ちょっと切ない話『頑張りませう』【短編】全5話 Vol. 1|切ない話・泣ける話まとめ

ちょっと切ない話『頑張りませう』【短編】全5話 Vol. |切ない話・泣ける話まとめ

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切ない話 Vol.1

 

サッカーよ!

 

おれの友達はサッカーで身を削り削って削ったぞ
一瞬の興奮を手に入れる為にだ!愛するチームを応援する為だ!
サッカーを見る為に働いた!働きすぎて倒れて入院だ!右半身不随だ!
サッカーよ!お前が私の大切な友達の自由を奪った!
憎い!憎い!サッカーが憎い!
こんなにも憎いはずのサッカーなのに
友達は私にこう言うんだ
「再びサッカー観戦をしたい、だからリハビリ頑張らなければ!」

サッカーよ!俺はお前の為に生きる男を知っている
サッカーよ。選手の人生を、サポーターの人生を背負っていけ!
生きる意味を授けてくれ!。・゚・(ノД`)・゚・。
どこまでもどこまでも

 

 

これぐらいはいただいても良いはずだ

 

そのときの部長はすっごく冷たくて、いつもインテリ独特のオーラを張り巡らせてる人だった。
飲みに誘っても来ることは無いし、忘年会なんかでも一人で淡々と飲むようなタイプで、
良く怒られていたこともあって俺はすごく苦手だった。

ある日のこと、部長の解雇を伝える社内メールが全員に届いた。
あのむかつく部長が居なくなる!!心の中でガッツポーズしたのは俺だけじゃなかったはずだ。

それから1週間後、部長の最後の出勤日。
退社のセレモニーが終わるとみんなそそくさと帰って行ったが
部長と俺だけは居残って仕事を片付けていた。
送別会の開催も自ら断った部長を苦々しく思っていると、珍しく専務から呼び出された。
しぶしぶ専務室に行くと、課長と専務が待ち構えていた。
俺はそこで始めて課長から「部長解雇の真相」を聞いた。
原因は俺だった。俺のミスの責任を全て部長がかぶってくれたらしい。
話を聞いてたまらなくなった俺は急いで部署に戻ったが、部長の姿はすでに無かった。
ふと自分の机の上を見ると、封の開いた買い置きのタバコ。すでに一本無くなってる。
横に添えられたメモにはこう書いてあった。

「これぐらいはいただいても良いはずだ」

俺にとっては無くなったその一本が、思い出の一本です。

 

 

本格江戸前寿司

 

うちの親父はかなりボケが進み 脳味噌プリン状態
息子である俺の顔もわからんようだが台所に立たせると
スイッチが入ったかのように豹変し、マシーンのように一切無駄な動きをせずに
酢飯の仕込みから魚の捌きまでを黙々とこなし
現役時代となんら変わることのない熟練の手つきで寿司を握る
その時、親父には家族は客にしか見えてないようで普段のフガフガした口調とはガラリと変わり
威勢のいい声で「へいらっしゃい なに握りやしょうか?」
おかげで我が家は月に一度、達人の本格江戸前寿司を味わえるのであった

初めはボケの進行を抑えるためのリハビリの一環のつもりだったが
さすがは13歳から寿司を握り続ける父
ボケてもなお衰えぬその手さばきには感嘆を漏らすしかなかった
「ホントにあんたは寿司バカなんだねぇ」とは、いつも涙をぬぐいながら寿司を食べる俺の母の談である

 

 

記憶がどんどん蘇ってきた

 

先日、母の日に実家に帰ったとき、ジョイントを持って行った。
兄に子供が生まれた関係で家は禁煙になっていて、俺の部屋も
物置き状態。母親の隣で寝る事になったんだけど、何か気恥ずかしくて、
母親が寝静まるまで、散歩したり、旧友と会ったりして過ごした。
夜の2時にベランダで一服して、布団の中に入った瞬間
母親の匂いがして、忘れてた記憶がどんどん蘇ってきた。
引っ越す前の家で、俺もまだ小さくて、自分の部屋が貰えなかった頃。
隣に寝ているお母さん、反対側にタンス、タンスにはやたらと
シールが貼ってあって、その上に象のぬいぐるみ、枕元は・・・
20年以上前の記憶が、母親の匂いに乗ってどんどん出てきて
布団の中でばれない様に泣いた。
お母さんいつもありがとう。長生きしてください。

 

 

頑張りませう

 

実家から遠く離れた地域に転勤になり、なかなか馴染めなくて辛い思いをしていた時。
83歳のジィちゃんがダンボールの小包を送って来た。

田舎の古い商店でしか売ってないような昔のお菓子が一杯詰まってた。
こんな昔のお菓子、今は売ってる店ないっつーの。
こんな一杯食えねぇーっての。
孫の為にとどんな表情でこれを買って送ったのか想像させるなっつーの。

「頑張りませう。」
こんな手紙を入れるなっつーの!!

あの時は参った・・・。

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