『黒い御守り』|【名作長編 祟られ屋シリーズ】

『黒い御守り』|【名作長編 祟られ屋シリーズ】洒落怖・怖い話・都市伝説 祟られ屋シリーズ

オム氏は妻の肩を抱きながら、怒りに充ちた視線を少年の父親に向けた。
少年の母親は、何か汚い物を見るような冷たい視線を夫に向けていた。
少年は、子供のものとは思えない冷たい視線を送りながら言った。
「お父さんはね、僕を殺した頃の『おかあさん』と同じくらいのお姉さんたちに、
お金を渡していやらしい事をしているんだ。今でもね」
父親に比べるとかなり若く見える、少年の母親の表情は凍り付いた。
思い当たる事があるのだろう。
あくまでも勘だが、彼女自身、この男の被害者だったのかもしれない。
少年は冷たい声で言った。
「『おかあさん』はね、もう長くは生きられない。
切り刻まれて死ぬんだ、僕がされたみたいにね」
オム氏の娘が少年に土下座して絶叫した。
「お願い、お母さんを助けてあげて」
「無理だよ」
「お前の『力』なんだろ?」オム氏が歪んだ表情で言った。
「『僕たちの力』だ。もう、手遅れだよ」
・・・・・・例の『黒い御守り』か・・・袋に書かれていた昭和XX年という年号は恐らく、オム夫人が堕胎した年なのだろう。

俺は、少年に声を掛けた。
「『お前達』は、生まれる前の記憶を持っているのか?」
「まあね」
「お前も、他の子供達と『繋がっている』のか?」
「さあ、どうだろうね?でも、オジサンには判ってるんでしょ?
オジサン、僕を『怖いおばさん』の所に連れて行こうと思っているでしょ?
でもね、無理だよ。
オジサン達、古い大人たちには、僕らのことは判らない。
僕らには全て見えているけどね。
見えているから、見えない振りも、わからない振りも出来るんだ」
キムさんが「何のことだ?お前達は何を言っている?」と語気を荒げた。
次の瞬間だった。
キムさんの声を合図にしたかのように、少年は突然、火が付いたように泣き出した。
周りの大人は、成す術も無く、おろおろとするだけだった。
小一時間も泣き続け、やがて少年は泣き止んだ。
泣き止んだ少年は、憑物が落ちたように普通の子供に戻っていた。
そして、俺達に話したこと、猫を刻んだ事も全て無かった事のように、綺麗さっぱりと忘れ去っていた。
後日、少年の言っていた『怖いおばさん』・・・女霊能者・天見 琉華の許に少年を連れて行ったが、
予想通り、彼女の霊視を以ってしても何も得る事は出来なかった。

 

後編:『チルドレン』|【名作長編 祟られ屋シリーズ】

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