原作:◆txdQ6Z2C6o
真下家|◆txdQ6Z2C6oシリーズ
いつもの友人Aとの話なんだけど、Aだと書きづらいんで、今回はこいつの名前を真下アキヒロ、お兄さんの名前をリュウイチとする。
うちの母方の親戚に県だか市だか忘れたけど議員と仲良い人がいて、
その議員さんから親戚は夏になるとプール(温泉もついてる大型施設)のタダ券を大量にもらっていた。
中二の夏もその親戚からうちにも大量にタダ券が送られて来た。
そのプールは車がないと行きにくい場所にあった。
うちはその時妹も小6で家族で一緒に行くには微妙な年頃だったので、
タダ券は学校や塾の友達にやることにした。
で、夏休みに突入し、7月も終わりの平日に真下のおじさんに休みが入ったんで、
おじさんがタダ券のお礼に真下三兄弟と共にそのプールに連れていってくれることになった。
真下家のワゴンに乗り込んだ時からおじさんは上半身裸でズボンの下に水着を穿いているというはしゃぎぶりだった。
松田聖子のアルバムを大音量でかけながら、おじさんはプールで逆ナンされたらどうしようと心配をしていたが、
実際その日に美人女子大生に逆ナンされたのはリュウイチお兄さんただ一人だった。
おじさんが運転中からすでにそんな感じだったので、保護者役は自然とお兄さんに回ってきた。
しかし、お兄さんは自分で「俺はダメ長男だから」と言い張るゆるい人で、その日も
「アキヒロと末弟の面倒見るのダルいから黒瀬君(←俺ね)と遊んでるよ」
という具合だった。
しかし弟君はアキさんを普段からアキヒロと呼び捨てにし、アキさんのことを完全になめていて、
リュウイチお兄さんの言うことしか聞かないことはお兄さんも重々承知していたので、
「じゃあ俺が末弟見るから、黒瀬君がアキヒロのお守りしてね」ということになった。
別に俺はアキさんのお守りに来たわけじゃないし、どちらかというと学校では俺のがボケだったんで、
プールについてからもお兄さんからお守りを念押しされて、その『お守り』の意味がよくわからなかった。
おじさんはスライダー系と施設全制覇に乗り出してしまい自分達は自分達でプールを楽しむことになった。
事件が起こったのは、波が出るプールでのことだ。
平日だったけど大波が出る時間は人で混雑していた。
それで、途中でお兄さんと弟君とはぐれて、アキさんと二人になった。
大波が終わって、浅瀬のとこで待ってたらお兄さん達と会うだろうと思い、俺達は歩いて浅瀬の方に向かっていた。
プールの水位が自分達の腰か太ももくらいのところに来て、急にアキさんが消えた。
どこいったんだと思って探していると、近くにプールの中に潜っているアキさんを見つけた。
プールの中に何か落としたのかと思って待っていたんだけどなかなか上がってこなかった。
俺もアキさんも泳げたので、溺れているのも考えにくく、
俺をからかっているのかと思って、俺はアキさんの腕を掴んで引き上げようとした。
するとめちゃくちゃ重くて、俺も転びそうになったんだけど、体勢を立て直して、
両手でアキさんの腕を掴んで引っ張ったら、今度はあっけなくアキさんを引き上げられた。
でもその後が大変で、水中から顔を上げたアキさんがその場で腹抱えてむせだして、
顔色も真っ青だったし慌てて浅瀬の方に連れてった。
アキさんの背中擦ったりしていると、お兄さんと弟君が俺らに気づいて、駆け寄ってきた。
やっと喋れるようになったアキさんは自分の足指して言った。
「足引っ張られて溺れた」
アキさんの足首を見ると、手の痕がくっきりと残っていた。
アキさんの話だと、足引っ張られた上にその上から押えつけられていて、
俺にはもがいている様には見えなかったけど、アキさんは必死でもがいていたらしい。
それで俺が気づいて引っ張ったときは、アキさんを掴む手と俺の引っ張り合い状態で、引っ張った感じが重かったんだそうだ。
幽霊嫌いの俺はその話聞いた時は顔引き攣りまくっていたと思う。
お兄さんはそんな俺の肩を叩いた。
「ちゃんとお守りしてくれてるじゃん。帰りまでお守りよろしくね」
そこでようやく気がついた。
お兄さんのいう『お守り』はそっち系の意味らしいということに。
その後プールでは何事もなく、俺達は閉園時間までその施設で過ごした。
ここで話は終わらない。
普段お店の経営者で休みなく働いているおじさんは一日中遊べたためか夜もハイテンションだった。
帰りの車の中、時刻は深夜を回ろうとしていた。
おじさんは車を山の方に走らせ、
「幽霊トンネルに突入しようぜ!大丈夫。なぜなら、俺らにはリュウイチがいるから!」と言い始めた。
全員霊感持ちの真下一家と心霊スポットなんていって、何も起こらないわけがない。
俺は半泣きで止めたが、俺の横でアキさんが、お兄さんの横で弟君も寝ていたので、反対勢力が足りなかった。
おじさんは快調に車を走らせた。
真下一家といるせいで、すでに山道に俺が普段見えないようなものがバンバンと見えまくった。
トンネルに入る前に、アキさんも弟君もヤバイ何かを感じとったのか起きあがって、
本気でおじさんに怒り出したけど、すぐに車はトンネルに入った。
松田聖子の曲にノイズと奇怪な音が入り始め、ラップ音が車内に断続的に響いた。
アキさんが物凄い力で俺の腕を掴んで、隣で念仏を唱え始めて、俺は本気で泣きたかったけど、
弟君がすでにマジ泣きして叫びまくってたんで、泣けなかった。
「リュウイチ。俺の足掴まれてる。すごいぞ」
「親父。後つけられてる。あと手形いっぱいつけられてるから帰ったら洗車しないとヤバイ」
おじさんとお兄さんだけが緊張感のない会話を繰り広げていた。
車揺らされたり、窓のところに幽霊張りついてたりしたけど、トンネルを抜けて、山を下りて、無事真下家に帰り着いた。
その時点でぐったりしていたんだけど、それでもまだこの話は終わらない。
おばさんは俺達見た瞬間、色々わかったらしく、おばさんに全員外で大量の塩をぶつけられた。
勿論おじさんはおばさんにお説教され、俺はそのまま帰って何かあったらいけないということで、その夜は真下家に泊まることになった。
その夜俺には何も起こらなかったけれど、眠るとアキさんは金縛りにあい、
アキさんのうめき声で起こされるので、疲れていたけど二人してゲームをして朝まで起きていた。
翌朝、おじさんとお兄さんだけが熟睡して、すっきりした顔をして起きてきて、
親子喧嘩やら、兄弟喧嘩やら、夫婦喧嘩まで始まりそうになり、本当に大変だった。
その日俺は絶対にもう二度と心霊スポットには行かないと心に決めた。
が、これ以降も不本意ながらオカルト関係のことには間接的、時には直接的に関わることになる。
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