親切な気持ちはいろんな人の間で回ってる
中学生の頃、兄が荒れていて、家にいると辛いことが多かった。
母が気晴らしに旅行に連れて行ってくれたけど、平和な外にいると家に帰るのが辛くて、少しでも長く現実から逃避したく、新幹線で帰る母と別行動で鈍行で帰ると言い張った。
京都~東京間を鈍行で帰ろうとしたんだけど、東京在住の中学生には地方の交通事情が分からず、気がつけば終電で、長野の山の中の小さい駅に一人取り残されていた(無人駅だった)
「行けるところまで行って、終電から始発までの数時間はコンビニかファミレスにいよう」
なんて軽く考えていたので、9時には電車がなくなるとか、駅前にコンビニどころか交番もないとか、予想しておらず途方にくれた。
駅前には民家にしか見えない食堂みたいなところがあって、飲み会かなにかしているらしい他にはお店も何もなかった。
駅にしばらくいたけど、怖いしお腹はすくしで、びびりつつ食堂に入った。
食堂では地元の少年野球チームの保護者の大人たちが飲み会をしていて、正直かなり恥ずかしく、半泣きになりながらうどんを頼んだ。おばさんが不審がって事情を聞いてきたので、一人旅の最中で、電車の時間をきちんと調べていずに終電になってしまったと話した。
そしたら、少年野球チームの人たちが心配してくれて、皆を送るためにお酒を飲まないでいたという男の人が電車のある駅まで送ってくれるという話になった。
もちろんびっくりして断ったんだけど、誰かの家に泊まるか(皆私くらいの子がいるらしかった)
送っていってもらうかどっちかにしなさいと言われて、同い年の子に奇異の目で見られるのも
つらかったので送ってもらうことにした。今考えると、相手がいい人たちでよかったと思うしかない。
送ってもらう途中の車内で、運転席のおじさんが、自分にも中学生の娘がいるって話をした。
現実逃避であって家出ではなかったし、一人旅とは言ったんだけど、まあ普通は家出と思うだろうし、
親とうまくいかなくて家出してきたのかと思われたらしかった。
「うちにも中学生の娘がいて、最近は難しい年だからうまくいかないこともあるけど、 うちの娘がどこかで困っていたらと思うと親だから心配だし、自分が駆けつけられないなら 近くにいる人に助けてもらってほしいと思う。 おたくの親御さんも同じように思っているだろうから、これは人の親としての義務であって、 だから感謝はしなくていいから無事に帰りなさい」
みたいなことをちょっとずつ一生懸命話してくれて、食堂のおばさんが作ってくれたおにぎりをもらって駅で別れた。私が駅に入っていくまで車は駅前に停まってた。
送ってもらった駅からの終電と地元の駅からの終電が重なる駅まで父に迎えに来てもらって、うちは車がないので、そのままそこの駅前のビジネスホテルで久しぶりに父と寝た。
そのあとお礼の手紙は送ったけど、行く勇気がなくて行けずにいる。
でも、このことがあって、家の中は相変わらずだったけど、自分も誰かに親切にできる人になりたいと思った。席を譲るとか荷物を持つとか具合が悪そうな人に声をかけるとか。
で、この間、新幹線に乗った。私は東京からだから数本見送れば混む時期にも座れる。
座っていたら途中で混み始めて、赤ちゃんを連れた女の人が困っていたので席を替わった。
そのあとその人の旦那さんが指定席に席が取れたと言いにきて、二人は移り、私は席に戻った。
しばらくしてわりと空いてきた頃、親子の二人連れが乗ってきたけど、二人並んで座れる席がないみたいでばらばらに座ろうとしてた。私は二人がけに一人だったので、声をかけて他の席に移って、そこで寝てしまった。
しばらくしたら目が覚めたんだけど、隣にいたおじさんが心配そうに、
「降りる駅はどこですか?今○○を出たところです」
と訊いてきた。
降りる駅は終点近くだったし、着く時間に合わせてアラームをセットしてあったから寝こけていたんだけど、おじさんはそれを知らないので心配してくれてたらしい。
「さっき赤ん坊を連れた女性が来たとき、自分は勇気がなくて声をかけられなかった。 あなたはとても疲れているみたいなのに(前日徹夜だったから、疲れた寝顔だった模様…) はじめは席を譲って立っていたし、今度も親子に席を譲って狭い席に来た。 親子はとても喜んでいて、特に子供は窓の外が見れて嬉しそうだった。 いい人がいると思って、自分も何かしたくなった。自分は終点まで行くので、着いたら起こします」
と言ってくれた。
なんというか、親切な気持ちっていろんな人の間で回ってるんだなと思って、私もその輪の一人だと
思って、駅で降りて泣いてしまった。褒められて嬉しいとかじゃなくて、なんかありがたかった。
そのうちあの食堂に行きたい。
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