『人望の格差』スカッとする話【長編- 名作まとめ】

【長編- 名作】スカッとする話

 

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【長編- 名作】スカッとする話

 

人望の格差

職場で数年前に目の当たりにした話。

当時俺のいた部署には、A課長という人がいた。
この人はすごく仕事ができて、かつ性格は穏やか、
でも締めるところはきちっと締める管理職の鑑のような人。

一度、部下がやらかした大失敗を自分の責任として背負い降格したが、
人望も能力もあるので程無く再昇格したこともあるとか。

同じ部署に、B課長代理という人がいた。
こっちは、とにかくお調子乗りの気分屋というか、
常識的にどうかということまでへらへら笑いながらやっちまうタイプ。

飲み会とかで下戸の部下に悪乗りしてしつこくアルハラかまし、
そして悪びれないタイプと言えばイメージしやすいかな。

上司には媚びへつらう、部下には当たり散らす、
業績が思わしくない部下はねちねちいじめる。
営業の数字は良好だがどうも法令違反スレスレなやり口もしていたようだ。

おかげで、個人としての営業成績は(見た目上は)優秀だが、
チームを率いさせるとまったくダメで、しかも本人は「すべて部下が無能なせい」と言い張ってた。
そんな男だが、会社のお偉方には太鼓持ちよろしく機嫌を取ってたんで、若くして課長代理になってた。

あるとき、会社で大規模なプロジェクトが持ち上がり、
優秀な社員がかき集められて新規の部署を立ち上げることとなった。
で、A課長とB課長代理もそちらに異動することになった。
皆、心からA課長との別れを惜しんでたが、
B課長代理については「へー、そう」みたいな感じだった。

そして、異動直前の最後の日。
B課長代理は何を思ったか、「寄せ書きしてくれよ」と色紙を回してきた。
これって本人が希望するものだっけと俺は首を傾げたもんだが。
どうも本人は「自分は明るくて仕事もできるムードメーカー」
として皆に好かれていると思っていた節がある。

俺個人は、同じ部署とはいえ余りB課長代理と接点がなく、
被害を受けることも(ほとんど)なかった。
さりとてその人柄とやり口はさんざん実見していたので
「建前でも別れを惜しむようなことは書きたくないな」
と同僚間に色紙が回されているのをぼんやり見てた。

で、終業間際に俺のところにも色紙が回ってきたんだが、思わず吹きかけた。
色紙に書き込んでいる全員が全員、

「A課長、お世話になりました! 新部署でも頑張ってください」
「A課長がいなくなると寂しくなります。いつでも戻ってきてくださいね」
「新卒の頃、大変お世話になりました、A課長。本当にありがとうございました」

という感じで、A課長への感謝と惜別の念に溢れまくり、
B課長代理のことなんざ何一つ書いてなかった。

最初からA課長宛の色紙だったのかとも思ったが、
隅っこの方に「新天地へいくBへ一言」と
(おそらく本人が書いたのだろう)書き込みがあったので、それもない。

どうも、B課長代理との別れなんざ口先だけでも惜しみたくないというのは皆の総意だったらしく、
「異動するのはA課長もだし、この色紙はA課長宛のものだと勘違いしていたことにしよう」
と(先述の書き込みを意図的に無視して)皆、A課長に対してのみの言葉を書いていったらしい。

誰一人それに異議を唱えるどころか、全員が無言のままに足並みを揃えるというのもすごい話だが、
思っていた以上にB課長代理は嫌われていた模様。

俺もしばらく迷ったが、無言のままに右へ倣えで「A課長、ありがとうございました」などと書いて同僚に回した。
仲の良かった同僚がB課長代理に連日嫌味言われて鬱になりかけたのを見てたしな。
あえて擁護する理由は欠片もなかった。

で、その色紙が気の利いた社員の手により黒地の包装紙で包まれて、
B課長代理に手渡されるのを職場の端っこから傍観していた。

数ヵ月後、B課長代理が新部署で部下へのパワハラ・セクハラで問題を起こし、
さらに粉飾決算めいた営業数字の捏造まで暴かれて、降格の上で左遷されたと聞いた。

それまでは問題が起りかけてもゴマをすっていたお偉方に庇われて有耶無耶にされていたのが、
優秀な連中ばかりが集まった新部署では通用しなかったらしい。

復讐というより悪戯、もっというと因果応報、最後はただの自爆だが、
人望の格差というものをまざまざと見た気分だった。

 

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