原作:◆txdQ6Z2C6o
おばけ屋敷|◆txdQ6Z2C6oシリーズ
中二に上がる前の春休み、部活のメンバーと遊園地に遊びに行った。
恥ずかしい話だけど俺は高所恐怖症で絶叫マシーンは全くダメだった。
部活のメンバーが絶叫マシーンに行っている間は俺は待ち時間が多かったけど、
家族で娯楽施設に行ったりなどしなかったので、普通に楽しかった。
あと待っている間は俺と同じように絶叫マシーンがダメだという先輩がいたので退屈はしなかった。
俺の部活は生徒会で、一年の俺は生活委員会のアシスタントの仕事をしていた。
そしてその先輩は生活委員会の副委員長で、いわば俺の直属の上司というような人だった。
彼女は大人しくて優しい人だったが、物凄く腹黒くて、表情の変化に乏しい人でもあった。
仮にその先輩を桜井先輩とする。
メンバーが待ち時間の長い絶叫マシーンのところで並んでいる時、桜井先輩は俺をおばけ屋敷に誘った。
俺は幽霊を見ることはあったけど、基本的に幽霊を怖いと思ってる怖がりな人間なので断った。
が、桜井先輩は立ち上がり、「おばけ屋敷で私が痴漢にあったら、○○君のせいね」と
一人でおばけ屋敷の方に向かって歩き出してしまった。
桜井先輩は外見大人しそうでモロに痴漢にあいそうなタイプだった。
なので俺は仕方なく桜井先輩と一緒におばけ屋敷に行くことになった。
おばけ屋敷はよく見かける和風なものではなく、洋風な内装で結構大きい施設だった。
桜井先輩とおばけ屋敷の中に入り、しばらく進むと、変なBGMがかかり始めた。
ひたひたと人間が裸足で歩き回る音。
その音がいつまでもついて来る。
俺は本格的だなと思い背筋が冷たくなった。
客を怖がらせてきたりする仕掛けが随所に見られ、それはもう怖かった。
でも桜井先輩は自分がおばけ屋敷に行きたいと行って俺を誘った割に平然としていた。
順路の後半にさしかかったところで、桜井先輩は立ち止まった。
本当は施設内で長いこと立ち止まったりしてはいけなかったんだけど俺も立ち止まる。
桜井先輩は「四月に生活委員長に就任することになった」と突然部活の話を始めた。
俺は普通に嬉しかったので「おめでとうございます」と桜井先輩に言った。
すると桜井先輩は顔を顰めつつ、
「君は部活を辞めるつもりみたいだけど、私は君を副委員長に任命するつもり。
後に委員長にも指名する。君は私の後継者だから」
と俺が驚くべきことを話し始めた。勿論そんなことは初耳だ。
それに部活を辞めるつもりだったことは友人Aにすら話してはいなかった。
俺は一年の間では悪名高く、副委員長なんかになったら桜井先輩の評判が下がると言って、
後継者はAにするように頼んだけど、桜井先輩はAのことは嫌いだといって、
俺を何が何でも後継者にする気だった。
さらに桜井先輩はお得意のマシンガントークで、校長が地域の権力者であること、
桜井先輩の後継者になり部活動を三年間続けたら推薦がもらえて、
俺の成績ならば100%推薦で高校に通ると、
何故桜井先輩が校長や俺の成績を知っていたのかは今でもわからないのだが、
桜井先輩の腹黒さの前にその場で俺は桜井先輩の後継者になると頷かざるをえなかった。
話がまとまった後も、俺は「先輩は腹黒い」と言ったり、桜井先輩は「あと一年君を鍛えてあげる」
というようなことを話して、立ち止まっていた。
その間にも不気味なBGMは流れ続けて、立ち止まって向かい合う俺達の周りをぐるぐるぐるぐる、
ひたひたひたひたと歩き回るような音がずっとしていた。
俺は苦笑いしながら「こうゆうおばけ屋敷のBGMって嫌ですね。特にこの足音はよくできている。超怖いです」
というような情けない弱音のようなことを桜井先輩に言った。
桜井先輩は首を傾げた。
「BGMはするけど足音なんてしないよ?」
桜井先輩は腹黒いことは言うけど、嘘をつく人ではなかった。
瞬時にそれが幽霊なのだと気づいた俺は「走りましょう」と桜井先輩の背中を押した。
桜井先輩は俺が幽霊見えたりする人だとは知らなかったけど、何かを察してくれて、
出口まで一緒に走ってくれた。
俺達は息を切らしながらおばけ屋敷から出た。
喉が渇いていたので二人でジュースを買い、近くのテーブルに座った。
桜井先輩が「足音聞こえたの?」と訊くので、「俺はずっとついて来ていた」と答えた。
すると桜井先輩は「あのおばけ屋敷は出ることで有名」と言うので、俺はまた先輩に驚かされた。
俺は怖い話が苦手なので知らなかったけど、そのおばけ屋敷は出ることで有名らしく、
桜井先輩は行ってみたかったけどさすがに一人で行くのは怖かったらしく、俺を誘ったようだ。
でも桜井先輩には何も見えなかったし何も聞こえなかった。
だからせっかく二人きりになったので、桜井先輩がずっと考えていたことを俺に伝えた。
でも連れの俺が聞いていたので、桜井先輩も驚いたし、怖くなったようだった。
「帰りのバスの話のネタにしよう」と桜井先輩は張り切っていた。
俺はというと、幽霊がついて来たりなんてしてたら嫌だなと思っていたけど、
桜井先輩が「ごめんね」と謝ってくれて、実は逃げる時に手繋いだりなんかしちゃってて、
桜井先輩の私服は可愛いし、そこまで先輩に信頼されていたことがわかって嬉しかったので、
一瞬で桜井先輩のことを許した。吊り橋効果で先輩のことを好きになりかけた。
その後、みんなのところに戻り、強い霊感持ちのAに会ったけど、Aに「桜井先輩と二人きりでどこ行ってたんだよ?」
みたいなことは言われたけど、幽霊のことは何も言われなかったので、その後ついて来たりはしてなかったんだと思う。
◆txdQ6Z2C6o シリーズ
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