『女の行動の真意』|洒落怖名作まとめ【天狗男シリーズ】

『女の行動の真意』|洒落怖名作まとめ【天狗男シリーズ】 天狗シリーズ
スポンサーリンク

女の行動の真意

745 :天狗男 ◆JP.Ba21tS.:2010/03/16(火) 00:10:13 ID:pA5vTJvk0

 

あれは俺が事故で入院した頃だからもう10年も前の話だ。
今日はその時入院した病院での恐怖体験を書いてみる。

俺は病院が嫌いだ。今思い出しても鳥肌が立つ、忌々しい体験だ。

高校を卒業した俺は地元の専門学校に入った。しかし入学式から1ヵ月くらいした頃、俺は車に撥ねられ右足を骨折。全治3ヵ月で事故現場近くの病院に入院することになった。そこはいわゆる「出る」 ことで地元では有名な病院だった。

「なんでよりにもよってこの病院なんだよ・・・」

俺は全力で落ち込んだ。俺を撥ねた会社員さんが毎日仕事帰りにお見舞いに寄ってくれたが、元気のない俺を見てさぞかし心を痛めたことだろう。いや違うんだ、骨折で落ちこんだんじゃあない。
この病院に入院しちまったことが悲しいんだ。

病院は後は山、前は川という立地だ。裏山には古びた墓地があり、周りは鬱蒼とした森に囲まれていた。病院に入るには細い石橋を渡ってこなければならず、その橋の手前には、センターラインの消えかかった暗いトンネルがある。そのトンネルも出ると噂されている。

事故直後、救急車で運ばれた俺は入口から入る時、たくさんの窓から青白いの顔が覗いているのが見えた。もちろん生きてない人の顔だ。台車に寝かされカラカラと手術室に向かう途中、ぼんやり見ている天井から、数本の足がブラブラとぶら下がっている。

手術室の隅には過去にここで亡くなった人が壁に向かって立ってブツブツと何かをつぶやいている。医者が骨折した足を仮処置してくれたが痛さで「ぐおおおおお!」と叫ぶと、そいつらはしばらく見えなくなる。しかし少しするとまた現れる。

生きてここから出られるかな・・・

事故のショックからか普段よりも鮮明に見えている。なるべく気にしないようにしているが、明らかにこの病院があっち寄りに存在していることをビンビン感じていた。そんな俺を見かねてか、昼間は学校の友達がひっきりなしに見舞いに来てくれた。

そんな中、数日も経った頃の深夜、寝ていると救急車が入って来た。誰か事故ったか?俺は大して気にもせずに再び眠った。翌日、同じ病室の山田さんに昨日の救急車について聞いてみた。俺の病室は6人部屋で入院してるのは3人だ。しかし山田さんと、もう一人の加藤さんは昨夜の救急車など知らないと言う。

二人とも老人だ。耳が遠くて気づかなかったのか・・・?

俺はたいして気にもしなかった。が、その翌日の深夜にも救急車が入ってきた。俺のベッドは窓際だ。外を見ると赤いサイレンのライトが回転している。俺は「またか・・・」と思ったがそのまま寝てしまった。

翌朝、寝ていると定時の採血で目が覚めた。看護婦さんに昨夜の救急車について聞いてみると、昨夜は急患はなかったと言う。俺は何言ってんだ?一昨日も来ただろうと聞くと逆に変な顔をされてしまった。

おかしいな、幻覚だったのかな・・・

そういえばここ数日、あっち側の人達を見ていない事に気がついた。試しに夜、院内を車椅子で散策してみる。おかしい・・・俺が担ぎ込まれた時は、これでもかという位見えたのに・・・外にも出てみたが何も見えない。

俺は事故の後遺症で霊感がなくなったのか?と思ったが、それならそれで別にいいか、と妙な安心感に襲われ病室に戻った。病室に戻ると同室の2人はすでに寝ているのかカーテンが閉まっていた。俺は自分のベッドに戻るとそのままうとうとと寝てしまった。

どれくらい時間が過ぎただろう。目の前に何か赤いものが動いている事に気がつき目が覚めた。救急車のライトだった。

何だ今夜も急患かよ・・・

俺は起き上がると窓越しにその救急車を見た。ちょうど担架から台車に患者が移されるところだった。しかしおかしい、妙に静かだ。
病室は2階だから台車の音や救急隊員がしゃべる声など、充分聞こえる距離だ。そしてふと台車に乗せられた患者を見て愕然とした。

ぇ・・・なんで・・・俺が・・・

台車に乗せられていた急患は俺だった。俺が俺を見ている。頭が混乱していた。急激に鼓動が早くなり俺は震えながらその「俺」を見ていた。おかしなことに救急隊員や出迎えている看護婦・医者の顔がよく見えない。しかもその「俺」 は台車に乗せられると、ベルトのようなものを締められ動けなくされている。

ガラガラガラ・・・!!

そして更におかしなことに台車は院内に入らず、逆の橋の方向に押されて行くではないか。台車の俺が必死にもがいてこっちを見ているのに気がついた。何かを叫んでいる。が、まったく聞こえない。
これはヤバイ・・・俺は咄嗟に松葉杖で階下を目指した。

院内は消灯され、ひっそりと静まり返っていた。俺はエレベータに乗るとで1Fを押した。が、どうした訳か下降を始めたエレベータはそのまま下降を続けている。どう考えてもすでに10F分くらいは下降をしている感じだ・・・病院の地下はB1のみであるにも関わらずだ。

ど、どこまで降りるんだ・・・

と、ガコンという衝撃とともに止まった。ボタンを見るとB1が点灯していた。おかしい、確かに1Fを押したのに・・・俺はわけがわからずにいたが、とりあえず戻ろうと1Fを押した。しかしいくら押しても反応がない。ボタンはB1点灯のままだ。と、開いたドアの奥に何かが見えた。

カツーン・・・カツーン・・・カラカラカラ・・・

誰かがこちらに向かってゆっくりと歩いてきている・・・しかも台車?
を押しながらのようだ・・・俺は恐怖で尻餅を着いてしまうとガタガタと震え出した。そして目線を壁際に向けてハッとした。そこには「霊安室→」と書かれているではないか。俺はヤバイと思い、必死で1Fのボタンを連打した。

カツーン・・・カツーン・・・カラカラカラ・・・

B1の廊下は消灯されていて暗闇だ。しかも得体の知れない何かが俺に向かって迫って来ている・・・さっきの救急車といいコレといい、尋常でない状況は明らかだ。恐怖で泣きながら1Fボタンを連打しているとやっと点灯した。すかさず閉ボタンを押すとドアが閉まり始めた。

ガラガラガラ・・・!!

と、さっきまでゆっくり向かってきていた何かが突然すごい勢いでこちらに迫ってくるではないか。俺は恐ろしさで、ヒイィィィ!と目を瞑るとバコンという音とともにドアが閉まった。

いや、正確には閉まっていなかった・・・

エレベータのドアは10cmほど開いていた。何かが・・・挟まっている・・・
俺は恐る恐る目を足元へ向けると、白い手がドアの向こうから俺の脚をしっかりと握っているではないか。

ヒィィぁィcblggw@dふじこ!!

俺は恐怖で真っ青になりながら夢中でその白い手を蹴りまくっていた。
しかしその手はビクともしない・・・と、ドアが開いてしまった・・・そしてへたり込んでいる俺の上にゆっくりと何かが覆いかぶさった。真っ白な顔の長い黒髪の女だった・・・

・・・俺はそのまま気を失った・・・

ガチャガチャ・・・シュッシュッ

・・・ん・・・何の音だ・・・?

目が覚めた。暗い夜空が見える。むせ返るような湿気を含んだ森の匂いが鼻腔に飛び込んできた。体が動かない・・・俺はどこにいるんだ・・・?
目線を足元に向けると、何かが俺の体を縛っている。よく見えない・・・

どうやら台車の上に寝かされているようだ。

ガラガラガラ・・・

台車が動き始めた。その衝撃で目の前に建物が飛び込んできた。病院だ。
そして俺は自分の病室から誰かがこっちを見ているのがハッキリと見えた。

あの女だ・・・

それはあの女だった・・・さっきB1で俺の脚をつかんだ女だ・・・俺はこのままでは死ぬ、と感じて叫んだ。声にならない声で助けてくれと必死に叫び、もがいた。台車は病院から遠ざかり橋の上をガラガラと走っている。
おかしなことに誰が押しているのかわからない。よく見えない。

ガラガラガラ!!

俺は恐怖で引きつりながら足掻いたが縛られていて手足が動かない。と、視界にコンクリートの天井が映った。例のトンネルだ・・・そして俺はこのトンネルの先が行き止まりで、断崖になっていることを思い出してした。
ヤバイ・・・このままでは落とされる・・・しかし動けない・・・そしてふと目線を川の対岸の病院に向けた。

なんだ・・・あれは・・・

川からおびただしい数の人が病院に向かって這い上がって行くではないか。
それを見た瞬間、俺は思い出した。かつてあの病院が建っていた場所には飛行機工場があり、戦時中に強制連行で連れてこられた北朝鮮の人達がB29の爆撃を受けてたくさん亡くなったことを・・・

ガラガラガラ!!

俺は恐怖と絶望で頭が真っ白になった。断崖はすぐそこまで迫っている。
もうダメだと思い全身の力が抜けた。その瞬間、まぶしい光に俺は照らされ目を閉じた。

キキィィィ!!

バタン! バタン!

おい、誰かいるぞ!?
大丈夫か!しっかりしろ!

聞き覚えのある声だった。俺は安心するとそのまま意識を失った。

翌朝、俺は病室で目が覚めた。しかしそこはあそこの病院ではなかった。

傍らにはお袋がいた。俺は事の経緯を聞いた。それによると昨夜、あの病院は火事になったらしい。まさに俺が何者かに病院から台車で運ばれた直後、地下のボイラー室から出火しあっという間に病院全体が炎に包まれたのだという。逃げ遅れて亡くなった方もいると言う。

俺はそれを聞いて愕然とした。

俺をこの病院まで運んでくれたのは同じ学校の友達だった。あのトンネルで肝試しをやろうという事になり、仲間達とちょうど来ていたのだという。しかし彼らが来た時、あそこにいたのは台車に乗った俺だけだったとのことだ。俺を助けている最中、ボンッという音とともに目の前の病院が火事になって大騒ぎだったということを聞いた。

俺は退院後、友達とあの病院まで行き橋の手前に花を供えた。病院は見るも無残な状態になっていた。あのとき見た女。彼女は俺を引き込もうとしたのか、それとも逆に俺を助けようとしたのか、俺にはわからない。
しかし結果的に俺は助かった。

俺達はしばらく黙祷すると病院を後にした。

その後、俺は病院が益々嫌いになった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました