タクシー運転手の彼は、色々と不思議な体験をしている。
客に呼ばれ、山奥にある空港に出向いた時のこと。
「ちょっと道が複雑なんで、指示の通りに走ってください」
乗り込んできた客がそう言い、彼は素直に受託した。
頃が深夜に近かったので、その方が無難だと思ったのだという。
初めのうちは「そこを右に曲がってください」「もう少し行くと左に降ります」と客も丁寧な指示を出していたが、段々と内容がぶっきら棒になり始めた。
ぼそぼそと「右」「まっすぐ」みたいに、必要最小限のことしか言わなくなる。
疲れているのかな?そう思ったがあえて聞くようなことはしなかった。
やがてタクシーは人里から随分離れた林道へ乗り入れた。
そのまま、どんどんと暗い山奥へ進んでいく。
さすがに豪気な彼も不安になり、本当にこれで良いのか??と後部座席に呼びかけた。
すると、「あれぇ!ここ一体どこですか?」と、いきなり素っ頓狂な声が後ろから上がる。
驚いて車を停め後ろを見ると、そこにはポカンとした客の顔があった。
「どこってお客さんの言う通りに走ってきたじゃないですか!」と、彼がそう指摘すると、「でも私、今運転手さんに起こされるまで眠りこけてたんです、申し訳ない」と。
寝惚けて恐縮しまくる客を呆れて見ていたが、やがて背筋に悪寒が走った。
ナビゲートしていたのは、一体誰だ?
思わず行く手の山道を見透かしたが、闇の中には何も確認できない。
即その場でユーターンし、山を出ることにした。
幸いにも、それ以降は何も変わったことは起こらなかった。
あのまま走っていたら、果たしてどこに連れて行かれていたのか?
時々、それが気になるのだそうだ。
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