『出会い』藍物語シリーズ【1】◆iF1EyBLnoU 全40話まとめ – 怖い話・不思議な話

『出会い』藍物語シリーズ【1】◆iF1EyBLnoU 全40話まとめ - 怖い話・不思議な話 シリーズ物

彼女は怪訝そうに眉をひそめた。 「何が『やっぱり』なの?」
「前に干渉された時の幻視で、幼い女の子を俺は見た。『L』と呼ばれていたが、違う。
確かにあの子にはLさんの面影があった。でも、あの子はLさんじゃない。」
「それで?」 彼女の顔色が蒼白く変わり、眼には刺すような光が宿っていた。
「あれは、あの女の子は、君だ。幼い頃、Lさんと同じように肉親を殺され、君は拉致された。」
彼女が左手を握りしめた、その手が小さく震えている。
「同じ哀しみを経験した君なら、Lさんの辛さが判るはずだ。頼む、彼女の術を解いてくれ。
術を解いてくれるなら、俺はどうなっても」
「...黙りなさい。」
少女の全身から、青い炎がユラユラと立ち上るのが見えた。
熱い。まるであたりの空気が燃えているようだ。チリチリと俺の髪と服が焦げる匂い。

「不愉快ね。」
「あなたの欲望に細工をすれば簡単だと思ってたけれど、それじゃ気が済まない。」
少女は俺を見下ろして微笑んだ。
「あなたの気持ちを変えるより、彼女の気持ちを変える方が面白そうだわ。
あなたの目の前で散々慰み物にされても、彼女は気持ちを変えずにいられるかしら。
どのみち妊娠の心配は無いし、楽しみね。」 腹の底から怒りが湧き上がってきた。
「やめろ!やめてくれ。そんな事をして何になる。不幸と憎しみの連鎖を生むだけだぞ。」
「『力』が手に入るわ。長い間、虐げられてきた私達の望みを叶える『力』が。」
「それは君達の組織の望みであって、決して君自身の望みではない筈だ。
他人の心や命を犠牲にしてまで叶える望みなんて、哀しすぎる。間違ってるよ。」
「あら、あなたはあの娘を救うためなら、私たちを犠牲にしても良いとは思わないの?」
「まあ、今はそんな事どうでも良いわ。そろそろお楽しみの時間よ。ほら。」
2人の男が部屋に入ってきた。ゆっくりと部屋の奥に歩いていく。

その時、俺の背後、手首の上で何かが動いた。
ふわふわの毛と、ロープを齧るような感触。管さん?

ロープが解けた。
俺は跳ね起きて走り、男たちに飛び掛った。管さんはシェパードほどの大きさになって
大蛇と睨み合っている。俺は何発か殴られたが、怒りのためか痛みは感じなかった。
1人を殴り倒し、もう1人に飛び掛った。倒れる男になぎ倒されるように少女も倒れた。
馬乗りになって殴り続けると、やがて男は動かなくなった。
菅さんは大蛇を部屋の外に追い出したのか、双方とも姿が見えなくなっている。

管さんのお陰で形勢は一気に逆転していた。
床に倒れた少女は上半身を起こしているが、男たちはぴくりとも動かない。
少女が悔しそうな表情でこちらを睨む。倒れた拍子にスカートが捲れたのか
白い太腿が露になっている。少女を見下ろしていると、激しい怒りに眼が眩む。
「Lさんにしようとしてた事、君にしてあげようか。どんな気持ちかな、自業自得だね。」
少女は俺の視線を辿り、あわててスカートを整えた。怯えた眼で俺から距離を取ろうとする。
俺は少女を押さえつけ、馬乗りになってセーラー服を引き裂いた。
下着をずらすと形の良い乳房が露わになる。少女は小さく悲鳴を上げた。
白く美しい裸体が目の前で震えている。激しい怒りが、暗く歪んだ欲望に変わっていた。
少女の乳房に手をかける。 「お願い、止めて。許して。」
一筋の涙が少女の頬を伝った。
その時、俺の心の中で何かが崩れた。俺は、一体何をするつもりだった?
それこそ、不幸と憎しみの連鎖を生むだけだ。狂った欲望は、既に哀しく醒めていた。
俺は少女から離れてのろのろと立ち上がり、上着を脱いで少女の体に掛けた。
「嫌な思いをさせて悪かった。あの娘を助けられれば、俺はそれで良いんだ。
君を酷い目に合わせるつもりなんて、全然無かった。本当に済まない。」
俺は部屋の奥に向かって歩き出した。姫が寝かされているソファへ。早く姫を。

「ふふふ。」背後で笑い声が響いた。
少女が、俺の上着を肩から羽織って立ち上がっていた。
「もう少しだったのに。あなた、面白いわね。」
激しい眩暈がして床に手をついた。
そこは俺の部屋で、目の前に着替えが散らばっていた。
壁の時計を見ると、どうやら「それ」は僅か1~2分間の出来事だったようだ。
幻視から醒めても、眩暈は一向に治まらなかった。

 

廊下を走る足音が近づいてきて、Sさんが俺の肩に手を掛けた。
「大丈夫?今、アイツの気配を感じたから。」 「...今回のはキツかったです。」
遅れて駆けつけてきた姫に俺を任せて、Sさんはホットウイスキーを作ってきてくれた。
それを飲むと眩暈が少し治まったので、リビングに移動してソファで横になった。
俺の顔色が相当に悪かったのか、あるいは夕食のためにダイニングへ移動しようとして
再びよろけて転んだのが悪かったのか、涙目の姫を説得することができず、夕食は
リビングのソファに横になったまま、姫に一匙ずつ食べさせて貰う羽目になった。
Sさんは姫と一緒に「はい、アーンして。」とか言って面白がっていたが、そのうち
先に1人で部屋に戻ってしまい、今回は俺の幻視の内容を聞かれる事はなかった。
俺は自分で食べられる事を何とか姫にアピールしたかったのだが、一生懸命で必死な
姫の顔を目の前にすると、先ほど判明した自分のセーラー服嗜好が後ろめたくて、
結局「スプーン食」を完食した(させて頂いた)。照れくさくて、辛い罰ゲームだった。

翌日、朝食後のコーヒーを飲みながら、Sさんが言った。
「昨夜の侵入経路を辿って、アイツ等の居場所を特定したわ。
既に『上』にも報告済みだし、今日中に対策班が踏み込むでしょうね。」
「アイツ等の計画は挫折して、Lさんを守りきれる、という事ですか?」
「対策班がアイツ等を完全に始末できれば良いんだけど、アイツ等だって
何とか逃げ延びて計画を完成させようとする筈だわ。だからおそらく今夜までが
山場になる。もう侵入の痕跡を残すのを怖れる必要も無いし、
一か八かで、R君に最大の干渉を仕掛けてくる筈。」

 

「だから罠を掛ける。」とSさんは言った。
「夕方から夜にかけて敢えて意識のコントロールを外す時間を作り、
アイツからの干渉を待って反撃する。」と。
「怪しまれませんか?第一、最大の干渉に僕の意識が耐えられるかどうか。」
前回の干渉を受けた時のダメージを考えると、正直全く自信が無かった。
「コントロールを外す時間をランダムにすれば怪しまれないし、
今度は私が付いてる。君の意識に私の意識を繋げておいて、
干渉があった瞬間に全力で反撃する。一気に決着を付けるわ。」
「干渉があるまでは、待っていなければいけないのでしょう?」 姫が問い掛ける。
「当然、そうなるわね。」 「じゃ、私の意識も繋げてお手伝いします。
そういうのは得意だし、2人より3人の方が、お互いの負担は小さくなりますよね。」
「あの、SさんとLさんの意識を僕の意識に繋げたとしたら、干渉を受けた時の、え~と
その、幻視は2人にも見えるんですか?」 もしそれだと俺のセーラー服嗜好が2人に。
「見えるけど、君が見ているものと全く同じかどうかは...」 Sさんが口ごもる。
「全く同じように見えた方が好都合ですよね。その方が反応し易いし。」 姫が微笑む。
これはもう覚悟するしかないんだな、と心を決めた。そう、色々な意味で。

昼食を済ませた後、俺は部屋で本を読んでいた。ふと、時計を見る。
2時40分だ、俺は読みかけの本を置いて部屋を出た。いつも3時頃には
皆でお茶かコーヒーを飲むことになっていて、その日は俺が当番だった。
リビングでカップやポットの準備をしていると、Sさんが駆け込んできた。
「あれ?」 「え?」 「君、何ともないの?」 「はい。」 Sさんは戸惑った顔だ。
「何かあったんですか?」 「確かにアイツの気配を感じたんだけど、おかしいわね。」
「僕は何も」と言いかけてハッとした。いつもなら俺の当番を手伝ってくれる姫がいない。
「あああ、あの、姫、いやLさんが。」 Sさんがものすごい勢いで走り出した。
俺も慌てて後を追う、姫の部屋へ。何故俺ではなく姫が...
Sさんがドアをノックして「L!L!」と呼び掛ける。返事がないと見るや
Sさんはドアを開けて中へ飛び込んだ。俺も続いて部屋の中に入る。

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