話を戻そう。
マサさんは女の生命力が尽きない理由は、女が「風俗嬢」として毎日、数多くの男と交わっているからだと
考えていた。
しかし、例え毎日10人以上の男と交わっても、これ程までには持つはずはないのだという。
これは、ある種の「行」や「技法」を用いて数多くの男から精力を「奪い取っている」と考えなければ説明が
つかない。
しかも、これ程のレベルで精力を吸い取られた男は一度で体を壊し、それでも快楽に囚われて命を落とすまで
女の下に通い続けるだろうと。
しかし、そうなると、これは恨みや呪いの「念」により「無意識」に飛ばされる生霊ではなく、意識的に相手を呪う
「呪詛」の範疇なのだという。
だが、俺達に憑いているのは「生霊」であって「呪詛」ではない。
俺たちがマサさんのところに来て半年が経とうとした時に、マサさんは俺達に言った。
これから女の所に行くと。
俺に女の所に一緒に付いて来いと。
俺はマサさんにそれは危険なのではないかと言った。
悪霊はかなり弱くなっているが、本体に戻れば相手の霊力・生命力から考えて元の木阿弥に
なってしまうのではないかと。
…俺、取り殺されちゃうよ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
マサさんは言った。
Pは、自分と俺の「祓い」の為に2人分、2000万円のカネをマサさんに支払っている。
俺を「事件」に巻き込んだのはPだが、金を出す事でPは俺に対する義理を果たし、この事件に関して
俺に対する「因縁」は消えている。
しかし、俺はマサさんに金を支払った訳ではなく、マサさんに対する借り、「因縁」が残っているという。
場合によっては命を落とす危険もあるが「因縁」を消す為にも協力してもらうとマサさんは言った。
Pはマサさんと俺が女に会いに行って帰るまで、道場(敷地内にあった倉庫のような建物)で、
柱に錠と鎖で繋がれた状態で篭る事になった(井戸に引き摺り込まれない為)。
俺は半年目にして初めて敷地の外に出ることになった。
門の外にマサさんの車がある。
俺は手渡されたアイマスクをして、目を閉じて結界を越えた。
粘り付くような、厚いビニールの膜を押し破るような強い抵抗を感じた。
マサさんに習った「技法」に従って、丹田から両手に「気」を集めて熱を持たせ、
その手で「膜」を破って俺は結界の外に出た。
結界の外に出た瞬間、俺は意識を失った。
気が付いた時、俺は車の中だった。
運転しているのは行きに付き添ってくれたキムさん。
頭がガンガンする。
酷い船酔いをしたときのように目が回って気持ちが悪い。
「調息」を試みたが全く効果がない。
今にも吐きそうだ。
俺はマサさんに渡されたビニール袋に大量に吐いた。
吐いた後、暫くすると鼻血が出てきた。
「もう少しだから我慢しろ」とマサさんが言う。
キムさんがマサさんに「この兄さん、持たないんじゃないか」と言う。
マサさんが「一通りのことは出来るから大丈夫だ。手伝ってくれ」と答えた。
やがて車は狭い空き地に着いた。
車が一台止まっている。
行きに乗ってきたキムさんの車だ。
若い男が車外でタバコを吸っている。
キムさんに指示されていたのだろう、2L入りのミネラルウォーターのペットボトルが
2本入ったビニール袋をマサさんに渡した。
マサさんはボトルの中身を捨てると神社?の階段を昇って行った。
キムさんは、俺を神社の階段の前の石畳の上に寝かせ、頭頂部と胸に手を当てて、
半年間毎朝行ってきた瞑想と呼吸法が合わさったものを行うように言った。
キムさんの手を通じて頭から冷たい気、胸からは熱い気が入ってきた。
やった事がなければ判らないが、両手に冷・熱両方の気を通す事は非常に難しい。
俺やPなどは「熱」は作れても「冷」の方は殆ど出来ない。
キムさんも俺たちと同様の修行をしたことがあり、恐らくは今でも継続していて高いレベルにあるのだろう。
暫くするとマサさんが水の詰まったペットボトルを持って階段を下りてきた。
どうにか落ち着いてきた俺は一本目のペットボトルの水を鼻から飲み込み、
限界まで飲み込んだら吐き出すということを3回繰り返した。
2本目のボトルの水は、マサさんとキムさんが、俺の全身に吹き付けた。
それが終わると俺は階段を昇って神社の境内に入り、「激しい」呼吸・瞑想法を行った。
3時間ほど続けると俺は完全に回復した。
若い男が用意してあったGパンとTシャツ、パチ物のMA-1のジャンパーを着て車を乗り換えて俺達は出発した。
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