耳の手術だと思う。

先天的な聾者の場合、脳と神経ネットワークが完成する十歳くらいまでに手術を受けないと、色々と弊害が有るって。

この技術が開発された当初、大人になってから手術を受けた先天的な聾者は、

言葉等、音に意味の有る事が認識出来ず、全ての音が雑音として入って来る事に耐えきれず精神を病んだ末に、元の聾者に戻った。

の後研究が進んで、脳が完成する前に手術を受けないとダメだと分かったって。

姉に手術が来たのは二十歳前後だと思うので、その時点ではそういうことがまだ判ってなかったってことなんかな。

姉は偶々「頭に機械を埋め込むなんて怖い」と拒否したけど、一歩間違えたら姉が精神病んでたかもしれんね。

姉はその後、同じ聾唖の男性と結婚して、子供二人育てて、現在は孫もできて幸せな生活を送っているだけに、友人が不憫だ……

 

奇跡のひと

二十年間昏睡状態と思われていた男性が、実はずっと意識があったという誤診事件がありました。

事故により救急搬送された男性、脳に重篤な損傷をおい、そのまま植物状態に。

しかし、事故から二十年後、息子には意識があるんじゃないかと母親は考え、脳の専門家に診てもらうと、男性は全身まひで全く動けないものの、二十年間ずっと意識があった事が分かりました。

彼は最初の一カ月で諦め、ひたすら夢をみることだけを考えていたそうです。

二十年間ずっと放置プレー地獄です。

奇跡の物語として紹介されていますが、彼を診た脳専門医によると、こうした事例は世界中で起きている可能性があるとの事。

もしも、自分が事故に遭って……と考えるとちょっと怖い。

その事件はむしろ『その後』のほうが後味が悪い

その男性は『奇跡の人』として世界中で話題になった。

体に麻痺は残るものの自由に体を動かせる部分もあり、わずかながら動く右手の人差し指でキーボードを押して、自分の過去の二十三年間の苦痛を訴えた。

但し、麻痺が酷いため「スピーチセラピスト」の手を借りての応答となった。

そしてある日、突然、その検証を行っていた医師が、

「テストの結果男性の文章は男性自身のものではなく、スピーチセラピストが書いたものである可能性が高い」と言い出した。

検証するためのさらに厳密なテストを行いたいと男性に告げるたところ、男性は拒否した。

医師は、家族の同意を得て新たなスピーチセラピストを彼につけた。

すると、男性は意見を翻し、あっさりテストに同意した。

ところが、このテストの結果はすべて良い結果を出せなかった。

非常に単純なテストで、セラピストを部屋から出し、男性に『ある物』を見せる。

セラピストを部屋に戻し、彼が何をみたのか聞くように伝える。

その『ある物』が男性はわからなかったのだ。

現在もこれについては様々な推測がなされている。

果たして彼は本当に二十三年間意識があったのか?

それともスピーチセラピストによってつくられた嘘の事件なのか?

答えは未だに出ていない。

 

ちなみに問題化したのはファシリテーテッド・コミュニケーションというヤツで、

介護者が意思疎通の手伝いをすることは多々あるんだけど、その場合、その『意思』が果たして障害者本人のものなのか?

はたまた、その手伝いをしている人間のものなのか?という問題が常に付きまとっている。

日本では『奇跡の詩人』と呼ばれた日木流奈(ひきるな)という少年が、母親を介してすばらしい詩を発表していた。

それをNHKが取材をして放送したところ、少年が寝ているのに母親が少年の手をもちキーボードがわりの紙を指差すようにして、「うちの子がこんなことを言ってます」というシーン等におかしいだろという指摘がおきた、というのが有名。

 

警察官の無念

年末、某県のフェリー乗り場で船の時間待ちをしていた。

寒空の下、ベンチに座って海を眺めてたら、駐車場で妙な動きをしている軽四に気が付いた。

区画に入れたと思えばすぐに出たり、駐車場内をグルグル回ったり。

何してんだ?とボンヤリ見てると、俺の側まで来て停まり、中年の痩せた女が出てきた。

続けて、娘と思われる小学校低学年位の女の子と、もう少し年長の女の子が出てきて、中年女にジュースを買って貰っていた。

自販機を探してたのか、と思い、俺はそれきり興味を無くしていた。

しばらくして、パトカーが駐車場に入ってきた。
フェリーの建物に横付けして停め、中から年寄りの警察官と、若い二〇代前半位の警察官が降りてきた。

のんびりとした様子で、事件とかいう感じじゃなく、ゆっくりと建物に入っていった。

年末だったんで、歳末警戒とかいうやつだろう。

俺もそろそろ中に入ろうかなと思っていると、駐車場の方からタイヤが擦れるキキーという音が聞こえた。

とっさに振り返ってみると、さっきの軽四が急発進していた。

海に向かって……

スローモーションみたいに、軽四がゆっくりと岸壁から離れ、アっと思っている間に頭から海中に飛び込んだ。

俺は、しばらくの間呆然としていたが、誰かの「車が海に落ちたぞ!」という叫び声で我に返った。

辺りにいた数人と、岸壁まで駆け寄る。

軽四は、ケツを水面に出してプカプカ浮いていた。

俺はどうしよう?と思ったが、何も出来る訳がなく、波間にユラユラ揺れる白い軽四を見ているだけだった。

しばらくして、フェリーの建物から従業員と、先程の警察官二人が走ってきた。

しかし、彼等にしたところで何が出来る訳でもなく、岸壁まで来て呆然と立ち尽くした。

重苦しい緊張が場を支配する。
やがて意を決したように、若い警察官が上着と拳銃などを吊したベルトを年配の警察官に渡すと、一気に海に飛び込んだ。

海面に浮き上がった警察官は、徐々に沖に流されつつある軽四に向かって泳ぎだした。

「頑張れ!」

周囲から警察官に向かって声援が飛ぶ。

俺も我知らず叫んでいた。

その警察官はあまり泳ぎが得意ではないらしく、浮き沈みしながらも何とか軽四まで辿り着いた。

そして、車体に手をかけ、リアウィンドウの上によじ登る。

軽四は警察官が乗ってもまだプカプカ浮いていた。

 

岸壁から大きな歓声が上がる。
警察官は窓越しに何か叫び、バックドアを開けようと取っ手を動かしていたが、ドアは開かない。

車体が浮いているからには、中はまだ空気がある筈だが……

そう思っていると、いきなり警察官が窓に拳を叩き付けた。

何度も何度も。

「……はなし……やれ。…………まき…………に…………な」

途切れ途切れに、警察官が怒鳴っているのが聞こえた。

振り上げる警察官の拳が、遠目にも赤く出血しているのが見える。

それでも拳を叩きつけるが、窓はなかなか破れない。

その時、ようやくこの状況に気付いたのか、沖で操業していた漁船が猛スピードで近づいてきた。

漁船が軽四のすぐ近くまで来て、これで助かる!

皆がそう思った瞬間、慌てたためか、なんと漁船が軽四に衝突した。

海に投げ出される警察官。
しかもバランスが崩れたためか、軽四が急速に沈みだした。

岸壁から見る大勢の人の前で、あっという間に軽四は波間に消えてしまった。

……出てきた者はいなかった。

しばらくして、漁船に救助された警察官が岸に連れられてきた。

歩くこともできないほど憔悴した若い警察官に、皆が拍手した。

俺も手が痛いくらい拍手した。

助けられなかったけど、十分頑張ったと。

すると、警察官は地面に突っ伏して大声で泣き出した。

「母親が、どうしても子供を離さんかった。子供が泣きながら手を伸ばしてたのに……」
鳴咽と一緒に洩れた言葉にゾッとした。

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