【妖怪退治の仕事シリーズ】- 妖怪退治の仕事してるけど、何か質問ある?
初めて先生と仕事した時の話
短いエピソードをひとつ。
俺が初めて師匠と仕事した時の話だ
俺が初めて先生と仕事したのは、先生のところに転がりこんで3ヶ月くらいたった時だ。
それまでに一度仕事はあったんだけど、まだ早いと判断されたのか
連れて行かれなかった。
そんでその頃になると、最低限の仕事のタブーというか、そういうのを習い終わったので
連れて行かれることになった。
まぁ、あのままだったらただのただまし食らいだったしね。
はやく働けるようになってほしかったんだろう。
そして、肝心の仕事の内容なんだけど
トンネルに住みついた妖怪の退治だった。
先生によるとその仕事じたいは5年に一度やっているものらしくて
トンネルといってもそんなに大きなものではなくて。
ぎりぎり車が一台通れるかどうかの物で、長さも20メートルくらいとそんなに長くないやつだ。
そんで具体的な場所は伏せるけど、山に囲まれているような田舎にあるやつ
小さいけど、わりと地元の人とかにとっては大切な通り道だ。
今までは事故があったとか、人が死んだりとかそういう噂は一切ない。
しかし、小さな問題がひとつあって、「最後」って妖怪がよくすみついたりするらしい
「最後」というのは「サイゴ」と読むんじゃなくて
「もじり」って読む。
みんなはもじり術とか分かるかな?
わからないひとは多分ぐぐったりすると分かると思うんだけど
とりあえず昔の武器で、人を捕まえたりするための武器だ。
多分この妖怪もそっから来てるのかなぁ?と思うんだけど。
こいつはどんな奴か具体的にいうと耳を引っ張る妖怪らしい。
夜にトンネルと通ったりすると、耳を引っ張るんだ。
まぁ、ただそれだけの妖怪だから、ぱっと聞いた感じあんま実害はない見たいだし
放っておいてもいいと思うだろうけど
この「最後」に耳を引っ張られた人間がどうなるかというと風邪をひくらしい。
なんで、昔は夜の間にトンネルを通らないほうがいいとかそういうのもあったりするらしい。
まぁ、その田舎なんだけど、やっぱり爺さん婆さんが多いらしく
しかも、トンネルを通らないと病院に行けないので
たまに夜に通らないといけないときとかあったりするらしい。
そんときに、耳を引っ張られるんだよ。
じいさんばあさんだから、風邪になるともう大変だし、なんで地元の人たちがお金出しあって
何年かいっぺん追い払うことになってる
まだ中学生だった俺はまだなんというか世間知らずの部分があったので
とりあえずすべて先生の言うとおりにしていた。
先生に言われるままついて行った。
新幹線で1時間、ローカル線で1時間、地元の人が車で迎えに来てくれて
そこから約30分くらい?
例のトンネルが見えた。
なんというか、決して心霊スポットとかそういう風貌はしてなかった。
田舎なのに結構綺麗だった。
というか、田舎だからこそ、たまに掃除とかも町内の当番でやるらしい。
そのまま、車でトンネルを通り過ぎて、地元の割と金持の人の家に行き
挨拶をすることになった。
結構大きな屋敷だった。
なんというか、サマーウォーズとかあるじゃん。ぱっと見た感じ
あの屋敷の印象があった。
出迎えてくれたのは、60歳ぐらいの男の人で、髪の毛がバーコードだった。
とりあえず、先生は丁寧に色々話してたんだけど、俺は最初に頭を下げた後は
ただ黙ってそれを見ているだけだった。
おっさんのバーコードがすごい気になった。
そんで、夜に仕事をして、その後その家を宿にするらしい。
帰りは次の日の午後になった。
わりと強行軍で、バーコードのおっさんはもっと泊って行ってもいいぞといったけど
先生は割と強めな口調でそれを断った。
そして、夜中の12時になると、先生は俺をつれてトンネルに向かい始めた
歩きでね。
トンネルから屋敷まで車で30分はあった。
それだけの道のりを歩きでだ。
俺は正気を疑った。
しかも、割と荷物があって、それは全部おれが運ぶことになっていた。
まぁ、他にやれることないんだけど…
俺は先生に車とか出してもらえいいじゃないかと聞いたが
先生はだた黙って、首を振った。
そんで、歩いて屋敷からかなり離れたところでやっと口をひらいた。
田舎の田んぼ道で2人でただたんたんと歩くだけだったので
俺はすごくこわかった。
でも、先生から教わった仕事のタブーの一つが、仕事の時にもし怖い感情がまだある時は
決して口を開いていけないというものがあった。
なんか口から逃げていくららしい。陽の気というかそういうのが
普段なら構わないが、仕事前ならなるべく逃がさないほうがいいとか何とか
なんで、俺のほうからは黙っているしかないかった。
先生が口を開いてくれて一安心だった。
俺はしゃべらなかったんだけど、先生は歩きながら
あのトンネルのこっち側に住む人とはあまりかかわらないほうがいい。
的なことを言ってきた。
俺はなぜそうしないといけないのかよくわからなかったんだけど
とりあえず頭を縦に振った。
そんで、先生はそのあとも延々と細かい注意点を言い聞かせてくれた。
おかげてトンネルについたころは怖い感情は大分ぬけた。
というより疲れ過ぎてもうどうでもよくなってた。
帰りもこれかよ…と思うと地面にへたり込みたくなった。
ちなみに口を開かないのはあくまで準備の段階。
仕事中になったら、どんなに怖くても口を開かないと話に何ない時もあるしね
トンネルについた先生は、俺の運んだ荷物から、蝋燭を2,3取り出した。
トンネルの前は割と風が強くて、なかなか蝋燭がうまくつかなかった。
俺は先生に呼ばれて、蝋燭の前に立った。まぁ、風よけになれよ的な感じだった。
それでやっと、それで蝋燭の火はうまくついた。
先生はそのろうそくをトンネルの前に立てた。
割と太いタイプの蝋燭だから、普段ならたぶんそうそう消えないんだけど。
その時はやはり風が大きいので俺が風よけとしてトンネルの外に残って、蝋燭の火を見守ることにした。
先生は荷物の中から長いしめ縄と、お香の灰と米と塩を混ぜたものと、耳あて、あと大量の卵を出して
それを持ったままトンネルに入って行った。
しばらくするとトンネルのほうから先生が何やら歌う声が聞こえてきた。
トンネルの中はとても暗かった。先生は暗いままでも大丈夫なのか?と思ったが
そんなことよりもひとりになったのもあるし、トンネルのその暗さが無性に怖くなって
トンネルのほうに背を向けたまま、蝋燭を護るような形で立っていた。
しばらく、俺はぼんやり蝋燭の火や自分の影を見つめながら、気を紛らわすために鋼の錬金術の内容とか思う出していた。
ちょうどそのころそれの一期?がアニメでやってた。
妖怪退治なら、あんなふうにすぱーと手から光出してかっこよくやりたいなぁとか
その頃の俺はまだ夢見てた。
そんで、かなりたってからやっと、俺はとあるおかしいことに気がついた。
俺は蝋燭に向かって立っている。
蝋燭の影はもちろん俺側に向かって伸びていて、俺の影もそうなるはずだ。
でも
俺の影は蝋燭の真横を通る感じに、伸びていた
俺はそれに気がつくと、びっくりしちまって、すぐに振り返りたい欲求にとらわれた。
でも、いつも言っているように、夜道で振り返るのもタブーの一つ。
なので、俺は必死に我慢した。
よく見てみると、その影は俺自身の物にしてはシルエットが少しだけおかしかった。
なにがおかしいのかうまく表現できないんだけど
なんというかやけに頭が大きかった。
最初は光と影の加減でそうなったのかと思ったんだけど。
影がおかしいことに気がつくと、その違和感がどんどんと膨らんだ。
俺はその場で目を閉じた。怖くなったんだ。
それからどれくらい時間がたったのか。
かなりたったのは確かだと思うが、先生が戻ってきた。
先生は目を閉じてじっと立っていた俺に目を開けさせるとなにが起きたのか聞いてきた。
俺は目を開けるとすぐにもう一度影を確認したが、蝋燭の横に伸びていた影はなくなっていた。
ほっと安心して、先生に影の話をした。
先生は荷物をまとめて、俺に持たせると、俺を連れて屋敷に戻り始めた。
そんで戻り道で、「最後」って妖怪はよくトンネルとか屋根裏とかにでるらしいけど
彼らがわく場所にはもっと条件が必要だ
「最」って文字の由来は、大昔の中国で兵士が敵を倒したあと、恩賞をもらうために
敵の耳を集めるところからきたらしい。
そんで「後」って文字は道を歩いているときに、糸が足に絡みついたところからきた
ってらしい。
そんで「最後」ってのはどういう意味かというと
「耳」を集めた兵士を闇うちして、その「耳」を自分の物にして恩賞をもらう
って感じの状態を表している。
そして、もじりは罪人を捕まえるために使われる。
昔ではこの妖怪が住みつく場所には、
そういう風に闇うちされて手柄を持ってかれる人とかが死んで、その怨念にひかれて来るらしい。
俺はその話を聞いて、じゃあ、「最後」はその怨念を晴らすために罪人の耳を引っ張るんですか?
と聞いたんだけど。先生はそこまではしらんといった。
だた、このトンネルのこっち側の地域は多分昔部落だったといった。
地理的にはぴったりだしなといった。
そんときの俺は部落とかよくわかんなかったから、部落の意味を先生に聞いて
昔の罪とかで未だに妖怪が住み着くのか?とかおもった。
そんな俺の気持ちを察したのか、
先生は「最後」はそこまでしつこい妖怪じゃないし
普通一回追っ払うと、もう戻ってこない。
でも、戻ってくるということは、また何かしら新しく「怨念」が出来たからだ。
といった。
俺は新しい「怨念」?とぽかーんとした。
先生はさらに、だからこの場所の人とはあんまり接触しないほうがいい
なにがあるかわからんからな。
とそう、付け加えた
俺はおそるおそる先生にじゃあ、俺が見たあの影はなんですか?と聞いた。
先生はさぁ?「最後」かもしれんし「怨念」かもしれん。
または全然関係ないものかもしれんし、光と影の関係で出来た偶然かもしれん。
と答えた。
次の日、先生はお金を受け取ると、俺を連れてさっさと屋敷をさった。
俺は先生に晩御飯の用意ができたという旨を伝えた。
先生は分かった、着替えたら行くと答えた。
俺は先生が少し心配になったので、先生の部屋の外で先生のことを待つことにした。
しばらくして、先生は夜の仕事の時に着る予定の服を着て、出てきた。
俺は先生にさっきは何をしていたのか聞きたかったんだけど
なんだか口がうまく動かなくて聞けなかった。
あんな先生を見たのは初めてだった。
先日のトイレのこともあったし、ここにきてから先生の様子がどうにもおかしかった。
俺が何か言いたげなのを察したのか、俺と一緒に台所に向かいう間
先生はいつからこっちの心配をし始めた。自分のことでも考えておけ見たいな感じに茶化してきた
正直俺としては、先生の身に何かがあるのが怖いというか
また俺の知らないとこで、先生が何かを企んでいるほうが怖かった。
俺がそういう風な言葉を先生に返すと、先生は鼻で笑い返した。
そして、俺と先生は他の人たちと飯を食った。
なにを食ったか忘れたが、割とうまかった。
晩飯から2,3時間たった後。
儀式の時間になった。
先生と俺は準備するものを全部リュックに詰めて背負った。
現地までは弟さんに車で送ってもらい、一旦帰ってもらう。
つまり実際に儀式中は俺と先生とミサトさんの3人だけになるってことだ。
そんで、ことがうまく運んだら、また弟さんに迎えに来てもらうって感じだ。
そんで例の場所にたどり着いたのは夜の11時半あたりだった。
周りは真っ黒で、潮風が肌にまとわりついてやけに気持ち悪かった。
弟さんを帰すと俺と先生は早速準備を始めた
まず朝に削り取った石を皿のように使って、その上にミミズを乗っけた。
それをミサトさんが見つかった大きな岩の上に置いて、さらに周りに軽くお香の灰を撒いた。
そして、北と西のほうに一本ずつ蝋燭を立てた。
油紙で作った風よけの中に入れてつけると割と簡単に火はつく。
その後に、妖怪を呼ぶために色々と地面に仕込みを入れた後
塩水で濡らしたしめ縄でミサトさんを囲いこんだ。
主にこういう準備をするのは俺だったんだけど、先生はその間近くの湿った枝や葉っぱとかを集めて
中にミサトさんの髪の毛を2,3本入れて
炭や着火剤とかを駆使して、それを燃やした。かなりもくもくと煙はあがった。
夜であるおかげで目立ちはしなかったけどね。
これで大体の準備は整った。
時間にして2時間くらい使った。
そして、ここで先生が変な行動に出た。
俺が用意した、白い犬の血を取り出して、それで炭を溶かし
ミサトさんの来ていた額に筆で文字を描こうとした。
あ、ちなみにミサトさんのこの時の服装は割と厚着で、一番外には学校のジャージを着てた
こういう時は、なるべく使いなれたものを使うのがよかった。
俺はびっくりした。
これはかなり危険な儀式をするときにやることで、たまに魔よけとかにも使うんだけど
うちでは開天頂っていうやり方だ。
魂と肉体のつながりを弱くすることができるらしい。
ただし、今回の儀式でまったく必要のないことだった。
先生の行動に気がついた俺は、急いで例の合図でなに、してる?と聞いた。
しかし、先生は夜が暗くてよく見てなかったのか
それともわざと無視したのか、返事はしなかった。
俺は少し困った。
声を出して聞いてみるわけにもいかないのだ。
ミサトさんには儀式が具体的にどうなるのかはあんまり説明していない。
これはもちろん、現場でいざってときに小細工が出来るようにするためだ。
なので、何かおかしなことが起きていることをミサトさんにあんまり知られないほうがよかった
だが、先生の目的も分からないまま放っておいたら
何かしら自分に害が飛んでくる可能性もあった。
俺はそっと、用意した「奥の手」を荷物から取り出して、袖の下に隠した
先生は俺を無視したまま
ミサトさんの額に「下」と文字を書いた。
開天頂はすることによって描く文字が違う。基本的に「上」「中」「下」
の三種類の文字を使う。といっても、大分形が崩れた感じにしてる
主な作用は人間の額にある「火」を弱くして、体と魂のつながりを弱くするんだけど
「上」は男に使う時
「下」は女に使う時
「中」は老人に使う時って感じだ。
それが終わると、先生は俺に儀式を開始する合図を送ってきた。
俺はなに してる?ってもう一度合図送ったけど
またまた無視された。
しかたないので、俺は自分に与えられた役割の、儀式を開始する詩を歌った。
主な意味は、先日ここにいる子がおもてなしをうけたので
今回はお返しのために宴会を開いたので
あの時お世話していただいた妖怪さんぜひ来てください
的なものだ。
海の潮の音で俺の声は全然響かずにかき消されていく。
開天頂にかんしては、もうここまで来たら
先生は教えたくないってことだろうと俺は判断した。
他の仕事の時もたまに、こういうことがあったりする。
なんというか、師匠のほうが弟子にわざと教えない知識とかあるじゃん?
弟子に超えられないように。
今回のこれもそういうものなんじゃないか?って俺は思うことにした。
割と長い時間、俺は詩を呼んだ。
これは目当ての妖怪が来るまで続く。
つまり、来なかったらずっとやっていないといけない。
普通家とかでやれば割と10分、20分できてくれるんだけど。
そんときはかなりかかった。
そんで俺の喉が殆どかれきったときになって、突然岩に置いてあった石の皿がひっくり返った。
もちろん、風でひっくり返った可能性もあるけど。
こういう妖怪に対するお供えの皿がひっくり返ると、妖怪が来た証拠になるらしい。
遂に本番だ。
「皿」がひっくり返ったことを確認した俺は、すばやくつけていた蝋燭の火を消した。
相手側から訪ねてくるよう仕掛けた場合は火が彼らによって消されるんだけど。
こっちが宴会を開いて招待した場合。こっち側から消すのが礼儀だった。
そして、その間、詩を歌う仕事は先生にシフトする。
先生は妖怪に対して、ようこそいらっしゃいました。とりあえずそこにある
準備した食いものでもお食べください。的なことを歌う
蝋燭を消し終わった俺は次に銀の針を軽く生姜にさし、それでミサトさんの親指を刺した。
彼女の親指から赤い血が間違いなく出ているのを確認すると
その周りかこった縄を回収した。
回収した縄はそのまま枝とか燃やしていた焚火のところにほおりこんでおく。
しばらくすると、不思議なことに、黙々と上がっていた煙は減って行った。
大体殆どの煙がなくなると、それは妖怪がちゃんと宴会の席ににつき
しかも、こっちの話を聞いてくれる体制になったということだ。
それを見た俺は、先生に合図を送る。
すると、先生は今まで歌っていた歓迎の詩から一転
話し合いの形式の詩を歌い始める。
相手が宴会の食べ物を食ったあとに機嫌がいいときにこっちに都合のいいように話をすすめる
人間でもつうようする方法だよね。
俺は先生の詩が変わると、今度はすばやく枝や葉っぱで焚いていた火を消した。
ずっとつけたままだと、余計な奴が気になってやってくる可能性がある。
そして、火が完全に消えると、あたり一面は一層真っ暗になった。
月の明かりで完全に周りが見えないわけではなかったが。
もともと街灯ひとつもない場所なので、先生やミサトさんの顔すらまともに見えない状態だった。
ただ、立っている場所にぼんやりと人がいるのが分かるくらいだ。
俺はミサトさんだとおもわれる人影に近づいて、肩に手を載せて座らせた。
手が彼女の湿ったような髪の毛に触れると、●貞特有かもだが、一瞬ドキッとした。
そして、そのまま、その場所で先生の詩が終わるのを待った。
あらかじめ決めた段取りであると、そこで先生はこの中で座っている人間がいるが
その人間に関する記憶をお忘れになってほしいという内容の詩をいうはずだった。
妖怪からしたら、人間なんてみんな同じようなものだから分かりやすくするためにね。
しかし、そこでまた先生が奇妙なことをし始めた。
先生は妖怪にお願いを言う前に、突然詩をやめたのだ。
俺は何かアクシデントでも起きたのか?と一瞬焦った。
でも次の瞬間、何かガラスが割れるような音がした。
そこで俺は悟った、先生は殺陣をするつもりなんだと。
いつも言っているように、うちは妖怪を倒す、というより妖怪と交渉するのが主な仕事だが
ごく稀に、どうしようもない時に妖怪を「殺す」ことになったりもする。
なんか妖怪退治っぽいことだが、これはかなり難しく、危険なことだ。
これをうちでは「殺陣」と呼ぶが、殺陣はめったにしない。
よく昔話でも、人を食ったりする妖怪が封印されたりとかするだろ?
あれは倒せないから封印するってのは確かにあるが、例え倒せたとしても
殺しちゃいけないから生きたまま封印するってことも多い。
前にも妖怪をなぜ無暗に殺さないかって話をした気がするけど。
妖怪が人間に害を及ぼすのは大抵悪意があるわけじゃない。
ものすごい悪とかするやつは、殆どそう言う風にできているからそうするだけだ。
例えが悪いかもだが、台風が家とかをなぎ払ったりして、人を死なせたりするけど
台風自体はそれに悪意があるわけじゃない。ただ、そうなってしまうだけだ。
なので、その行為には罪が存在しない。罪が存在しないのに勝手に殺すのは不公平だろ?
もちろん、いたずらをして喜ぶ奴らもいるが、そう言う奴らの場合、自覚がある分
殺されるほど悪いことをしたりしない。
もし、人間にとって「悪い」ことをやつで、しかもそういうことをする必要がないのに
それを悪いことだと自覚したうえで、その悪さをする妖怪がいても、そういうやつほど強い力持っているから
単純に力不足的な問題で殺せない。
なので、殺陣というのは滅多にしないことだ。
俺は真っ暗な中、かなり混乱した。
流派ごとに、殺陣の初め方は違う。
大抵の場合殺陣を開始するにしても、そのふりをして妖怪を驚かして、逃げさせるやつ。
しかし、今度の先生の準備をみると、完全に「殺す」つもりだ。
この場合のやり方は「鴻門集」と呼んでいる。
多分「鴻門の会」とかなんとかから来てるんだろうね。
始め方はまず、妖怪を呼びつける。そのあと一通り宴会が終わったところで
儀式で使う光をすべて消す。
そのあと、お酒が入っていない酒瓶をたたき割る。
それが合図だ。
これが「殺せ」の合図になる。
準備するものは全部で2つ。まずはその殺そうとしている妖怪を倒すのに適した形の物
妖怪は物理的に物を動かせたりすると前にいった気がする。
これはつまり、同じように物理的なものの影響も受けるということだ。
もちろんすべてではないので、各妖怪に合わせて物を選ぶ必要がある。
もう一つは確実に妖怪の位置がわかるようにできるもの。
例え霊感があっても妖怪がはっきり見えるわけじゃないらしいので
その妖怪を一定の位置におびき寄せたり、誘導したりする必要がある
それをするためのものだ。
まぁ、正直準備自体はそんなに問題じゃない。ただ、本番がむずかしいのだ。
それに妖怪を呼びつけて、話し合うかと思わせながら、闇うちをするという形式のものなので
背信にも当たるような行為だ。
やってしまうと、それ以降妖怪に信用されなくなってしまうかもしれない
という大きな職業上のリスクも被うことになる。
つまり、それくらいの覚悟がないと、この殺陣をやってはいけないんだ。
妖怪退治の仕事シリーズ
1 太平洋側の島の話2 うちのじいちゃんの小さい頃の話3 止められていた4 相談者の姉 – 先生との出会い5 先生とマレーシアに行った6 初めての一人仕事7 倀8 先生の話 その19 先生の話 その210 鬼隠し11 先生の話 その312 初めて先生と仕事した時の話13 先生の話 その414 スクエア15 禁山16 先生の話 その5
コメント