『おばちゃんとの約束』など短編5話【36】 – 感動する話・泣ける話まとめ

『おばちゃんとの約束』など短編5話【36】 - 感動する話・泣ける話まとめ 感動

 

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感動する話・泣ける話まとめ 短編5話【36】

 

 

わたしも愛してる

嫁は妊娠中。もうすぐ八か月。
西日の部屋で、ソファに座ってお腹を撫でてる嫁を見てたら、なんとなく言いたくなって
後ろから抱き締めて「愛してる」って言った。
ただ、俺の嫁、ろう者なのね。なんも聞こえないの。わかんないの。

わかんないはずなの。
でも、嫁、振り返って

手話で
《わたしも》
って言ってくれた。

俺、明日もがんばれるわ。

 

 

おばちゃんとの約束

子供の頃よく通ってて、仲良かったおもちゃ屋のおばちゃん(当時)
自分にも子供が出来たら、そこで思いで話の一つもしながら子供に何か
買おうと思ってて、おばちゃんも「将来、○○君(俺)に子供が出来たら、
おばちゃんが何かプレゼントしてあげる」と冗談交じりに言ってた。
そんな俺に子供が出来て数年がたった。やっとおもちゃにも興味を持ち
ヒーローの変身セットが欲しいと言う。しばらく振りに実家に帰り、そのおもちゃ屋
に行った。気分は子供のまま。「おばちゃ~ん!こんにちは!」
出てきたのは40歳前の綺麗な奥さんだった。
「あれ、おばちゃんは?分厚いメガネ掛けてて、昔レジに立ってたと思うんですけど?」
「母です。去年の暮れ亡くなりました。不慮の事故で・・・。」
歳だとはいえ、まだ亡くなる様な歳だと思ってなかったからショックだった。取り敢えずお線香を
あげさせて貰った。すると娘さんが奥からショベルカーのおもちゃを出してきて、
聞けば亡くなる一ヶ月前にふと思い出したかの様に、近所に住む俺の親戚から子供がいる事を
聞いたのを娘さんにポツリと話し出し、約束は守らなきゃとラッピングまでしてくれていたらしい。

泣いた。息子の目の前で大粒の涙を流して泣いた。
あんなガキの頃の口約束を覚えていてくれたなんて。
亡くなった事のショックとおばちゃんのやさしさが本当に心に染みた。
おばちゃん、ありがとう。息子に大事に使うように言うよ!
いつか、お礼いいに行くから。
長文、スマン。

 

 

命ある限りなんとかなる

オレも阪神被災者で三ヶ月以上避難所暮らしだったけども、
その手の犯罪の話は全く聞かなかったな

一方でペットボトルの水が盗まれただの、毛布がとられただの、そういうのはよくあった

思い出す
うちもふくめて近所は全壊して、何もかもが埋まってしまった。この世の終わりのような光景だった
普段煙たがられてた二つ下の珍走が、仲間と集団で家財道具の掘り出しを手伝ってくれた
バイト代はたいてやっと買ったばかりのギターがほぼ無傷で出てきたときはなぜだか涙が止まらなかった
まっ金金な頭した珍走が泣きながら励ましてくれた
金目のものが出てきたら盗んでいかれるんじゃないかと思っていた自分が恥ずかしかった
嫌なヤツらもいた。今思えば下らない理由で揉め事ばかりが続く日もあった

友人も財産も、夢見ていた将来も、多くのものを失った。世界は崩れた
しかしなんだかんだでそこで今の嫁さんと出会い、今はごく普通に暮らしている
自分を包む世界が崩壊しても、世界が終わらない限り、命ある限りなんとかなるモンなんだな、と今は思う

 

欽ちゃんのギャラ

欽ちゃんはかつて、視聴率100%男と呼ばれていて、色々な番組に引っ張りだこだった。
そんなとき、24時間テレビの企画が持ち上がり、記念すべき第一回のMCを誰にしようか考えたとき、
まっさきに浮かんだのが欽ちゃんで、さっそく企画について説明し、オファーを出した。

しかし欽チャンは、提示された金額を見て、「こんな安いギャラじゃ引き受けられない」と突っ返した。
でも企画自体は、欽ちゃんがMCってことで話が進んでいたので、
そっからスタッフは何回も足を運んで、ギャラを増やして交渉することにしたが、
「これじゃ安すぎる」「ケタ間違えてるんじゃないか」と、まったく首を縦に振らなかった。

もうしょうがないので、制作費で出せるギリギリの金額を提示して、
「すいません、もうこれ以上は出せません」と言ったところ、
「よし、これならやる」と、やっと承諾してくれた。
そしてすぐ欽ちゃんが言った言葉は、

「よし、じゃあこれ全部寄付してくれ」

 

 

昔飼っていた猫

小学生の頃、親戚の家に遊びに行ったら痩せてガリガリの子猫が庭にいた。
両親にせがんで家に連れて帰った。思い切り可愛がった。
猫は太って元気になり、小学生の私を途中まで迎えに来てくれるようになった。
いつも一緒に帰っていたけれど、六年生の林間学校に泊りがけで行っているときに
車に轢かれて死んでしまった。もう、猫は飼わないと思った。

年月が過ぎ、私は就職してバス通勤をするようになった。
仕事がうまくいかず、やめようかどうしようか迷っていた。バスを降りると
いつも我慢していた仕事の悩みが噴出して泣きながら暗い夜道を歩いていた。

そんなある日、バスをおりて歩いていると、少し先に白い猫がいた。
その猫は振り返りながら距離をとりながら私の前を歩く。坂を上がり、いくつもの
曲がり道を曲がって行く。私の家に向かって。家の前に出る最後の曲がり角を曲がると
その猫の姿はなかった。数日そうやって猫に先導されるように家に帰る毎日が過ぎた。

ある日、いつものように待っていてくれる猫を見て気が付いた。
しっぽをぱたん、ぱたんとゆっくり上げて下ろす仕草。
小学生の時に飼っていた猫と同じ。思わず猫の名を呼んだ。
振り返った猫は一声鳴いて、また家に向かって歩いた。

涙が出てしかたがなかった。心配して出てきてくれたんだね、ありがとう、ごめんね。
大丈夫だから、もう、安心しているべき所に帰ってね……。
後ろ姿に向かってつぶやいた。最後の曲がり角を曲がる前に猫は振り返った。
近づいて撫でたかったけど、近寄ったら消えてしまいそうで、もう一度つぶやいた。
ありがとうね、大丈夫だからね。 そして、猫は曲がり角をまがった。

なぜかふと、後ろが気になって振り返ると白い小さな塊がふっと消えて行く所だった。
そこは林間学校に行って帰らない私を待ち続けて猫が車に轢かれた場所だ

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