『傷跡』|【名作長編 祟られ屋シリーズ】

『傷跡』|【名作長編 祟られ屋シリーズ】洒落怖・怖い話・都市伝説 祟られ屋シリーズ

事件は振り出しに戻った。
俺とPは、千津子と奈津子の『力』によって負ったダメージから回復するために静養中のマサさんに相談してみた。
マサさんは言った。
「お前たちは、ひとつ大事なことを見落としているぞ?
もう一人、ミユキを含めた『エンジェル様』のメンバー全員を呪う人物がいるだろう」
「誰ですか?」
「判らないか?藤田の母親だよ。
それとな、川村が呼び出した天使『****』と言うのは、韓国のあるキリスト教会で猛威を振るった『巫神』……悪魔の名前なんだ。
その辺も含めてもう一度洗い直してみろ」

俺とPは、藤田・川村を中心に過去を洗い直した。
すると、意外な事実が浮かび上がってきた。
藤田家と川村家は、両家に子供が生まれる前から接点があった。
両家はあるキリスト教会の信者であり、その教会の牧師は韓国人だった。
俺の母親もクリスチャンだがカソリックなので、プロテスタント系の地元のその教会には通っていなかった。
その韓国人牧師には、韓国人聖職者にありがちな問題行動があった。
藤田の母親は、Pの実家が経営する店でパート店員として働き、一人息子の藤田を女手一つで育てていた。
藤田の父親は、藤田が小学生の時に自殺している。
川村の両親も、川村が中学生の頃から夫婦仲が悪化し、娘が心神喪失状態になると父親が家を出て帰らなくなり、やがて離婚が成立した。

Pが主に動いて、意外な、そしておぞましい事実が明らかになった。
藤田の父親の自殺と川村の父親の出奔の原因は、共に妻の不貞だった。
そして、妻たちの不倫の相手は、共に教会の韓国人牧師だった。
その牧師が川村と藤田の本当の父親だったのだ。
更に、川村の問題行動……藤田への悪質で執拗ないじめが始まる少し前に、凶悪な事件が起こっていた。
中学生になったばかりの川村は、血縁上の父親でもある韓国人牧師に強姦されていたのだ。
事件を揉み消すために、教会から信者に多額の金が流れ、問題の韓国人牧師は韓国に帰国していた。
この韓国人牧師は日本に来る前、韓国の教会で起こったある事件に連座して韓国の宗教界に居られなくなり、その過去を隠して来日していた。
その事件とは、聖職者数名が未成年者を含めた多数の信者女性を集めて『サバト』を開いていたというものらしい。
川村が呼び出した天使……いや、悪魔『****』とは、その『サバト』で呼び出されていたモノらしい。
どうやら、問題の韓国人牧師は日本でも『サバト』を開いていたようだ。
そこで、川村は牧師に強姦され、父親の自殺時に藤田が知ることになった自らの出生の秘密を知る事になったようだ。
川村が幼馴染の藤田に抱き続けた恋心は激しい憎悪に変わり、その憎悪は藤田が想いを寄せた菅田ミユキにも向けられた。

俺たちは、藤田の母親を問い詰めた。
藤田の母親は、驚くほどあっさりと、ミユキに脅迫状を送った事実を認めた。
息子を自殺に追い込んだ連中の幸せな様子が許せなかった……らしい。
だが、それだけではなかった。
韓国人牧師に逃げられた藤田の母親は、父親の自殺以降、自分に軽蔑の視線を送り続けていた我が子を『****』に捧げていた。
息子を生贄に、牧師の『寵愛』を奪った川村を呪ったというのだ。
狂っている……そう形容するしか言葉が思いつかなかった。
そんな、藤田の母親の怨念に再び火をつけたのは、息子が想いを寄せていた、菅田ミユキの結婚話だった。
ミユキはPのプロポーズを受け入れていたのだ。
そうだ、思えばPは小学生の頃、俺と一緒に李先輩の所に遊びに行っていた頃からミユキが好きだったのだ。
Pは、長いあいだミユキの相談に乗り続け、彼女を支えていた。
「水臭いじゃないか、P!
おめでとう。何で話してくれなかったんだ?」
「……全て片付いてから話すつもりだったんだ。
それに、ミユキと結婚する前に、やっておかなければならないことがあるからな」
「やっておかなければならないこと?」

「ああ、俺は、呪術の世界の一切と、マサさん達と今度こそ手を切る。
恐らく、すんなりとは抜けることは出来ないだろう。
だが、俺は、ミユキ以外の全てを失っても、絶対に抜けてみせる」
「そうか……」
「だから、お前とも……」
「判るよ……皆まで言わなくていい」
「すまない、俺がお前をこんな世界に引き摺り込む原因を作ったのに……」
「Pそれは違う……こういう形だっただけで、こうなることは必然だったんだ。
うまく抜けて、ミユキを幸せにしてやってくれ。
もし、俺がお払い箱になって足を洗うことができたら、その時は就職の斡旋でもしてくれよ」
「ああ、必ずな。待っているよ……必ず来てくれ」

俺は、ユファのことを弁護士をしている大学時代の友人に頼んだ。
彼女は、DVや少年問題をライフワークにしている。
彼女の活躍で、ユファには執行猶予が付き、実刑は受けずに済んだ。
しかし、彼女はもう手遅れの状態だった。
肝臓を完全にやられ、売春や薬物中毒といった経歴から恐れていた感染症にも罹患し、既に症状が出始めていた。
俺は、妹の久子にマミの診察と治療を依頼した。
最悪の事態も含めて、ある程度の予想はしていたが、マミは数種類の病気に感染していた。
だが、不幸中の幸いで、マミの罹っていた病気は、全て治療可能なものだった。
しかし、他方で、慢性化していた病は、マミから受胎能力を奪い去っていた。
そして、肉体よりも精神的なダメージの方がより深刻だった。
自殺願望が強く、拒食の傾向が顕著に出ていたのだ。

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